TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#4】クラフトが支えたブラジリアン・モダニズム
執筆:Gallery CASA DE
2025年7月30日
最近、「クラフト」や「工芸」といった言葉が、あらためてデザインの世界で注目されています。整いすぎた均質さよりも、歪みやゆらぎの中にある美しさ。時間をかけて生まれるものの魅力に、私たちの感覚が引き寄せられているのかもしれません。
そうした目で見てみると、ブラジルのモダニズム家具も、ただの「古いデザイン」ではなく、今の感覚にこそ響く何かがあるように感じます。熱帯の木材を惜しみなく使い、土の香りが残るような手仕事で仕上げられた家具たち。そこには、工業製品にはない、文化や風土に根ざしたあたたかさが感じられます。
例えば、セルジオ・ロドリゲスの椅子は、大胆で彫刻的なデザインなのに、どこか愛嬌がある。リカルド・ファザネロの作品も、木を使わずに工業素材でできているのに、不思議と手仕事のぬくもりが感じられる。どちらも、素材と真剣に向き合いながら、「生きている家具」をつくろうとしていたように思います。今も彼らのアトリエでは、家族や弟子たちがその思想を受け継いで制作を続けています。
ロドリゲスもファザネロも、「土地」や「素材」や「手しごと」を大切にする気持ちを、近代的なデザインの中でも手放さなかった人たちでした。工業化が進む中で、あえて型に収まらない、そんな姿勢が、世界中で広がっていたモダニズムに対して、ブラジルならではの独特な進化をもたらしたのかもしれません。
これまでのコラムでは、ブラジルデザインに息づくさまざまな価値観を探ってきました。異なる文化が交差して生まれた感性、自然との共生、手しごとの精神、暮らしに寄り添うかたち。それらはどれも、大量生産とは少し違う、「自由さ」と「ぬくもり」を宿しているように感じます。
では、ブラジリアン・モダニズムって結局なんなのか?
私たちは、その答えを一つに定めることはしていません。昨年の企画展では、会場に「コミュニケーションボード」を設けて、来場者の方々に自分が思う「ブラジリアン・モダニズム」について、自由に書き込んでもらいました。正解のない問いを共有しながら、一緒に考える。そこからまた新しい発見が生まれて、次のデザインにつながっていく。そんなやりとりが、これからの文化を育てていく気がしています。
ブラジルに限らず、世界にはまだたくさんの“知られていないモダニズムデザイン”が眠っています。私たちも、そうした歴史を少しずつ掘り起こして、また皆さんに紹介していけたらと思っています!
プロフィール
Gallery CASA DE
ぎゃらりー・かさで|ミッドセンチュリー期を引き継ぐアトリエによるリ・エディション家具からコンテンポラリー家具を取り揃えるギャラリーとして展開。展示会や企画展なども行っている。ショールームは予約制。Instagram、HP、電話のいずれかから問い合わせ可能。
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