TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#2】Future Days Shopの日常と7インチレコード
執筆:Tomo Katsurada
2025年7月19日
アムステルダムの夏は驚くほど心地よく、1年を通して「冷房が欲しい」と感じる日はせいぜい3日ほど。
『Future Days Shop』の店内は縦長で天井が高く、風通しも良いため、真夏で快適に過ごせます。
7月になると、地元の人たちは休暇で街を離れ、その代わりに世界中から観光客が訪れます。お客さんはおよそ半分がオランダ人、もう半分が海外からの旅行者。
お店のコンセプトもあり、世界各国からアーティストやミュージシャンなど、クリエイティブな方々が多く訪れてくれます。嬉しいことに、北米やアジアからヨーロッパをツアー中の友人たちがよく立ち寄ってくれます。
国籍も年齢も人種もさまざま。でも共通しているのは、“世界観・ユーモア・好奇心でつながる”という感覚。そんな空間を、パートナーのEloïseが中心となって丁寧にキュレーションしています。
僕たちはまだオランダ語が堪能ではないため、普段の接客は英語です。オランダでは英語のみでもお店を営み、地域とつながることができる——これはこの国ならではの特性だと思います。
日本で考えると、日本語が通じないお店が成り立つのはなかなか難しいこと。それが可能なのがオランダ。長い時間をかけて育まれた国際感覚と、多様性への深い理解があるからこそだと感じています。
この寛容さ、多文化への受容性、そして英語の通用度の高さ——実店舗を構え、地域と関わるようになってから、その懐の深さを日々感じています。
ただし、この寛容さに甘えてばかりもいけないとも思ってて。移民として、オランダの文化や言語を学び、敬意をもってこの地でお店を営んでいきたい。享受するだけでは、多文化共生のバランスが崩れてしまう。そんな気持ちで日々を過ごしています。
さて今回は、当店で扱っているレコードについて少しご紹介したいと思います!
お店をつくるにあたって特にこだわったのが、心地よくレコードを試聴できるスペース。
バンド時代に世界中のレコードショップを巡った経験をもとに、“理想の視聴体験”をイメージして自ら設計し、友人に制作してもらいました。
選択肢が多すぎると、何を聴けばいいか迷ってしまう。
自分たちのお店はレコード専門店ではないので、1時間ほどでじっくり楽しめる枚数に絞ってセレクトしています。ツアー中には、時間のあまりないなかレコードを探してた経験もあって、自分の理想の視聴コーナーのサイズ感を見つけました。
お店のレコードは僕たちが好きで家にも置いているものも多くあります。
さらに嬉しい声は、女性のお客さんから「ここでは安心してゆっくり試聴できる」と言っていただけること。
世界中の多くのレコードショップが、女性にとって少し敷居が高く感じられる空間であることも少なくありません。レコードプレイヤーの使い方も、希望があれば丁寧にお教えしています。
視聴スペースの中央に飾っているのは、僕が「日本一かっこいい」と思っているレコード。横尾忠則さんが手がけた豪華なピクチャーディスクで、長年探していた憧れの一枚です。友人が見つけてくれて、ようやくお店に飾ることができました。音楽は舞台のサウンドトラックのようで、高倉健さんも登場したり。特に、フラワートラベリンバンドになる前の「フラワーズ」による即興サイケデリックセッションは圧巻です。
店内では、僕と妻がセレクトしたプレイリストを流しています。音楽は空間の雰囲気をつくる重要な要素。土曜日には僕自身もDJブースに立っています。音楽によって空気が変わる瞬間は、何度味わっても楽しいです。
その日のDJを録音して、後日視聴ステーションでブートレグミックステープ販売することもあります。
さて、今回ご紹介するのは、僕の“知られざる名カバー集”からの7インチレコードたち。
1. Angel Corpus Christi & Dean Wareham
『Je T’aime (I Wanna Boogie With You)』(1998年)
一曲の中で二曲をカバーしてしまう、驚きの7インチ。
原曲は Serge Gainsbourg & Jane Birkin の「Je t’aime… moi non plus」と、Lou Reed の「I Wanna Boogie With You」。
まったく違和感なく一つの曲に溶け合い、聴けば聴くほどクセになる、不思議で魅力的なカバーです。
2. Damon & Naomi with Batoh & Kurihara
『It’s All Over Now, Baby Blue』(ライブ録音 / 1998年)
僕が一番好きなBob Dylanの曲であり、このカバーは数あるこの原曲のカバーの中で個人的に最もお気に入りです。
栗原ミチオさんのサイケデリックギターが鋭く、そして美しく響き渡ります。儚くも深く染み入る名演!
3. Angel’in Heavy Syrup
『僕と観光バスに乗ってみませんか』(オリジナル:森田童子)
90年代に活動していた日本の伝説的ガールズサイケバンド、Angel’in Heavy Syrupによる一枚。1991年にリリースされた音源が、2022年にP-VineとAlchemy Recordsによってシングルとして再発。
カバーしているのは森田童子の「僕と観光バスに乗ってみませんか」。
もし森田童子がバンドだったら——そんなありえない想像を現実にしてくれる、夢のようなカバーです。
まだまだ紹介したい名曲はたくさんありますが、今回はこのあたりで。
最近また、自分でもカバーを録音したいという気分になってきました。
僕にとっては、究極のカラオケのようなものかもしれません。
次回は、店の奥にあるテキスタイルワークショップ「Inner World Studio」の紹介と、僕のHIPHOP 7インチコレクションからいくつかのお気に入りをご紹介したいと思います。7インチで聴くHIPHOPは、また格別です。ではまた次回!
プロフィール
Tomo Katsurada
とも・かつらだ|サイケデリックバンド Kikagaku Moyo の創設者であり、ギター・リードボーカルとして世界的に活動。バンドの無期限活動休止後は、オランダ・アムステルダムを拠点にソロアーティストとしてのキャリアをスタート。2025年には、デビューソロアルバム『Dream of the Egg』を携え、初のヨーロッパ・ソロツアーを成功させる。
自己探究の延長として始めた7インチレコードの収集をきっかけにDJ活動も展開し、J-WAVEやWorldwide FMにてラジオ番組を担当。テキスタイルアーティストであるパートナーの Eloïse Ptito とともに、2024年6月にアート・音楽・衣服を融合させたコンセプトストア『FUTURE DAYS SHOP』をアムステルダムにオープン。
Instagram
https://www.instagram.com/bootlegbunny/
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