TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#3】看護師さんの体験
執筆:稲川淳二
2025年8月28日
ずいぶん前の話になるんですが、
私、前立腺がんの手術で入院したんです。
ほんと、寝ている間に終わって、すぐに歩けるぐらいでした。
時間を持て余して、夜中に、ナースステーションへ行っちゃ、
若い女性の看護師さん達を相手に、怪談を聞かせてたんですがね。
それが皆、怖がるんだけど、楽しみにしてくれて、待ってるんですよ。
既に消灯になって、暗く寝静まった病棟ですから、
ことさらに、雰囲気も盛り上がってね。
と、そんな時に、ベテランの看護婦長さんが、ご自身の体験を
聞かせてくれたんですよ。
それは、深夜の巡回で、懐中電灯を持って、入院患者のいる病室を、
ひとつひとつ見て回っていると、
暗い廊下の奥に、かすかな明かりがもれているのが目に入った。
(まだ起きてるのかな)と思ったんですが、
この先には、個室が3つあって、今はどれも空き室で、
人はいない事に気が付いて、確認の為に、行ってた。
すると、一番奥の個室の扉のガラス窓から、ブラインドを通して、薄らともれている明かりだった。
この病室は、放射線療法の入院患者が使用する為、
病棟の一番端にあって、
表立っての標示はないのですが、一種の隔離病室になっていて、
時に応じて、入室が制限されたり、禁止されたりして、
見舞は勿論、病室の清掃員も、入室出来ない事もあるんだそうです。
(・・・はて、何の明かりだろう)
と、引戸になっている、扉を開けて、覗いてみると、
闇の中で、テレビがついていた。
(誰が、何時つけたんだろう?
夜中は、1時間置きに、巡回しているから、明かりがついていれば
気が付くはずなのに・・・・。
それとも、誰かいるんだろうか?・・・・)
と、思った瞬間、背筋がゾーッとした。
普段は、壁に押し付けるようになっている、薄型パネルのテレビのアームが、
グーッと突き出して、ベッドの頭の方に、画面が向いている。
まるで誰かが、寝ながらテレビを観ているようで、
ふっと、先日亡くなったAさんが、
深夜に寝ながら、テレビを観ていたのを思いだして、
慌ててテレビを消すと、個室を飛び出した。
それから、1時間して、巡回の時刻になったんで、
懐中電灯を持って、静まり返った病棟をやって来た。
気になるもんですから、
暗い廊下の奥を、見るともなく見てみると、かすかな明かりが目に入った。
(まさか?!)
と思って、行ってみると、
一番端の、さっきの個室の扉のガラス窓から、明かりがもれているんで、
背筋がゾーッとした。
さすがに気味が悪いんですが、確認しなくてはならないんで、
そーっと扉を開けて覗くと、
闇の中で、テレビがついていた。
恐怖心から、思わず、
「ど・・どなたかいるんですかァ?」
と、声を掛けて、病室に入った途端、テレビが消えた。
音の無い、真っ暗闇の中に、凍り付いたまま、
突っ立っていると、不意に、
「どうしましたァ・・・・?」という声が、スピーカーから流れた。
「えっ、誰がナースコールをしたんだ?」と思ったその時、
後ろで、
「うーっ」と呻き声がした。
もう慌てて、病室を飛び出したそうです。
・・・・それが、私の隣の個室の話だったんですよね。
プロフィール
稲川淳二
いながわ・じゅんじ|怪談家・工業デザイナー。33周年全国ツアー『MYSTERY NIGHT TOUR 2025 稲川淳二の怪談ナイト』33年連続公演 開催中!
稲川淳二の『稲川芸術祭2025』作品募集中。
YouTube
https://www.youtube.com/channel/j-inagawa-memorial
Official Website
https://www.j-inagawa.com
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