カルチャー

TOWA TEIとシャッポ、進化する60歳の音楽と24歳の不思議な音楽。【後編】

2025年6月16日

photo: Kazuharu Igarashi
text: Izumi Karashima

ニューアルバム『AH!!』をリリースしたTOWA TEIさん。今回は、アルバムにも参加しているシャッポの福原音さんと細野悠太さんで語り合いました。1964年生まれで還暦を迎えたTEIさんと、2000年生まれで24歳のシャッポの2人。36歳差の鼎談、後半は本作の制作秘話満載です。

下手なポリスみたいにしてくれとTEIさんが。

TOWA TEI

僕ら金延さんのライブで会ったじゃない。

福原音

はい。いろんなお話聞いて……。

TOWA TEI

で、慌てて僕の音楽を聴いたんでしょ(笑)。

福原音

はい(笑)。

TOWA TEI

正直(笑)。

福原音

それで、え、こんなすごい人だったんだ! とびっくりして。で、TEIさんの曲をいろいろ聴くうちに、「MARS」という、クラムボンの原田郁子さんが歌ってる曲をすごく気に入って。好きな女の子にプレゼントしました(笑)。

TOWA TEI

いい話(笑)。

福原音

悠太くんはもっと昔から聴いてたんだもんね。

細野悠太

DEEE-LITEとかMETAFIVEとか、カッコいいなと思って聴いていたんだけど、いまのTEIさんと結びつけずに聴いてたから、自分の中でちゃんとつながってなかったんです。

福原音

そう、僕もMETAFIVEのイメージが最初は強かったなあ。

細野悠太

マネキンだったのに急に生身の人間になる人っていう(笑)。

福原音

そして『スッキリ!!』でずっと写真撮ってた人っていう(笑)。(注:意味不明の人はYouTubeで検索)

全員

あはははは!

TOWA TEI

それでまあ、今回のアルバムをつくっていて、「WELCOME RAIN」という曲の骨格ができたときに、いままでやったことない人を招き入れて曲をつくりたいなあとなんとなく思って、シャッポにお願いしたんです。「ここから好きにやってみて」と。

福原音

託されてしまいました。

TOWA TEI

この曲は、タイトル通り、“ウェルカム雨”という曲なんだけど、雨は嫌いっていう人はけっこう多いじゃないですか。最近は水害とかも多いし。でもやっぱり、人間が生きていくためには雨水は必要なわけで。人間だけじゃなく地球上の生命みんなに必要。今回、アルバム全体がそういうコンセプトなんです。「INCECTA(昆虫記)」という曲もあるんですが、昆虫って苦手な人が多いじゃない。僕も昆虫食は嫌いなんだけど(笑)。でも、受粉から分解までを担い、堆肥をつくり、地球の役に立っていて、食物連鎖のキーになっている。人生無駄なしっていうかね。そういう話は2人には細かくしなかったけれど、きっと意図を組んでくれるだろうと。

福原音

オケと指示書をもらったけれど、超自由でした。構成を伸ばしでもいいし、オーバーダブしてもいい、なにやってもいい、と。ただ「下手なポリス(注:POLICE。ご存じイギリスのレジェンドバンド)みたいになったらおもしろい」とだけ書いてあって(笑)。

細野悠太

ヘタポリス(笑)。てか、下手なポリスはムズいですよ。

福原音

そもそも下手だったらポリスじゃないし(笑)。

TOWA TEI

ヘタウマポリスみたいなね(笑)。ポリスのことは今回2回くらい考えたの。もう1曲は、「LUDLOW」という曲で。あの曲、ちょっとポリスっぽいでしょ?

シャッポ

あ〜!

福原音

たしかに。音の透明さというか、コード感というか。

細野悠太

なぜポリスのことを考えたんですか?

TOWA TEI

「ドゥドゥドゥ・デ・ダダダ」をあらためて聴いたときに、やっぱうまいなあって(笑)、当たり前なんだけど。で、「WELCOME RAIN」はピアノで仮メロが入ったものを渡して、2人の歌は聴いたことがなかったけれど、「歌もうたってくれていいよ」と。

福原音

シングル1枚しか出してない僕たちに。

細野悠太

しかもインストしか出してないのに。

福原音

頼むんだ! っていうのにけっこうビックリしました(笑)。

TOWA TEI

僕、わりとそうなんです。しゃべっただけでなんとなくわかるんですよ。この人、歌うといいんじゃないかなあと思っていきなり歌わせたりね。

福原音

最初はギターとかベースを弾くぐらいな感じかなと思ったら、アレンジまで委ねられて。TEIさん、大ギャンブルだなって(笑)。

TOWA TEI

でも、すごいなと思ったのは、MiyaちゃんっていうÅlborg(オールボー)というグループのボーカリストを2人が仮歌に呼んだこと。

細野悠太

いやあ、僕ら歌いたくない人なんで。

福原音

どうしようかなあと思ったんですが、最悪ジャンケンで歌ってもいいかとも思ったんですが、やっぱり誰かに歌ってもらおうと。それでMiyaちゃんにお願いしたんです。

TOWA TEI

でもさ、シャッポのファーストアルバム、歌ってるじゃない2曲ぐらい。

細野悠太

無理矢理1曲づつ歌ったんです。

TOWA TEI

それをデビューでやっとくと楽よ。歌わずにいると「いつ歌うんだ?」って変なプレッシャーがかかるから。僕もファーストアルバムで「甘い生活」という曲で歌ってるんです。野宮真貴ちゃんがボーカルなので、バックコーラスとして薄く入ってるだけなんだけど。当時のマネージャーは坂本龍一さんと僕のマネージャーだったんだけど、僕がトイレに行ってるあいだに、エンジニアに「More! More!」って僕の声の音量を上げようとしてたのよ。「お願いですから、やめてください」って言いましたけど。

シャッポ

あはははは!

TOWA TEI

どういう経緯でMiyaちゃんに仮歌を? ご飯奢るからとか、そういうことで?

福原音

この曲は僕がアレンジ作業してたんですけど、やってるうちに歌モノだし輪唱やハモリのアイデアが色々浮かんできて。でも、自分で歌っても感じが出ないなと。自分の声が好きじゃないので。Miyaちゃんはレーベルも同じでその頃仲が良くて、僕がたまたま事務所で1人で作業していたときにMiyaちゃんが近くにいたから、「ねえ、ちょっと歌ってみようよ」って。

TOWA TEI

なにそれ、暇人の集まり?

シャッポ

あはははは!

福原音

でも、仮で歌ってもらったら、思いのほかよかったんです。たぶんTEIさんが考えていたニュアンスと遠くない声かもと。

TOWA TEI

いいと思った。輪唱のアイデアもよかったし。それで僕がMiyaちゃんをちゃんとディレクションすればもっとよくなるなと。

福原音

すごくよくなりました。あと、ギターとベースのコンビネーションを2人でつくったり、ガムランとかヘンな音を入れたり。

細野悠太

そうだ、入れたわ、ヘンな音。

福原音

ヘンな音が全部採用されました(笑)。

TOWA TEI

やっぱさ、若いときって穴があったら入りたいとかさ、そういうところあるじゃないですか。それを求めたのかもしれないね、若者に。還暦になるとさ、穴があっても入らないから。

シャッポ

なるほど〜。

TOWA TEI

ん? わかってます? 僕いま下ネタ言ってるんですよ。

福原音

え、そういうこと? 

細野悠太

チェリーボーイには厳しい(笑)。

TOWA TEI

え? チェリーボーイなの、きみたち?

細野悠太

この話はもうやめましょうよ。

全員

あはははは!

TEIさんに学んだチャンスオペレーション。

福原音

Miyaちゃんをボーカルに使うこととかも、僕は仮歌でなんとなくプレゼンしてみたものの、全然ダメ元だったんです。ていうか、普通はそうしないじゃないですか。でもTEIさんはそういった部分を、むしろそこから広げていくんだな、というのがおもしろかったんです。

TOWA TEI

全部直感なんですよ。やってみないことには結果がわからないじゃないですか。だからそういうのを「チャンオペ」って僕は言ってるんです。チャンスオペレーション。

シャッポ

チャンオペ!

TOWA TEI

僕の好きな言葉。「チャンオペをいかに起こすか」が自分の使命だと、けっこう昔から思ってて。例えば、オレはDJのTOWA TEIだ! とか、元DEEE-LITEだぞ! とか、そういうことにこだわると、ルーティンが増えてしまうんですよ。安定の、超一流ミュージシャンとしかやらないとかになっちゃうから。そうするとチャンオペは起こりにくい。想定内なので。だから、想定外の右上なり右下なり、おもしろいことを起こすには、直感だなと。

シャッポ

なるほど〜。

TOWA TEI

昨日横尾忠則さんに会ったんです(注:今回のアルバムジャケットは横尾さんが描き下ろしたTEIさんの肖像画)。金言だらけだったんだけど、横尾さんが「もう年だから考えなくなるわけよ」って言ったの。どういうことかというと、横尾さんはもともとグラフィックデザイナーだから、デザイナーだったときはクライアントがいるから「考えることが仕事だった」と。でも絵描きになって「考えなくなった」。そして「年を取ってさらに考えられなくなった」。でも「考えなくなったら生きやすくなった」と言うんです。そして「考えなくなったら不思議なことが起こりやすくなった」と。だからたぶん、「考えない」というのは、僕なりに直訳すると「直感に頼る=考えない」ということで、だから不思議なことが起こるんだろうなと。つまり「チャンオペが起こりやすい」ということなんだろうなと思ったわけです。

シャッポ

なるほど〜。

TOWA TEI

だから温泉行くわけです、僕は。

福原音

あ、そこにつながった!

細野悠太

伏線回収(笑)。

福原音

でも、そういうTEIさんの考え方は、僕らのアルバムづくりでもかなり影響されました。

TOWA TEI

え、そうなの?

福原音

ちょうど自分たちのアルバムをつくっていたときにTEIさんの曲があって。

細野悠太

タイミングがばっちり合ったもんね。

福原音

そして、そもそも僕は悠太くんとしかやったことがないので、それ以外の人とガッツリ一緒にレコーディングをやった初めての人がTEIさんだったんです。だから、ちょっとした偶然とか、フェイクとか、ミスを逆に拾うとか、そこから広げていくTEIさんのやり方にすごく影響を受けたんです。風通しがいいなって。むしろマイナスだと思っていたところから持ってくるとおもしろいことが起こるんだなって。そこの遊び方をすごく勉強させてもらったんです。

TOWA TEI

それで、ああいうヘンなアルバムをつくっちゃったんだ(笑)。

細野悠太

TEIさんのせいです。

TOWA TEI

僕のせいか(笑)。

細野悠太の夢は沖縄移住。

TOWA TEI

伸びしろのあるヘンなアルバムと、伸びしろのないヘンなアルバムと。シャッポと僕のアルバムを端的に説明するとそういことだよね。

福原音

いやでも、TEIさんは伸びしろがないというわけでは。

TOWA TEI

いや、ないんです。ない中で、細野さん曰く「進化している」んです。狭いレンジの中で。そして、シャッポにはこの先何十年も未来があるけれど、僕の余生は限られている。とはいえ、きみたちもわかんないよね。3枚目ぐらいの頃には島に移住して、バーテンやってるかもしれないんだから(笑)。

細野悠太

その可能性は大きいですね。

福原音

悠太くんの夢だもんね(笑)。

TOWA TEI

島暮らししたいんでしょ?

細野悠太

沖縄移住が夢なんです。

TOWA TEI

細野さんも沖縄好きだもんね。

細野悠太

祖父は宮古島が好きなんです。昔、一緒に行ったことがあって。

TOWA TEI

どうして沖縄に住みたいの?

細野悠太

寒くないのがいいんです。寒いのがめちゃくちゃ苦手なんで。沖縄はけっこう昔からずっと行ってて、「ちょうどいい都会」なところがいいんです。

TOWA TEI

沖縄本土のことだよね? 宮古じゃなくて。

細野悠太

そうです。那覇とか、その辺りが好きなんです。

TOWA TEI

読谷村とか恩納村とかではなく、那覇なんだ。

福原音

沖縄に移住したいという人は、田舎に住みたい人が多いんじゃない? 都市部に住みたいというのも珍しくない?

細野悠太

おもしろいんですよ、沖縄の街が。東京と似てるけどちょっと違う建物の感じとか。ていうか、この話、絶対今ここで話すことじゃないと思うんだけど(笑)。

TOWA TEI

沖縄の話になったら生き生きしたよ、急に(笑)。

福原音

急に声が大きくなったもん(笑)。

スタートのA、再スタートのA。

福原音

今回、僕らがやった「WELCOME RAIN」もそうですが、TEIさんはAIを活用して作詞をすることが多かったですよね。

TOWA TEI

やっぱ2024年はAI元年だったし、チャットGPTとかジェミニとかいろいろツールが出てきて急速に進化しているじゃない。AIと相談しながらつくるのもおもしろいかなって。で、使ってるうちに、だんだんAIに気を使うようになってる自分がいるんですよ(笑)。最初は箇条書きだったんだけど、だんだん「よろしくお願いします」みたいになっていって。「ここまでつくってみましたが、どう思いますか?」とか(笑)。

細野悠太

感想とか言ってくれるんですか?

TOWA TEI

言ってくれるんです。で、「これでドヤ!」って投げてみたら、「ドヤ感ばっちりです。和文と英文が見事に融合していて、キャッチーなリズムと儚い歌詞のコントラストがとても印象的です」なんて返してきたから(笑)。

細野悠太

すごいなあ!

福原音

曲ができるとAIに聴かせたりするんですか?

TOWA TEI

いや、聴かせるのは全然やってない。詞の部分だけ。例えば、「GUM」という曲があるんだけど、これは「YUM YUM GUMMY〜」ってサビの部分ができたときに、日本語の詞がまったく浮かばなくて、AIに相談したんです。もともと歯茎のことについて歌いたかったんですよ。「GUM」というとチューインガムを思い浮かべるけど、英語で歯茎のことだから。

細野悠太

ああ、そうなんだ。

TOWA TEI

そうそう。年を取ると歯茎下がってくるんですよ。それについて歌いたいんだけどってAIと2人で相談しながら書いて。

シャッポ

あはははは!

TOWA TEI

昆虫もそうだけど、やっぱ還暦だからさ。体の衰えとか生死について考えるわけですよ(笑)。

細野悠太

おもしろいなあ。ていうか、AIも1人扱い(笑)。

TOWA TEI

10年くらい前、『her/世界でひとつの彼女』っていう映画あったじゃないですか、スパイク・ジョーンズの。ホアキン・フェニックス演じる主人公がAIと恋愛する話だったけど、とうとうあの世界になったなと。

福原音

じゃあ、『AH!!』というタイトルもAIと相談を?

TOWA TEI

これは僕自身。通算13枚目のアルバムになるんだけど、13ってクリスチャンじゃないんだけど、ちょっと不吉な感じもあるから、ファーストアルバム『FUTURE LISTENING!』(1994年)から12枚出して一区切りして、新たなる1枚目、みたいな気持ちをタイトルにしてみたというか。それに僕、還暦じゃないですか。だから今日は赤い服を着ているわけですけれども。

細野悠太

あ! そうか。気づいてなかった(笑)。

TOWA TEI

ね。「あ!」って言ったでしょ。『AH!!』ですよ。感嘆の言葉。

福原音

ああ!

TOWA TEI

また言った(笑)。タイトルを考えるときに、短い言葉で2文字の言葉でなにかないかなと。で、Aから順番に組み合わせていったんです。AA、AB、ACと。で、AHで言葉になった。

シャッポ

あ〜!

TOWA TEI

ほらまた言った(笑)。だいたい1日1回以上言うんですよ、みんな。僕も温泉に入るときに必ず言うし。「あ〜っ」って。

細野悠太

たしかに。

TOWA TEI

あと、不思議なことが起きたり、おもしろいことがあったときもだいたい言う、「あ〜!!」って。

シャッポ

あ〜!!

TOWA TEI

シャッポのアルバム名は?

細野悠太

『a one & a two』です。

福原音

ていうか、僕らもAから始まってます(笑)。

TOWA TEI

似てるね。ただ、きみたちはスタートのA、僕は1周終わって2回目の、ここからまた人生再スタートのAだけどね。

インフォメーション

TOWA TEI

1990年に DEEE-LITEのメンバーとして、アルバム『World Clique』で全米デビュー。現在、13枚のソロアルバム、3枚の SWEET ROBOTS AGAINST THE MACHINE名義、METAFIVEのアルバム等がある。2025年4月からBillboard Liveのテーマ楽曲を担当。 6月6日、最新アルバム『AH!!』のアナログ盤を発売。


TOWA TEIとシャッポ、進化する60歳の音楽と24歳の不思議な音楽。【後編】

『AH!!』

発売日:2025年6月6日
仕様:アナログレコード/初回限定クリアスカイブルーヴァイナル 180g重量盤
(品番:MBLP-2501/価格:¥5,500(税込)/全11曲収録/レーベル:MACHBEAT.COM)
参加アーティスト:石野卓球、権藤知彦、高田漣、高橋幸宏、高野寛、原口沙輔、細野晴臣、る鹿、BAKUBAKUDOKIN、CHAPPO、MIYA(Ålborg)、TAPRIKK SWEEZEE、VERBAL、他
ジャケットアートワーク:横尾忠則
予約: https://linktr.ee/towatei
配信:https://linkco.re/XCuAxf41

インフォメーション

シャッポ

2019年結成のインストゥルメンタルバンド。メンバーは福原音(Gt,etc.)、細野悠太(Ba,etc.)。ともに2000年生まれ。23年12月13日、ファーストシングル「ふきだし」でデビュー。25年4月、ファーストアルバム『a one & a two』を発表。


TOWA TEIとシャッポ、進化する60歳の音楽と24歳の不思議な音楽。【後編】

『a one & a two』

発売日:2025年4月23日
仕様:CD
(品番:KAKU-221/価格:¥3,300(税込)/全14曲/レーベル:カクバリズム)
配信:https://kakubarhythm.lnk.to/CHAPPO_a1a2