フード

ジントニックの次に何を頼もう。

大人へのファーストステップ。

2025年8月27日

大人になるって、わるくない。


photo: Hirokazu Kobayashi
illustration: Hiroaki Seto, Makoto Wada (profile)
text: Ku Ishikawa
2025年6月 938号初出

せっかくバーに入っても、いつも同じ注文じゃ少々味気ない。
カクテルのスタンダードを知れば、楽しみ方はぐっと広がる。

 名前だけでカクテルを選んでしまうことがある。マンハッタン、ダイキリ、ギムレット……どれも響きはいい。でも、それがどんな味で、どれくらい強いお酒なのか、実はよく知らない。結局、無難にジントニックとか、マスターのおすすめをなんとなく頼んでしまう。でももう少しだけ、大人っぽく、スマートに、バーでカクテルを頼んでみたい。銀座の『バー・ペンギン』で、店主の池田高志さんにそんな話をしてみた。

「そのお店でしか飲めないオリジナルカクテルもいいですが、世界中のバーで同じ名前で出てくる、スタンダードカクテルをまずは知るといいですね。基本のレシピは決まっている。でも、お店やバーテンダーによってちょっとずつ味が違う。だから〝どこに行ってもこれを頼む〟っていう自分の定番をいくつか持っておくと、違いがわかって面白いんです」

 物差しになるカクテルが決まると、どこにいても旅をするような楽しみ方ができる。池田さんが教えてくれた24杯を頭に入れて。いや携帯にメモして。今日もどこかのバーの扉を開けている。

GIN

GIN FIZZ ジンフィズ
池田さんが初めてのバーで必ず頼むという一
杯。ジン、レモン、ソーダ、砂糖。その分量
とバランスに、お店の色が出やすい。さらに
キリッとした味が好きなら、砂糖を入れず、
レモンをライムに替えた「ジンリッキー」も。

NEGRONI ネグローニ
ジン、カンパリ、スイートベルモット、オレ
ンジピール。簡単に言えば、甘くて強いカク
テルで、食後に嗜む人が多い。イタリアのネ
グローニ伯爵が行きつけのバーで食前酒に作
らせ、愛飲していたことで生まれたそう。

MARTINI マティーニ
カクテルの王様といえばマティーニ。ジンと
ドライベルモットのみの、シンプルで最も強
い一杯だ。アメリカでは昔「スリー・マティ
ーニ・ランチ」というビジネスランチのスタ
イルが流行したことも。オリーブは口休めに。

GIMLET ギムレット
ハードボイルド小説『長いお別れ』における、
「ギムレットには早すぎる」という台詞で知ら
れ、マティーニに次いで有名な一杯。こちら
もジンにライムだけのシンプルなレシピ。お
店によっては砂糖が入る。味わいは爽やか。

VODKA

BALALAIKA バラライカ
カクテルベースの中でも最も淡泊なウォッカ。
レモンかライムと、オレンジのお酒であるコ
アントローの組み合わせは、ベースごとに異
なるカクテルが存在する定番中の定番。バラ
ライカの名はロシアの楽器から来ている。

BLACK RUSSIAN ブラックルシアン
ウォッカとコーヒーリキュールでできたブラ
ックルシアンは、コーヒーカクテルの代表格。
これに生クリームを浮かべるとホワイトルシ
アンとなり、コーエン兄弟の『ビッグ・リボ
ウスキ』で主人公が愛するカクテルである。

MOSCOW MULE モスコミュール
モスクワのラバ、を意味するモスコミュール。
ウォッカ、ジンジャーエール、ライムの安定
の組み合わせだが、ジンジャーエールを自家
製にするなど店ごとに様々な工夫が。『バー・
ペンギン』はローズマリーを入れる。

SALTY DOG ソルティドッグ
ウォッカにグレープフルーツ、そしてグラスの
縁に塩をつける「スノースタイル」で提供する。
塩はもともと塩分補給のためだという説も。
『バー・ペンギン』では塩なしでも味わえるよ
う、縁の半分にだけ塩をつける。

RUM

BOSTON COOLER ボストンクーラー
ラムはサトウキビが原料で、ジンやウォッカ
に比べると、甘くて丸い味わいという印象。
カリブ海を原産とする、トロピカルなイメー
ジも強い。モスコミュールのベースがラムに
なるだけで、味わいが全く異なるから面白い。

MOJITO モヒート
池田さん曰く、この15年くらいで市民権を
得たというハバナ発祥のカクテル。ラム、ミ
ント、ライム、砂糖で夏にぴったり。フレッ
シュミントが手に入りにくかった時代は、自
家栽培したミントを使う店も多かったそうだ。

XYZ エックスワイジー
バラライカのベースがラム替わるとXYZに。
“Examine Your Zipper(チャック開いてる
よ)”ではなく、アルファベットの最後の3文
字で「これ以上のものはない」という究極を
意味するネーミングだという説が有力。

DAIQUIRI ダイキリ
モヒート同様、キューバゆかりのカクテル。
ギムレットのベースがラムになった一杯で、
クラッシュアイスで作るフローズンダイキリ
も有名。なかでもヘミングウェイが好んだレ
シピは、「パパダイキリ」とも呼ばれる。

WHISKEY

OLD FASHIONED オールドファッションド
名前のとおり古くからあるカクテルで、ライ
ウイスキーに、角砂糖とオレンジピールが一
般的なレシピ。重さと甘味を強く感じ、最後
の一杯にオーダーする人も多いそう。『バー・
ペンギン』では角砂糖代わりに蜂蜜を使用。

MINT JULEP ミントジュレップ
ウイスキー版のモヒートと言えるのがミント
ジュレップ。アメリカで生まれた古いカクテ
ルで、「ケンタッキーダービー」という歴史あ
る競馬大会では、オフィシャルドリンクとし
て2日間で十数万杯もが飲まれているそう。

WHISKEY SOUR ウイスキーサワー
“サワー”と名のつくカクテルには、店によっ
て卵白が入るレシピもある。入るとまろやか
さが出るが、『バー・ペンギン』は入れない派。
ウイスキーにソーダ、レモンとシロップで構
成され、奥行きのあるハイボールのよう。

MANHATTAN マンハッタン
マティーニが“強くてドライ”なら、カクテル
の女王と呼ばれるこちらは“強くて甘い”の代
表選手。ウイスキーがスコッチになると「ロ
ブロイ」となり、男性的な味わいに。美しい
赤色はマンハッタンの夕日を思わせる。

TEQUILA

MARGARITA マルガリータ
メキシコ原産のアガベでつくられるテキーラ
はハーブのような癖のある香りが特徴。ライ
ムとコアントローを合わせたのがマルガリー
タで、縁には塩がつく。近年、世界で最も人
気のあるカクテルの一つだという。

TEQUILA SUNRISE テキーラサンライズ
テキーラにオレンジを合わせ、グレナデンシ
ロップを沈めて、朝焼けのような一杯に。甘
くて飲みやすく、ホテルの朝食のオレンジジ
ュースにテキーラを入れて朝から飲むような
イメージ。ミック・ジャガーが好んでいたそう。

TEQUILA SUNSET テキーラサンセット
テキーラサンライズと同じスタイルで、底に
カシスリキュールを沈めたのがこちら。より
キリッとした味わいで、朝というよりもアペ
リティフに向いている。サンライズとサンセ
ットの味の違いを比べてみるのも面白そうだ。

MATADOR マタドール
闘牛士を意味するマタドール。材料はテキー
ラとライムに、パイナップル。パイナップル
の糖度がオレンジやレモンと比べて高いため、
ねっとりと濃厚な甘さが癖になる。飲めばメ
キシコの風を感じる、現地発祥のカクテル。

OTHERS

SIDECAR サイドカー
バラライカやXYZ、ホワイトレディなど、オ
レンジキュラソーとレモンを使うカクテルの
元祖がこれ。ベースはブドウの蒸留酒ブランデ
ーで、第1次世界大戦でフランスの将校が戦
地でこれらを混ぜ合わせたのが始まりだとか。

FRENCH 75 フレンチセブンティファイブ
フランス軍が祝砲を撃つ際の野砲の口径が由
来といわれ、そのイメージのとおりシャンパ
ンを使った華やかなカクテル。フレンチ95、
フレンチ125といった派生形があり、それぞ
れベースがウイスキー、ブランデーになる。

BRANDY ALEXANDER ブランデーアレキサンダー
チョコレート、生クリームを使ったデザート
カクテルの定番。チョコレートアイスのよう
な味わいで、ジンベースの場合は「アレキサ
ンダー」となる。『バー・ペンギン』は生クリ
ームの代わりにマスカルポーネを使う。

BAMBOO バンブー
横浜のバーに勤めていたイギリス人バーテン
ダーによって考案された、日本生まれのカク
テル。ベースはドライベルモットとドライシ
ェリーで、蒸留酒が入っていないので飲み口
が軽く、甘さが少ないため食前酒に向く。

プロフィール

ジントニックの次に何を頼もう。

池田高志

『バー・ペンギン』店主

いけだ・たかし|1983年、長崎県生まれ。和田誠や田中一光らが通った青山の名店『バー・ラジオ』に14年間勤めたのち、2018年に『バー・ペンギン』を銀座にオープン。