TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】型板ガラスの世界

執筆:内海慶一

2025年4月24日

先月、『型板ガラスの世界』というタイトルのパンフレットをつくった。型板(かたいた)ガラスとは、模様入りの板ガラスのことだ。

昭和中期、日本のガラスメーカーは競い合うようにして型板ガラスの新柄をリリースした。しかし現在では一部を除いて製造されておらず、徐々に町から姿を消しつつある。

消えゆく型板ガラスを、せめて印刷物だけでも残しておきたいと考えて制作したのが『型板ガラスの世界』だ。10年かけて60種を撮り集めた。主要な商品はほぼ掲載しているので、このパンフレットがあれば模様と名称の同定が簡単にできるはずだ。

町を歩いて60種を探すのはなかなか大変だった。しかもなるべくきれいな状態のものを撮らなければならない。また、正しい名称(商品名)を調べるのも苦労した。製造していたメーカーにも詳しい資料が残っていないらしい。当時の商品サンプルや、雑誌に掲載された広告など、複数の資料を照らし合わせてようやく分かったことも多い。

アラビヤン、いろり、うきぐさ、おりづる、かげろう、きらら、クローバ、こずえ、このは、サーキット、さらさ、スイトピー、のみち、ハイウェイ、ほなみ、まつば、みずわ、みやこ、ユーカリ、らんまん、雲井、銀河、元禄、古都、色紙……名前を知ると、型板ガラスの鑑賞がさらに楽しくなる。

私たちが型板ガラスに特別な感慨を覚えるのは、子供の頃の記憶や、家族と過ごした日々の思い出と結び付いているからかもしれない。「あの頃」はもう戻ってこないけど、ずっと心の中にある。型板ガラスの模様は、その記憶を呼び起こしてくれるような気がする。

型板ガラスの模様を指で触ってみたことのある方は多いのではないだろうか。SNSに寄せられる声を見ていると、「型板ガラスの上から紙をあててクレヨンで模様を写して遊んだ」という思い出を持つ方もいるようだ。凹凸がそうした行為を誘引するのだろう。

絵柄そのものとは別に、この凹凸のある質感も型板ガラスの魅力だと思う。微細な光と影が生み出すガラス工芸品のような趣きが、私たちを惹きつける。

『型板ガラスの世界』に、予想をはるかに超える数の注文をいただいて驚いている。「つくってくれてありがとう」とのメッセージまでいただいた。自分が好きでやってきたことではあるが、費やした10年が報われるような気持ちだ。

プロフィール

内海慶一

うつみ・けいいち|1972年生まれ。ライター、都市鑑賞者。ピクトさん、装飾テント、型板ガラス、シュロ、台、水路、ペットボトルのある風景など、身のまわりにある様々なモノ・風景を鑑賞し、写真や文章を発表している。活動テーマは「見たことあるのに見えてなかった」。

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【#3】型板ガラスの世界

型板ガラスの世界

細やかな模様が魅力の、昭和時代を象徴する「型板ガラス」。見るだけで懐かしい気持ちになる人もいれば、一方で新鮮な気持ちになる若い人もいるかもしれないが、最近めっきり見かける回数が減っている。本誌には、内海さんが10年かけて撮り溜めた象徴的な型板ガラスの模様60種がまとめられている。消えゆく時代の景色を残すべく、今この冊子を手に取りたい。

A4サイズ・6ページ(片観音)¥800

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