TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】図書館のこと③

執筆:箕輪はるか(ハリセンボン)

2025年3月28日

図書館のことでずっと気になっていることがある。
利用者が入れない地下の書架にある本の貸し出しを申し込んだとき、一体職員さんはどんな場所に行ってどのように本を持ってくるのだろうか。
チカノショカ、という語呂の良さも相まって言葉が頭の中をぐるぐると回りだし、どこまでも謎めいた空間を想像してしまう。
たとえばこうかもしれない。
職員さんが地下へと続く階段を下りていく。暗い洞窟のような人気のない空間を奥まで進むと、一人の老人がいる。
白く長い髭をたくわえ、顔に刻まれた無数のシワのなかに力の宿った眼が埋まっている。心の内を読まれそうな気がして、できるだけ目を合わせないように職員は老人に言う。
「図書館神よ。利用者が『クックパッドの絶品きのこレシピ たっぷり食べても安心簡単大ヒットおかず82』の貸し出しを希望しています」
ふむ、と老人は呟き、両手を空中にかざすと、天から強い光が差して老人の手の中に一冊の本が現れる。職員はそれを受け取る。
「預かります」
なぜか本はほのかに温かい。
「2週間じゃぞ…」
わざわざ返却期限を告げる声を無視して、職員は利用者の元へ急ぐ。

それから、返却ポストの中がどうなっているのかもずっと気になっている。本が壊れてしまわないだろうかとそっと返却口に差し込むのだが、ゴガッという衝突音が毎回聞こえ不安になる。
もしかしたらこうかもしれない。
返却口に入れた本は、ポストの底に空いた筒のような縦穴を通じて図書館の地下まで落下していく。センサーが本の落下をとらえ、ゴガッという音で知らせると図書館神が目を覚ます。すると本は空中で静止し、天から差した強い光のなかに消えていく。ふむ、と老人は呟きふたたび目を閉じる。

そういうことを知りたくて図書館司書の資格を取ったけれど、実際に図書館で働く機会を得なかったため今でも想像の域を出ない。

それから、本を保護する透明なフィルムが気泡一つなく丁寧に貼られているのも気になっている。図書館のどこかに気泡抜き神がいるものと私は見ている。

プロフィール

箕輪はるか

みのわ・はるか|1980年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒。NSC東京校出身で2003年に相方「近藤春菜」とハリセンボンを結成。
コンビではTBS「モニタリング」、TX「にちようチャップリン」をはじめ、多数のテレビ番組に出演中。
ピンでも幅広い分野で活動している。
ニッポン放送「ナイツ ザ・ラジオショー」では木曜パートナーを務める。光文社「女性自身」では、毎月書評を連載中。