カルチャー

ニック・アトキンスはもう見た?

photo: Naohiro Ogawa
text: Koji Toyoda

2025年3月6日

代々木公園のアートブックショップ『Hi Bridge Books』にて、NYのアーティスト、ニック・アトキンスの個展『Juicefuls』が3月16日(日)まで開催中。もうみんな足を運んだ? もしまだならば、どうにかこうにか時間を作って、その作品を拝みに行くべきだ!

ニックの作品は、色の重なり具合が重層的。「最近はスタジオで化学的なプロセスを取り入れたり、色材を何層にも重ねたりすることをトライ中。 それによって生まれる予測不可能な要素を楽しんでいるよ」。

壁にはドローイング作品が掛かる。遠目にみると同じように見えるが、一つ一つ異なるものが積み上がっているので、じっくり眺めているとニックワールドについ引き込まれる。

 ニック・アトキンスと言われても、ピンと来ない人にざっと説明すると、彼は〈シュプリーム〉のヘッドデザイナー。そして、NYダウンタウンのアートコミュニティを語るに欠かせない8-Ball Communityの初期メンバー。(この辺のことは、作品集『8-BALL ALMANAC』が詳しい)。〈シュプリーム〉の業務が猛烈に忙しいはずなのに、その合間を縫って、ドローイング、絵画、彫刻などを手掛け、こうして日本でも個展を開くくらいに本腰を入れている。根っからのアーティストなんだろう。

ニックがこの10年間、もっとも力を入れてきたという噴水の立体作品。「噴水は扱いがとても難しく、予測不能で、気難しいものだ。 水は人間に制御されることを好まない。毎回、噴水の作品を作るたびに、次の作品でどうすればより良くできるかを学びます。 それが僕にとって成長なんだよ」

 そんなニックが最近力を注ぐのが、“ファウンテン(噴水)”。そう、公園や広場には大抵鎮座している憩いの場だ。しかしまたどうして? という疑問が沸々と湧いてくるけれど、ニック曰く「それらは僕にとって探究心を刺激する完璧な象徴なんだ。噴水は、もちろん歴史的な出来事やただの待ち合わせ場所のように思えるけれど、見方を変えれば“人間”のようにも思えてくるんだ。そこが面白い」とのこと。そんな自分だけの密やかな発見に歓喜した彼は、それ以降、カエル、亀、鳥などの動物、りんごや桃などの果物を無造作に積み上げた色鮮やかな噴水を立体作品やドローイングとしてたくさん生み出してきた。

展覧会場では、この個展のために制作したZINE(¥2,750)の販売も。その他、ステッカーや、本当は噴水の立体作品に投げるために制作されたオリジナルコインなども売っているよ。さすがに会場も小さいし、作品も壊れちゃうから投げるのは厳禁。記念品として持ち帰ろう。

左が若かりし頃のニック・アトキンス御大。8-BALL COMMUNITY の活動や作品をまとめたアートブック『8-BALL ALMANAC』から抜粋。

「もしかしたら、この噴水は、アメリカの日常生活に転がっているものを積み上げたものかも? 現代アメリカ人のポートレイトかもしれないって考えてみると、単純に可愛い! って形容されがちな彼の作品を見る目が変わると思いますよ。実はポップなテイストの中にダークネスが隠れているのが彼の魅力。そのバランス感覚がとても優れているアーティストですから」とは、今回の展示を取り仕切る『Hi bridge books』の店主、高橋優香さんの弁。

 なるほど! こんなポップでキュートな作品群を“アメリカ人の肖像”として眺めてみるのは、確かに面白い。NYのダウンタウンカルチャーや〈シュプリーム〉をこよなく愛する人はもちろん、アートに少しでも興味がある人は、ニックの噴水と向き合って、あれこれ空想を巡らしてみよう!

インフォメーション

ニック・アトキンス 「Juicefuls」

会期:〜2025年3月16日(日)
開催場所:Hi Bridge Books
アポイント制のため、インスタグラムのDMで連絡を。
住所非公開の場所のため、『Hi Bridge Books』のインスタグラムを参照してください。

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https://www.instagram.com/hi_bridge_books/