ファッション

『The Pictures on My Wall』の作り手・デイビットが考える、Alternative Menswearとは?

2025年1月31日

STYLE SAMPLE ’25


photo: Hikari Koki (Book)
text: Hiroko Yabuki
2025年2月 934号初出

服を愛する“スタイル蒐集家”のアーカイブが書籍化。
美しいシルエットのスーチングに自信に満ちた雰囲気、時を経ても色褪せないスタイルからヒントをもらおう。

Yves Saint Laurent, Loulou de La Falaise
and Thadée Klossowski(1977)
© Guy Marineau

左/Dalí courtesy of Javier Rioyo
右/John Claridge with Keith(1961)
© John Claridge

ダストカバーを外すとデイビッドの父の
シャツのクローズアップが。
© Maria Espeus

Yves Saint Laurent, Loulou de La Falaise
and Thadée Klossowski(1977)
© Guy Marineau

左/Dalí courtesy of Javier Rioyo
右/John Claridge with Keith(1961)
© John Claridge

ダストカバーを外すとデイビッドの父の
シャツのクローズアップが。
© Maria Espeus

The Pictures on My Wall
ポートレートにストリートスナップ、パパラッチ写真まで。デイビッドが10代の頃から集めてきた、主に20世紀のミュージシャンや文筆家、アーティストらのモノクロ写真約100枚を収録。ベス・レッサーやハビエル・リオジョといった時代を象徴する写真家や映像作家の作品も多数。日本では『Dover Street Market Ginza』『代官山 蔦屋書店』で手に取ることができるよ。

 服を着ることは言わずもがな僕らの毎日に欠かせない行為なわけだが、ときたま自分のスタイルを見失ってどうしようもなくなること、あるよね。デイビッド・M・スコーディがエディットした写真集『The Pictures on My Wall』はそんなときにヒントをくれるだろう。国民的デザイナー、アントニオ・ミロを父に持ち、ポール・ウェラーに憧れた元モッズ少年の彼は、テーラー文化の本場ロンドンへの旅を重ね、本国の父親の下でテーラリングの基礎を学んだ経歴の持ち主。そして彼がライフワークとしているのが、有名無名を問わずスタイルのある人たちの写真を蒐集することなのだ。なんでも服作りのイメージとして始めたのが今や仕事にもなって、そのセンスを頼りにする服飾業界関係者も多いのだそう。

左/Stephen Tennant(1927)
© Cecil Beaton, courtesy of Hugo Vickers
右/Rem Koolhaas(1968)
© Madelon Vriesendorp

左/Early B and children at home(1986)
© Beth Lesser
右/Jordi Valls (Vagina Dentata Organ)(1963)
© Jordi Valls, courtesy of Jordi Valls’ family

Antonio Miró(1982)
© Maria Espeus
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左/Stephen Tennant(1927)
© Cecil Beaton, courtesy of Hugo Vickers
右/Rem Koolhaas(1968)
© Madelon Vriesendorp

左/Early B and children at home(1986)
© Beth Lesser
右/Jordi Valls (Vagina Dentata Organ)(1963)
© Jordi Valls, courtesy of Jordi Valls’ family

Antonio Miró(1982)
© Maria Espeus
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 昨年発売されたこの本は彼が10代の頃から追求し続けるテーマ“Alternative Menswear”をコンセプトにアーカイブを選りすぐった一冊だ。直訳すると「もう一つのメンズ服」。わかったような、わからないような言葉の響きに妙に惹かれつつページをめくると、嬉しい驚き。世界的なスターやデザイナーから、一見するとファッションに結びつかない職業の人たちまで、被写体が文句なしにカッコいいのだ。ヒョウ柄のジャケットを羽織った口髭なしのサルバドール・ダリは先入観を覆すエレガントさだし、マデロン・ヴリーゼンドループがロンドンで捉えたレム・コールハースは1960年代のスウィンギング・ロンドンを体現するよう。写真家のジョン・クラリッジのセルフポートレートは、まるで若き日のスティーヴ・ウィンウッド。「労働者階級の若者の傲慢さと反抗的な態度」というデイビッドの言葉に納得させられる。それにしても写真の多くは1960年代前後に撮られたものなのに、時を経て2020年代半ばの今見ても全く色褪せないのもまたすごい。

「ここに登場する人たちに共通して言えるのは、みなが日常的なシチュエーションで、心からリラックスし、気持ちのままに装っている点。とりわけ創作においてスタイルを探し、発見して、発展させてきたアーティストは、ファッションにもその軸を容易く見つけられるんじゃないかな。自分らしさとは感性を偽らず、自信をもって装う行為の賜物。この本がメンズウェアにおけるエレガンスを、よりオープンマインドな眼差しで考えるきっかけになればいいなって思ってるよ」

オランダのデン・ハーグを拠点とする独立系出版社「Cairo Apartment」より初版500部発行。

花布(背表紙の内側部分に貼り付けられた布)をよく見ると、カタルーニャ州旗に使われている黄、赤の2色があしらわれている。バルサの熱狂的ファンである彼のこだわりだ。

プロフィール

『The Pictures on My Wall』の作り手・デイビットが考える、Alternative Menswearとは?

Author David M. Skoudy

デイビッド・M・スコーディ|1993年、バルセロナ生まれ。パリを拠点に活動するアートデュオ Paris Image Unlimited主宰。デザイナーへイメージ画像の提供を行ったり、ホテルの選書やキュレーション、アートディレクションとその仕事内容は多岐にわたる。