TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#1】メキシコ 死者の日 ー 命と死を繋ぐ祝祭
執筆:Momoca
2025年1月9日
映画『COCO』で一躍有名になったメキシコの「死者の日」(Día de Muertos)は、亡くなった家族や友人を迎える伝統的な行事です。毎年11月1日(子供の魂の日)と11月2日(大人の魂の日)に行われ、命と死を祝う大切な時間として人々に深く根付いています。死者を偲び、感謝し、生きる喜びを共に分かち合うこの風習は、メキシコらしく賑やかに鮮やかな雰囲気に包まれています。先住民の死生観とカトリックの教えが融合し、長い歴史を経て育まれてきました。
魅惑のオフレンダ
「死者の日」の象徴ともいえるのが、オフレンダと呼ばれる祭壇です。この日のために設けられるこの祭壇は、故人への愛と敬意を表現するさまざまなアイテムで彩られ、メキシコ文化の美しさと多様性を垣間見ることができます。
さて、オフレンダにお供えされる主なアイテムとは?
まず目を引くのは、鮮やかなオレンジや黄色のマリーゴールド(センパスチトル)。「死者の花」とも呼ばれるこの花は、その色と香りで霊魂を家に導く役割を果たします。また、祭壇には故人の写真が飾られ、彼らの存在を身近に感じられます。
カラベラ(骸骨)は、祭壇をユーモアと遊び心で満たす重要なアイテムです。特に砂糖菓子で作られたカラベラは色鮮やかで愉快。死を恐れず、むしろ親しみを込めて捉えるメキシコの精神が表れています。また、薄紙で作られた切り絵の紙飾り、パペルピカドは、風に揺れることで霊魂の動きを象徴しているといわれています。
また、キャンドルの灯りは霊魂を導く役割を果たし、その光は祭壇を温かく照らします。
甘く香ばしいパン・デ・ムエルト(死者のパン)も欠かせません。この骨の形を模したパンは地域ごとに形や味が異なり、特にオアハカ州では個性的な装飾が施されたものが祭壇を埋め尽くします。
また、コパルと呼ばれるお香の煙は霊を清め、祭壇に導くために焚かれます。塩も死者の魂が安全に戻ってこられるよう場を浄化するために盛られます。煙と塩は祭壇の空間を神聖なものにします。
飲食物もまた、故人を思い出すための重要なアイテムです。タマレスやモレなどの伝統料理、そして故人が好んだ飲み物が供えられます。水は、長い道のりを経て戻ってきた霊魂の喉の渇きを癒し、メスカルやテキーラが祭壇に並ぶのもメキシコらしい光景です。
儀式を超えたアート
近年、「死者の日」の祭壇は単なる儀式を超え、アート作品としても注目を集めています。オフレンダの支度をする時間は、家族や文化との絆を深め、亡くなった人々との再会を祝うかけがえのない時間です。その祭壇は、死後の世界と繋がる扉であり、人生の儚さと美しさを讃える表現でもあります。
日本のお盆との共通点
メキシコの「死者の日」を知ると、日本のお盆との共通点の多さに気づかされます。どちらの行事も「亡くなった人々を迎える日」という普遍的な価値観を共有しており、命と死の繋がりを称える文化が根付いています。
「死者の日」は単なる哀しみの行事ではなく、亡くなった人々との再会を喜び、命の大切さを思い出す機会です。街はカラフルにパペルピカドや骸骨アートがお茶目に飾られ、メキシコシティの大通りでは大々的なパレードも行われ、近年では神秘的な伝統とフィエスタ(お祭り)が混合された、メキシコを代表する行事です。
命の儚さと美しさを讃えるメキシコのこの伝統行事は、人生の終わりを哀しみだけでなく、再び愛する人々とつながる希望として祝う機会です。過去と現在、そして未来が繋がり合う瞬間を祝うことで、私たちは命の尊さを改めて感じ、新たな希望を見出すことができるのではないでしょうか。
プロフィール
Momoca
ももか|ペーパーアーティスト / 祭壇クリエイター。カリフォルニア州バークレーで約25年暮らした後、2021年にメキシコシティへ拠点を移す。紙を主素材としたオブジェや絵画を制作し、旅で得たインスピレーションや内なる世界を表現する祭壇アートも手掛ける。その活動は、メキシコの「死者の日」と日本の「お盆」の祭壇を並べた作品がニューヨークタイムズに掲載され注目を集めている。かつては自身の洋服ブランドをバークレーで立ち上げ10年間店舗経営、〈Adidas〉や〈Red Bull〉といった大手ブランドとコラボレーションを実現。また、『シェ・パニーズ』のアリス・ウォータースや〈Apple〉社のデザイン部副社長エヴァンス・ハンスキーのイベント装飾を手掛ける。モロッコ・マラケシュにあるイヴ・サンローラン美術館からデザイン賞を授与される。
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