TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】澄んだ世界の真っ只中で

執筆:田口雄一

2024年11月6日

鹿児島の最南端に「与論島」という島がある。
その島で生まれ育った、地主(とこぬし)神社の次男坊、沖 隆寿とは東京中野で出会った。自分が沖縄料理「あしびなー」で働いている時に、たっくん(沖 隆寿の呼び名)はアイヌ料理「レラチセ」で店長をし、その後、南国居酒屋「aman」という名の店を持つ。
たっくんとは、10代後半から20代半ばまで、本当に朝まで飲んでは語り明かした。

吉春さんの「呑みてぃんぐ」もそうだが、大切なことはきっと、予定もしてない「無駄」から
生まれるとそのとき感じた。

そんな無駄話を思い出しながら、どうにか話を膨らませ、最終話に着地できないかと今模索している笑

好きな映画監督が若手に、春巻きを食べる絵を何度も描かせる。途中で監督が若手について、彼はここまでしか考えてないんですよ。そこを突破しないとダメなんです。
そのシーンが映画にとって重要なシーンであろうがなかろうが、そこを超えた後に、アニメーションを通じて「世界の秘密が知れる」んです。と言っていた。

この「世界の秘密が知れる」って言葉が頭の片隅から離れない時期があった。

そんな話を、たっくんに何気なくしたとき

「世界の秘密」すごくわかる気がする。
食べ物を食べる行為自体が神様を体現してるんだって家寿(父ちゃん)は言うんだけど、そういうことなら食べ物を作ったり調理したりするっていう行為はその時その時で「世界のはじまりをこしらえてる」ってことかもしれないね
と彼は言った。

南の島には「言霊」という生き物が存在する。頭の中では理解できてないが、不思議と胸の奥に、すぅーっと勝手に入ってくるときがある。

「湯気」って店名の由来と、
料理の世界に入った理由だけは
聞かれても未だにうまく答えられない。

ただ、長い沈黙のあと、
あしびなーや、家常教室が、自分に伝えてきてくれた味は、作ったさまざまな料理のどの味わいの底にも流れている基調音がある。

自分はなんで中国料理をやってるかは、やることによって世界の秘密がほんのすこし知れるかもしれない不思議な感覚を、底の部分でこしらえているのかもしれない。

欅のまな板に「パタン」と包丁が置かれたその瞬間、今日も無事終わったことに安堵できればいいなと思う。

職種は違えど、すべてが同時に、あのひとやあのひとはあの場所で。

それが誰かの夢ならば、そこにいれる毎日がいい。 

映画smokeを観た日を思い出した。 確かオープニングに 煙草の煙は量れるはなしをする。 新しいシガーを一本秤に乗せて、重さを量る それからシガーに火をつけ秤の皿に灰を落とす。 そして吸い終えたら吸い殻も皿に入れる。 残った灰と吸い殻の重さを、吸う前に量ったシガー分から差し引く。 その差が煙の重さだと言う。 だとしたら魂の量りかたは?って続いたような…
湯気の重さも量ってみようと試みたが、あきらめた笑 この世界には 量れるものと 量れないものと 量ってはいけないものがある

プロフィール

田口雄一

たぐち・ゆういち|1984年群馬県生まれ。
『沖縄料理あしびなー』 『佐藤家常教室』を経て、新中野で中華料理
『湯気』を営む。

Instagram
https://www.instagram.com/yuge_nakano/