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〈ハミルトン〉と映画のもっと深い話。
HAMILTON
2024年11月15日
photo: Ryohei Ambo
styling: Kazuro Sanbon
coordination: Aya Muto
text: Koji Toyoda, POPEYE
SF大作を中心に、数々の映画に登場する名脇役な時計ブランドといえば〈ハミルトン〉。世界観や時代考証のための小道具の域を超え、主人公の象徴や物語の鍵にもなる。そんなハリウッドとの関わりが深いブランドについて、もっと深く掘り下げてみた。
伝説のプロップマスター、ダグ・ハーロッカーに
「映画における時計」について話を聞いた。
魅惑の別世界に連れていってくれるようなSF映画には、監督のセンスはもちろん重要だが、その世界観を作り込む陰の立役者がいる。それがプロップマスターという存在だ。なかでもダグ・ハーロッカーは、『メン・イン・ブラック』や『デューン 砂の惑星』を筆頭に、芸術面でも惹き込まれる作品を数多く手掛け、スティーヴン・スピルバーグやデヴィッド・クローネンバーグ、サム・ライミなど、名だたる監督作でのキャリアを持つ、ハリウッドが誇る伝説のプロップマスターだ。そんな彼に映画における時計の重要性について話を聞いてみた。そもそも、プロップマスターとはどんな仕事なのだろう?
「一言でいえば、“役者が触るものすべてに責任を持つ仕事”。小さなテクノロジーから食べ物、武器などの小道具から乗り物など大きなものまで、扱うものは多岐にわたります。フードスタイリストを雇って美しく安全な料理を用意するのもそうだし、劇中に新聞や本が登場するのなら、グラフィックデザインもやれば、印刷や製本もやる。アクセサリーは衣装さんにお任せするけれど、腕に着ける時計だってもちろん用意します。元々はプロダクション・デザイナーにアイデアを提案し、それが通れば監督と直接やりとりをしながら、使用アイテムを決めるという仕事の流れだったのですが、映画の規模が大きくなると、プロダクション・デザイナーも忙しくなり、ちょっとしたプロップ全部を確認している時間もなくなってきて、監督と直でやりとりすることが多くなりました。僕のキャリアを決定づけた『スターゲイト』(1994年)のローランド・エメリッヒ監督とも、『スパイダーマン』(2002年)のサム・ライミ監督とも、もちろん『メン・イン・ブラック』(1997年)のバリー・ソネンフェルド監督とも。気の合う製作チームの一員として機能でき、そのアイデアいいね、これもやってみよう! といったスタンスでできる仕事に恵まれてきたんです」
つまり、僕らが心惹かれる小道具全般には彼のセンスが行き届いているということ。「神は細部に宿る」というが、そういうちょっとした小物使いが映画の世界観を作り上げている。そう考えると、プロップマスターってすごい! と素直に思えてくる。では、実在するモデルが使われることが多い時計は、映画の世界観作りにおいてどんな役割を果たしているのだろうか?
「時計は登場人物のキャラクター形成に重要な要素なのではないでしょうか。ミリタリー系の役どころなのか、マッチョな役なのか、レースカーを運転する役なのか。幸いにもこういった人物たちに実際出会う機会に恵まれたので、どんな人物なのかを彩るのに、僕の人生経験が役立ったりもします。そして、多くの俳優さんは自分の演じるキャラクターをできるだけ探求して体現したいと思っているはずで、監督に『あの役者さんにこんな時計を提案しようと思っています』と説明すると、ほぼ90%の確率で監督は『そうだね、彼自身に選ばせよう』と言うんですよ。そうなった場合、キャラクター作りに役立つだろうと判断した時計を揃えて俳優さんに見せるのですが、もし強く思う意見がある場合、一つのモデルを推したりすることもあります。『このキャラクターにはこれですよ!』といった具合にね。そこにコスチュームデザイナーも呼んで談議したり。可能性があると考えるものはすべて揃える必要があるんです。もし何か欠けていたら、起用される機会を失ってしまうわけですから。最近では『レッド・ノーティス』(2021年)や『グレイマン』(2022年)でも〈ハミルトン〉の時計を使っています。基本的にとても優れたデザインセンスが〈ハミルトン〉の時計にはあって、バラエティに富んでいると思いますね。超高級時計ブランドがやっていることにもちゃんと精通しながら、より多くの人たちが着けることができるようなデザイン要素が反映されているブランドだと思います。主に現代劇に取り組む際に、〈ハミルトン〉の時計を起用できるかな、という目線でプロダクトはいつも気にしていますね。ただ、ライアン・ゴズリングなど俳優たちの中には時計ブランドと契約を結んでいる人も少なくはないので選択肢が限られてしまうのですが、ドウェイン・ジョンソンは契約がなく何を着けてもOKだったりするので、僕が選んだいい時計を自由に提案できたりするんです(笑)」
ダグといえば、やはり聞いておきたいのが、今年公開された『デューン 砂の惑星PART2』について。〈ハミルトン〉とのコラボレーションも記憶に新しい。
「ドゥニ・ヴィルヌーヴは本当に大好きな監督ですが、最初に手掛けたのは『ブレードランナー2049』でした。で、のちに『デューン』シリーズにも取り組むわけですが、彼がよく言っていたのは『これは他で見られるもの?』『世の中に実際すでに何らかの形で存在するの?』という問い。その根底にあったのは極力オリジナルを作り出したいという思いだったのでしょう。素晴らしい課題ですが、とても難しい要求。カルチャーを創造するわけですからね。砂漠の民フレメンが着けるリストデバイスもドゥニからの依頼で作りました。監督的には『デューン 砂の惑星PART2』でフレメンたちがもっとテクノロジーに傾倒している面を見せたいと考えていたからだと思います。彼らの戦闘能力の表象として劇中でもさまざまなテクノロジーが登場しますが、手に着けるこのデバイスもその一端。装置的にはオーディエンスにテクノロジーの存在を示唆する道具であり、実際どんな機能を持っているかはあえて説明されていません。監督から声をかけられた直後に〈ハミルトン〉からマーケティング・パートナーシップの提案があり、最初からこのリストデバイスに興味を持ってもらえて、たくさん話し合いを重ねました。『デューン 砂の惑星PART2』のDNAをのせた〈ハミルトン〉の時計はどんなものが作れるかを話し合う中で、リストデバイスの何らかのデザイン要素を付加できるのでは? という方向性に至りました。映画サイドはブランドに『デューン 砂の惑星PART2』の世界観を共有してもらえ、ブランド側は映画の付加価値がある一本を作り出せる。この関係は持ちつ持たれつで、互いに利点があるというわけです。時計の製作プロセスは、〈ハミルトン〉のアートディレクターの素晴らしい発想を、僕がファンタジーの世界から機能性に引き戻すという手助けをしたという流れでした。結果、〈ハミルトン〉の時計でありながら、『デューン 砂の惑星PART2』の世界のエッセンスをうまく投影したモデルが完成するのをお手伝いできたと思います」
たしかに、『デューン 砂の惑星PART2』のリストデバイスを時計に落とし込んだ一本は、機能性をきちんと備えながらも見たことのない風格を放っている。SF映画とのコラボレーションというと、ことさら奇天烈なデザインになってしまいそうな気もするが、それを現実世界においてもリアリティある時計に落とし込むという引き算的な考え方は重要なポイントなのかもしれない。それは、他のSF名作に登場する〈ハミルトン〉の時計にもいえる。
例えば、今年公開10周年を迎えた、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』にも〈ハミルトン〉が作った時計が登場し、物語のキーになっている。父から娘に受け継がれたあの一本、公開後にファンの要望により「カーキ フィールド マーフ」という名で市販されたモデルだ。地球滅亡寸前の未来を舞台としながらも、映画で描かれる世界は、とうもろこし畑に囲まれたアメリカの原風景。ノーラン監督が自らデザインを監修した一本は、コブラ針を備えた実にクラシカルなデザインで、ハイテクな未来を感じさせるものではないが、登場人物たちのクラシックな装い、そして何より、あの世界観に実にしっくりきている。ブラックホールにいるクーパーと、何万光年も離れた地球にいるマーフが、この時計を通じて繋がり、奇跡を起こすわけだが、それをリアルな時計に落とし込んだ一本は、現実世界に暮らす我々とSF世界を繋ぐ架け橋でもある。そう、我々観客はこうしたコラボレーションモデルを手にすることで密に映画と繋がり合えるのだ。そう考えると、さまざまな作品にサイドキックとして登場してきた〈ハミルトン〉の時計が、グッと魅力的に見えてくるとは思わないだろうか?
すでに『デューン』3作目の製作に取り掛かり始めているというダグ。次回作がどうなるのかを想像するだけでも楽しみなのだが、次こそはぜひ彼が手掛けるプロップにも注目してもらいたい。そして彼のクレジットをぜひ見つけてほしい。大作映画というと、監督や俳優にばかり目がいってしまいがちだが、多くの人が関わり合ってこだわり抜いて出来上がる総合芸術であるということも忘れてはならない。プロップマスターの仕事のような繊細なこだわりが積み重なって、目に焼き付くような、魅力的な世界が生み出されているのだから。
ダグが手掛けた映画と〈ハミルトン〉の時計。
『メン・イン・ブラック2』
監督:バリー・ソネンフェルド/2002年
地球上の地球外生命体を監督し、その存在を隠すことを生業とする極秘政府エージェント、MIB。前作から続く、K(トミー・リー・ジョーンズ)とJ(ウィル・スミス)の最強コンビは健在で、今回の強敵、宇宙人サーリーナをいつもの軽快なノリであっさり打倒。
PSR DIGITAL QUARTZ
世界初のLED式デジタルウォッチ「ハミルトン パルサー」を踏襲したモデル。こちらは第2弾として発表されたデザインだった。劇中では、記憶を消されたMIBエージェントK(トミー・リー・ジョーンズ)が組織に復帰するため、小さなエイリアンたちの集落と化したコインロッカーから取り出す。写真は現行モデル。ケースサイズ41×35mm。クオーツ。¥116,600(ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン☎️03・6254・7371)
VENTURA CHRONO QUARTZ
1957年に誕生した世界初の電池式時計「ベンチュラ」にクロノグラフを組み込んだモデル。劇中ではウィル・スミス演じる主人公のエージェントJがMIBの標準装備として身に着ける。丸形とも角形とも異なる三角形のケースが、70年近くたった今でもフューチャリスティックで異彩を放つ。ケースサイズ32×50mm。クオーツ。¥156,200(ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン)
『デューン 砂の惑星PART2』
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ/2024年
“デューン”と呼ばれる砂漠の惑星アラキスを舞台に、スパイスを巡る攻防を描いた壮大なスペースオペラの第2弾。ハルコンネン家の急襲により崩壊したアトレイデス家の生き残り、ポールの能力がついに覚醒する。砂虫ライドや王都奪還のシーンは圧巻。第3弾にも期待。
VENTURA EDGE DUNE LIMITED EDITION
惑星アラキスの先住民フレメンが着けるリストデバイスをモチーフにし、名作「ベンチュラ」をベースに生まれた一本。リュウズのボタンを押すと、デジタル表示と文字盤中央に施されたラインが青く光るギミックも。レトロフューチャーなデザインが存在感を放つ。ケースサイズ51×47mm。クオーツ。¥379,500(ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン)
10周年を迎えた『インターステラー』の“マーフウォッチ”に新作が登場。
『インターステラー』
監督:クリストファー・ノーラン/2014年
地球滅亡直前の未来を舞台に人類の新たな生存地を求めて旅立つ父と宇宙の謎を解き明かそうと奔走する娘の時空を超えた親子愛を描く。2人の絆を繋ぎ、ヒントを授けるモールス信号を送る装置として時計が物語の鍵に。11月22日から全国51館の劇場でIMAX再上映。
〈ハミルトン〉の時計が登場する名作映画は他にもまだまだ。
『TENET テネット』
監督:クリストファー・ノーラン/2020年
時間を逆行する装置が生み出された未来から地球滅亡の脅威がやってくる。名もなき男と謎の男フェイが第三次世界大戦勃発を阻止すべく奮闘。逆再生の不思議な映像は圧巻。順行と逆行をクロスさせて行われる「挟撃作戦」ではこの時計が作戦遂行の重要なツールとなる。
KHAKI NAVY BELOWZERO TITANIUM AUTO
クライマックス「挟撃作戦」で、順行チームと逆行チームのメンバーが装備する一本をモチーフに作られたモデル。劇中では順行チームのものは赤く、逆行チームのものは青く文字盤が光るのだが、こちらはその仕様はない。潜水艦の計器をモチーフにしたデザインはインパクトがありながらも、実にメカニカルでSF好きの心をくすぐる。写真の現行モデルはチタンケースゆえ頑丈ながら、想像以上に軽い。ケース径46mm。自動巻き。¥280,500(ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン)
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』
監督:ジェームズ・マンゴールド/2023年
闘う考古学者『インディ・ジョーンズ』シリーズ第5弾。時は1966年、年老いたインディのもとにかつて手に入れた「アルキメデスのダイヤル」の一部を奪おうとナチスの残党が襲い掛かり、運命の輪が再び動き出す。盟友の娘とともに、時代を超えた争奪戦が幕を開ける。
BOULTON QUARTZ
1940年に登場したクラシックなモデルを現代にアップデート。丸みを帯びた独特の縦形ケースが古き良きアメリカン。1966年の年老いたジョーンズ博士が愛用する一本で、永遠に色褪せない彼を象徴しているようにも。定番はローマンインデックスだが、アラビアインデックスに。ケースサイズ27×32mm。クオーツ。¥107,800(ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン)
インフォメーション
HAMILTON
スウォッチ グループ ジャパン☎︎03・6254・7371
Official Website
https://www.hamiltonwatch.com/ja-jp
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