TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#4】あの日の自分に言いたい
執筆:渡辺友郎
2024年10月1日
POPEYE Webでプロレスについてのテキストを寄稿する。こんな嬉しい機会は滅多にないのだけど、あっという間に約束の最終稿である4回目になってしまった。せっかくならしっかり締めにふさわしいテキストを! と思い数回書いてみたのだけど、なんだかしっくりこない。「俺、こんなこと書きたかったっけ? というか、そもそも書きたいことなんてあったのか?」 そう自問自答を続けるうちに、萎えるどころかすっかり気持ちが開き直ってしまった。なので唐突だけど「俺の大好きなレスラー入場シーン」について書きたいと思う。
プロレスラーの入場シーンが大好きだ。
子供の頃はビデオで録画した入場シーンを、いつか自分が入場する想像をしながら何度も何度も観ていた。便利な今は、ちょっとした空き時間にYoutubeで検索して大好きなそれらを楽しんでいる。相変わらず自分が入場するのをこっそり想像したりする、少し変わったおじさんだ。選手にはそれぞれリングインする際に入場テーマ曲があり、その曲を聴くだけで様々な思いが交錯する。
ブラック・サバスの「Iron Man」で入場するロード・ウォリアーズだったり、レッド・ツェッペリンの「Immigrant Song」でチェーンを振り回して入場してくるブルーザー・ブロディの入場はハズレがない。スタイナー兄弟も最高だな。既に佇まいが強烈に刺さってくるので、外れようがない。全部格好いい。
挑む試合の重要性が高くなると、覚悟が伝わってくる。そんな緊張感のある入場シーンも印象深い。「田村潔VSヘンゾ・グレイシー」の入場シーンは以前のテキストで触れたけど、ドン・中矢・ニールセン戦との異種格闘技戦の前田日明の入場も痺れまくった。小5の俺はテレビの前で正座。セコンドにカール・ゴッチを引き連れ、緊張感と高揚感からか、駆け足で入場してくる若かりし日の前田日明……、だぁー、1番格好いい! 40年近く前の記憶なのに今だに興奮が冷めない。
試合の重要性と同じく、入場シーンの背景にある状況も大事な要素。引退試合に挑む、天龍源一郎や武藤敬司の入場シーンはどちらも素晴らしかった。どっちも友人の五木田さんと一緒に会場で生観戦してたけど、ビール呑みながら過去の天龍や武藤の記憶と相まって、俺は思いっきり号泣していた。
そして、生観戦していたら間違いなく人生で1番興奮していたのが、1990年2月10日の東京ドームだと思う。この日、交わる事のないと言われていた全日本プロレスの選手が新日本プロレスの大会に出場。「鶴田谷津VS木村木戸」、「長州高野VS天龍タイガーマスク」というカードが組まれた。これがどれくらい衝撃的だったのか例えるならば、ダウンタウンの番組にとんねるずがガッツリ出演する、くらいの大事件だ(当然個人の見解です)。テレビ中継されなかったその試合と入場シーン、長らく「裏ビデオ」としてマニアの間では流通。最近は荒い動画ながらネットで観ることができるけど、やっぱり会場で観たかった。
人生で大きな失敗や後悔はいくつかあって、ほとんどが人に言えない。ただ、人に言える後悔の1つがあの日、東京ドームに行かなかったことだ。行かなかった、行けなかった理由はひとつ。複数受験していた高校入試の当日と前日だったから。そして後悔の念を更に深くするのは、そうまでして受験した学校は結果としてどっちも不合格という結果……。もし、今の自分があの日の自分に会えたらこう伝えるだろう。
「立教と青学は諦めろ、どうせ落ちる。ドームにプロレス観に行ってこい。一生の思い出ができるぞ。」
全4回に渡り「あの頃のプロレス」にまつわる話をさせて頂きました。ありがとうございました。タコマフジとプライベート(主に犬)がダッチロールしたインスタグラムはマメに更新しています。よかったらそちらもご覧頂けると幸いです。ではまた!
プロフィール
渡辺友郎
わたなべ・ともろう|1974年、東京生まれ。レコード会社にてビジュアル・プランナーとしてCDジャケットや物販アイテムの制作を担当後、2007年に独立してクリエイティブ・プロダクション〈Lodge ALASKA〉を設立。翌年2008年には、架空のレコードレーベルをコンセプトに、国内外のクリエイターがデザインを手掛けるTシャツブランド〈タコマフジレコード〉を始動する。犬とビールが大好物。
Official Website
https://tacomafuji.net/
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