TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】私の楽園①

執筆:伊武雅刀

2024年6月10日

伊武雅刀


photo: Tatsuro Sekiguchi(portrait)
photo & text: Masatoh Ibu
edit: Yukako Kazuno

 日本で20年以上、毎年必ず訪れる場所がある。沖縄の石垣島から船で小1時間離れた所にある西表島である。毎年、雨季明けの頃に訪れるのが恒例となっている。泊まる宿も同じ宿、行く場所も、食べる店も、会う人も変わらず、年に一度の再会を楽しみにしている。

 西表島は時が止まっているのかと思うくらい変わらない風景が迎えてくれる。世界遺産になってしまったが、どこが変わったかと問われても、さぁいつも行く贔屓の店が予約でいっぱいになってびっくりしたくらいだね、というくらいなもんだ。梅雨明けに出回るマンゴーやパインも島バナナも豊富に手に入るし、島に来る船が大型船になって観光客は確かに増えた。でも、泊まる宿が大幅に増えた訳でも無いし、食事処もそんなに増えてはいない。じゃあ島に来た観光客はどうしてるんだろう。船着場の馴染みになった土産屋さんに聞いたら、殆どが日帰り客なんだそうだ。朝1番の船で来て観光して最終の船で帰るという忙しない旅をして楽しいんだろうか。他人の事はどうでも良いが。

 西表島は私にとって楽園である。毎年私達を迎えてくれるベランダから見る景観が、素晴らしい。午前中はこの景色を飽きる事なく眺めて過ごす。この朝の4時間を堪能する為に、遥々飛行機と船で西表島に渡って来る。太陽が容赦なく降り注ぐまでの至福の時間を過ごすために。朝が明け始める頃、森で朝告げ鳥のアカショウビンが鳴く。それを合図にいろんな鳥達が方々で鳴き始める。

 ベッドから抜け出し、ベランダのテーブルに持参したドリップコーヒーとナッツを用意し読みかけの本を持って椅子に座る。ボーっと目の前の景観を眺める。刻々と雲が変幻自在に変化する。体中の細胞が新しく入れ替わり、プラーナが全身を包み込む。

 コロナ騒動のおかげで気付いた事がある。あの当時は何処へ行くにも体温を測られた。医学的検知から見ると、理想的な健康な人間の基礎体温は36.5度以上らしい。それ以下だと低体温で、何処かしら身体に不具合があるらしい。私は通常、低体温、高血圧の人なのである。それが、沖縄に上陸した途端に36.5度になる。羽田空港で35.9度だった数値が那覇空港着いた途端に! 上昇したのである。その後来るたびに測ってみても数値は変わらず36.5℃。帰りに羽田空港で測ると36度を下回る。
 

 それ以来確信した。沖縄は身体に良い。命の洗濯にはもってこいの場所であると。沖縄の中でも北部のヤンバル地方に惹かれる。滞在している間は、頭と身体が解放されて、すこぶる元気になる。さらにパワーアップしてくれる場所があった。離島、西表島。始めて島に上陸した時に、吸い寄せられるように目の前の景観と包み込む空気に魅了された。遂に見つけた、私の楽園を。

プロフィール

伊武雅刀

いぶ・まさとう | 俳優。1949年東京生まれ。ラジオを舞台にユニット「スネークマンショー」にて活躍し、放送・音楽界に大きな影響を与える。アニメ『宇宙戦艦ヤマト』にてデスラー総統の声優を担当。映画『太陽の帝国』テレビドラマ『白い巨塔』など出演作多数。待機作に、2024年7月よりSF漫画を実写ドラマ化した『七夕の国』(ディズニープラス)、2025年1月スタート「雲霧仁左衛門ファイナル」(NHKBS)がある。

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