From Editors

何かを心から愛するってやっぱり素敵だ。車だってそう。

2024年5月8日

 POPEYEでは2年ぶりの車特集「車はともだち。」を作るにあたり、3か月かけて車を愛するさまざまな人たちに会って話を聞いてきました。購入したきっかけや、愛車の好きなポイントは人それぞれで、その人の人となりをよく表しているのですが、彼らに共通していたのは、車の話となると皆一様に前のめりで早口になるということ。映画でも、音楽でも、洋服でも、スポーツでも、好きなことについて語るとき、人は早口になるのだと思います。車とは、言ってしまえば、移動のための道具に過ぎないのかもしれませんが、彼らが愛車と向き合う姿勢には単なる機械に対するそれを超えたときめきがあって、話を聞いていると、まるで仲のいい友人のことを紹介されているようだなと。好きなものについて熱っぽく語る人を見ていると、なんだか惚れ惚れするじゃないですか。どの現場に行ってもそんな幸せなバイブスを感じられ、とても清々しい気持ちになったのです。

 特に印象深かったのは、若者たちの間で車を愛する人たちのコミュニティが形成されているということ。走り屋に限らない愛好家たちの輪がそこかしこにできていたのです。本誌でも様々なコミュニティを紹介していますが、なかでも印象的だったのが、国産のスポーツカーの魅力をショートフィルムにして伝える活動をしている「Street Motion Tokyo」。代表の髙橋慶さんは自身も1992年式の日産スカイラインに乗り、こだわりを持ってスポーツカーに乗るオーナーと愛車たちを映像に収めています。撮影現場に立ち合わせてもらうと、その熱量に圧倒。どう切り取ったらこの車が魅力的に映るのか、試行錯誤を繰り返しながら時に厳しく、時に和気あいあいと撮影を進める彼の、輝く眼差しとアスリートのようなかっこよさ。そして、流線形の美しいフォルムから、ブォンと肌にビリビリくるエンジン音を奏で、優雅に駆けるマツダ RX-7FCのなんとかっこいいこと。後日、わがままを言って彼のスカイラインの助手席にも乗せてもらった時は、ギューンとロケットのような加速に大興奮。これが『ワイルド・スピード』の世界か! これまでの人生でスポーツカーに憧れたことなんて一度もなかった僕ですが、ものの見事に感化されてしまったのでありました。

日本ツアーをしていたテスラ サイバートラックにも乗車させてもらった。未来を感じる車の新時代。

 さまざまな理由から車を所有するハードルが年々上がっているのは事実ですし、都市生活を送る上でエッセンシャルなものではないと、この特集をつくった我々も思っています。ただ、車というものには、単なる道具を超えたロマンやカルチャーが詰まっているということを再確認できたのも事実。それは、マイカーブームに沸いたかつてに限った話ではなく現在進行形であり、むしろ車を持つことが必然ではなくなった今だからこそ、新たなムーブメントが生まれているのだと思うのです。こだわりの愛車スナップにはじまり、車好きの先輩たちがどんな車に乗ってきたのか、黒沢清監督が車マニアとして唸った映画、音楽やアートに紐づいた国内外のカーカルチャー、お金やマナーに関する読み物や、最新のEV事情など。今、僕らが面白いと思う、車にまつわるエトセトラを詰め込んだのが最新号『車はともだち。』。車を愛する人たちの熱量をそのまま誌面に封入したつもりですので、この一冊を通じて、車を持つってなんだか素敵だなと感じてもらえたら幸いです。そう、僕が取材を通じて、微塵も興味のなかった国産スポーツカーに焦がれるようになったように。車って本当にいいものですね。

(本誌担当編集)角田貴宏