フード
明日から試せる、ワインがおいしくなる話。【後編】
TOKYO NATURAL WINE
2024年5月4日
talk 4
家飲みにはINAOのテイスティンググラスを使うべし。(by齊藤)
齊藤さん
僕らとしてはもちろんお店で飲んでもらいたい。だけど安くはないから、気軽に通うっていうのは、特に若い子には現実的じゃないと思うんですよ。そこで僕からは、家で飲むときの提案です。INAOというのは国立原産地名称研究所のことで、フランスでワインの品質保証をしている農協みたいなところ。そこが様々なワインを同じ条件で飲むために作ったテイスティンググラスがあるんですが、僕は初心者にまずそれを買うことをお勧めしています。
紫藤さん
6脚セットで5000円くらいで買えますからね。最悪、割ってしまってもそこまでテンションを下げずに済む(笑)。
齊藤さん
そうなんですよ。だけど、プロ仕様ではあるから、適当なものじゃない。6脚セットは箱に入って売られているので、そのままデュラレックスみたいなノリで、ワインと一緒にピクニックに持っていったりすればいいんじゃないでしょうか。そうやって缶ビールや缶チューハイが並ぶ日常的な風景の中に、ナチュラルワインをグラスで飲むという行為を、馴染ませていくのがまずは最初のステップなんじゃないかなって。プラカップで飲むのとは気分が全然違いますから。僕はプラカップで飲むなら飲まないほうがいいと思っていますが(笑)。
田代さん
僕はちゃんとしなきゃと思って、いきなりリーデルのグラスをサイズ違いで揃えちゃいました(笑)。それはそれでいい経験だったと今は思いますけど、ちゃんと楽しめていたかはわからないです。
齊藤さん
お店に行くと、そういうのを薦めてくるからね。だけど、それって運転免許を取ったばかりでポルシェに乗るようなもの。それにリーデルとかのクリスタルグラスは表面がザラザラだから、スワリングしたときに香りを増幅してくれる半面、水垢がつきやすいんですよ。その点、INAOのテイスティンググラスは、表面がツルツルのいわゆる強化ガラスだから、水垢がつきにくく、扱いも楽。例えばピクニックの後、2時間放置しても、こびりついたワインを洗い流せますから。リーデルとかロブマイヤーを買うのは、それが物足りなくなってからでいいんじゃないでしょうか。下手にいいグラスを買ってしまったため、扱いが面倒だからと使わなくなり、結果としてワインからも遠ざかってしまうのはもったいないと思うので。
紫藤さん
さすがの提案だ。INAOのテイスティンググラスはシティボーイの必需品ってことで(笑)。
田代さん
僕も今は家でINAOのテイスティンググラスを使っていますが、実際、日常的にワイングラスを使うことのハードルを下げるという意味では間違いないですよね。
柴山さん、ここで遅れて登場。
紫藤さん
もう終わるぞ!
柴山さん
すみません……。
プロフィール
齊藤輝彦 『アヒルストア』店主
さいとう・てるひこ|1977年生まれ。茨城県出身。屋台運営や酒販店勤務などを経て、2008年、妹の和歌子さんと『アヒルストア』開業。番組ではディレクターも務めるリーダー的存在。
talk 5
味だけじゃなく、色や香りにも注目しよう。(by柴山)
柴山さん
ワインの楽しみ方って話ですよね? お店でも家でもできるんですが、ワインには銘柄を伏せたまま飲んで、それが何か当てる“ブラインド”って遊びがあるんですね。先入観なしにグラスに注がれたものだけと向き合い、友達や恋人と「自分はこう感じたけど、あなたはどう思う?」と語り合うのは、ワインをより楽しむって意味ではいいんじゃないかなと思うんですが、どうでしょう。別に間違ってもいいんですが、知識が増えていくと、「これはフランスのワインかな?」「だったらぶどうの品種は何かな?」「酸があるから北の方かな?」「アルコールが強いから南かな?」とか予想できたりもします。ワイン生産者の方とそういう遊びをすると、彼らは年代で当てにいくんですよ。「雨の影響を強く受けた味だから、この年のものじゃないか?」とか。生産者の方々はそれくらい毎年の天候を気にしているってことなんですけど……。
齊藤さん
そこまでいくと初心者にはレベルが高すぎない?(笑)
柴山さん
まぁ、そうかもしれませんが、“ブラインド”は、飲む前に色や香りとしっかり向き合うきっかけにもなると思うんですよ。僕らもつい忘れがちですが、それってすごい大事じゃないですか?
紫藤さん
いいこと言った!
柴山さん
もちろん、最初は味にフォーカスして全然いいんですよ。でも、その次のステップとして、色を見て香りを嗅いでから飲むと、視覚と嗅覚からキャッチできることの多さに気づけるはず。そうやって色々なワインに触れれば、「こういう色や香りなら、こういう味だ」とか予想できるようにもなるし、そういうところから自分が好きなものを見つけることもできるようにもなる。まぁ、その予想が裏切られる楽しさもあるんですけどね。
齊藤さん
完全にナチュラルに造らないと出ない色ってありますからね。光にかざしたら、淡く濁ったすごく綺麗な桃色だったり。飲む前から「これは絶対にやばい」ってわかるときはあります。
岸さん
ファッションと同じですよね。見た目はその人の考え方や内面を表すというか。「自分の好きな女の子はこういう洋服を着がちだな」とか、俺たちはいつだってそういうことを考えていると思うんですよ。
田代さん
“俺たち”って言わないでください(笑)。
岸さん
まぁでも、極端に言えば、ファッションを見て、「この人には人間としてどういう味わいがあるんだろう?」と判断することはあるじゃないですか。そう考えれば、色や香りに注目するってことは、別に難しいことじゃない気がします。
柴山さん
だから、「飲んで美味しい」のその先というか、その一歩手前にも新しい世界が広がっているよと。
齊藤さん
別に“ブラインド”じゃなくてもいいんですが、家で友達や恋人と味について語り合うのは、僕も重要だと思います。そのときやってほしいのは、少なくともボトルを2本買って、同時に抜栓すること。1本飲んだだけだと、やっぱり「そっかー」で終わってしまうじゃないですか。2本あれば飲み比べることができる。
岸さん
比べないとわからないことは、確実にありますよね。
齊藤さん
その上で、何がどう違ったのか自分なりの言葉で表現して、一緒に飲んでいる人と語り合えば、ワインに対する自分の中の解像度が上がっていくと思うんですよ。誰かの感想に対して、「その視点はなかったな」という気づきも生まれるでしょうし。そうやって自分の中で深めた後は、ネットでインポーターの説明を読んでみるのもお勧めです。もちろん、それが正解というわけではないけれど、ひとつの指針にはなると思うので。僕は映画を観た後、YouTubeの解説動画を見るのが好きなんですけど、それと同じですよね。そういうことを繰り返して、点と点が線になって、自分の中にワインのマトリクスというか世界地図を形成できれば、お店に飲みに行ったときも、「じゃあ、どこに位置付けられるのかな?」とか、「この辺のものが自分は好きなんだな」とか、より深いレベルで楽しめるようになる。ただ酔っ払うのも悪いとは思いません。だけどそういうもうちょっと能動的な向き合い方も、ナチュラルワインにはあることを知ってほしいですね。1本のワインを飲むことって、芸術に触れるのに近い体験だと僕は思うんですよ。深掘りすべき文化的な側面が間違いなくありますから。
岸さん
1本のワインは作品ですよね。
齊藤さん
そうそう。工業的なものではなく、私的なもの、インディペンデントなものであり、ヴィンテージごとに味も違いますから。それを咀嚼して、自分なりの言葉にして確かめるのって、めちゃくちゃいい趣味じゃないかと思うんです。それでいて酔えるという特典もつくんだから最高じゃないですか。
岸さん
本当にそのとおりで、味わいを言葉にするのはすごく大事だと思います。ワインに限らず、食事の感想って「美味しい」という言葉で集約しがちなんだけど、それをもっと紐解いて、別の形容詞を見つけ出す。それってやっぱり、練習しないとできないこと。ただ、その形容詞が増えることは、対象をより深く味わうことに、絶対に繋がっていると思います。理性と言うと大袈裟だけど、そういうものでも味わおうよってことですよね。
齊藤さん
だから、まずはエチケットで選んでまったく問題はないけど、第2段階としてはそういう楽しみ方に進んでほしいですね。
プロフィール
柴山健矢 『祥瑞』ソムリエ
1980年生まれ。日本にナチュラルワインを広めた故・勝山晋作のワインバー『祥瑞』でソムリエを務める。番組では、ワインスペシャリストならではのコメントに定評がある。
インフォメーション
SHIBUYA Midnight Wine Bar “1AM”
毎週月曜23時から渋谷のラジオで放送中。元は「オトナの恋愛トークバラエティ」と銘打っていたが、コロナ禍を経て現在のスタイルに。収録は紫藤さんの『Libertin』にて。
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