カルチャー

あなたにとってのシティボーイとは?Vol.1

2024年2月18日

HOW TO BE A MAN


illustration: David Sparshott
edit: Ryoko Iino
2016年6月 830号初出

『ポパイ』が“City Boy”を再び掲げ、早4年。思い描く“像”は、今でも人それぞれだからこそ、このあたりでもう一度、この問いを14人に投げかけたい。

ファウンダー、元『INVENTORY』編集長
ライアン・ウィルムスにとってのシティボーイ

アンディ・スペードのイラスト
アンディ・スペード|ディレクター。1962年生まれ。’97年にメンズブランド〈ジャック・スペード〉を、2013年にはパジャマブランドの〈スリーピー ジョーンズ〉をスタート。92ページでは〈クラークス〉のスエードブーツを見せてくれた。

 何にもとらわれず、自由気ままにマンハッタンを闊歩する男。履き慣らしたデザートブーツと〈リーバイス〉のデニム、そしてスポーツジャケットというスタイルがいい。遠目でもわかる、“らしい”眼鏡をかけた、その人物はアンディ・スペードだ。アンディと会える機会があれば、きっと馬が合うような気がしている。とっかかりやすい自然体がむしろ自信を感じさせるしね。ピカソの複製画が壁に掛かっているっていうハンプトンの別荘で過ごすことも多いらしい。とてもセンスがよくて、手掛ける仕事のどれもいい。でも、魅力は彼のユーモアセンスにもあって、個人のプロジェクトなんかは最高だよ。自費出版のiPhone用ブックや、「パートナーズ&サンズ」のギャラリー兼ショップ兼スタジオのインスタレーションもよかった。知性を感じるし、すごくシティボーイらしいなって。

映像ディレクター
大根仁にとってのシティボーイ

佐野元春のイラスト
佐野元春|ミュージシャン、シンガーソングライター。1956年生まれ。’80年にレコーディング・アーティストとして始動。代表作に「SOMEDAY」や「ガラスのジェネレーション」などがある。Daisy Music主宰。

【千代田区神田生まれ。父は会社経営者、母は元新劇の女優で青山のレコード喫茶店のマスター。中学入学直後に同級生からトランジスタラジオをもらい、ブリティッシュロックに傾倒。ピート・タウンゼントに憧れてギターを購入。詩にもはまり、ランボーやマラルメなど愛読。中学2年の初夏にヘルマン・ヘッセの詩にメロディをつけたものが初の自作曲となる】Wikipedia冒頭の文章だけでクラクラするほどシティボーイ!! ですが、オレにとっての佐野元春シティボーイ期は、「アンジェリーナ」でデビューから「SOMEDAY」でブレイクする前まで。それは1980年3月〜1981年6月なのですが、その時期の“オレが大好きな東京”を象徴していたのが佐野元春だと思います。

ミュージシャン、俳優
ピエール瀧にとってのシティボーイ

中井貴一のイラスト
中井貴一|俳優。1961年生まれ。’81年に東宝の『連合艦隊』でデビューし第5回日本アカデミー賞にて新人俳優賞受賞、’83〜’87年にはドラマ『ふぞろいの林檎たち』シリーズで人気を博す。

 シティボーイの条件って品の良さ、嫌味のなさだと思うんです。ガッチリお洒落をキメてても、これらの要素が足りないとシティボーイではなく、ただの“シティにいるボーイ”になってしまいます。要するに田舎モンですね。中井貴一さんはそういう意味ですごく正統な気風をまとっている感じがします。トラディショナルに負けない感じ。琥珀が似合いそう。

ミュージシャン、ceroボーカル
髙城晶平にとってのシティボーイ

王舟
王舟|ミュージシャン。上海生まれ、日本育ち。バンド編成やソロでのライブ活動の他、CMへの楽曲提供、プロデュースなども行う。今年1月に2ndアルバム『PICTURE』をリリースした。

 小学3年生の頃、上海からバカンスとして日本にやってきた王舟。現在も東京に“滞在中”なわけだが、今度はイタリアにツアーに行くらしい。「海外旅行なんて日本以来だわ」と話す王舟に思わず「お前まだ日本旅行してんのかよ」とツッコミを入れたくなる。とうに中国語もあやふやな根無し草。ホーボー。だけどそういうヤツこそどこの街でもすぐに溶け込んでしまうのだろう。都市の成り立ちが人の集まる場所を起源としているならば、いつの時代でもそういう場所には王舟みたいなヤツがいたにちがいない。

フードエッセイスト
平野紗季子にとってのシティボーイ

井之頭五郎
井之頭五郎|『孤独のグルメ』主人公、輸入雑貨の貿易商。『月刊PANJA』誌上で’94年から’96年にかけて連載された久住昌之原作、谷口ジロー作画の漫画『孤独のグルメ』の主人公。2012年にはテレビドラマ化。その際には俳優の松重豊が演じた。

 シティボーイは言わずもがな街が好きだ。では同じようにシティを愛する年上の先輩、つまり港区を中心に生息する東京大好きおじさん(高層マンションから日々夜景を眺め、予約の取れないレストランの座席をいくつも持ち、高知への移住など決して考えていない)は、シティボーイのロールモデルたり得るのか? というとそれは不思議とちょっと疑問。彼らの生態はやや不可解で、今日最先端のアーバンライフを満喫していたかと思えば次の日には竹富島のプライベートビーチでノーwifi最高! とか言ってオリオンビールを飲んでいる。東京23区がアーバンレベル5だとすると、大自然の孤島は1であり、つまり彼らは5と1ばかりを極端に愛で、2とか3、例えば柏みたいな街には見向きもしない。何もないと思っている。そういうところがいけ好かない! 本当はそんなことないのに。すべての街は面白いのに!っていうのは私の散歩の方針&今日ここで言いたかったことなんだけど、まさに『孤独のグルメ』主人公の井之頭五郎さんは、2や3に属するような冴えない街であってもニヤニヤしぶとく歩き続ける(師匠ォー!)。街の葉脈に入り込み路地裏をすり抜け、たまに大変な失敗をしながらもうまそうな物語の漂う小さな店を追い求める、その背中は永遠の少年だ。街に貴賎などない。真のシティボーイは、すべての街を愛している。そういう人なのだと思う。

イラストレーター
死後くんにとってのシティボーイ

ビル・マーレイ イラスト
ビル・マーレイ|俳優、コメディアン。1950年、シカゴ生まれ。日本では『ゴーストバスターズ』のヴェンクマン博士役で一躍有名になった。代表作に『恋はデジャ・ブ』などがある。ウェス・アンダーソン監督作品の常連でもある。

 僕が思うシティボーイは、“都会にいる洒落た男”というより、佇んでいるだけで、その場がなぜか都会的で洒落た、“シティ”な雰囲気になってしまう、そんな男だと思います。つまりはビル・マーレイのことです。例えば、田んぼ道、パチンコ店の行列、納骨堂、月面、どこでもいいのですが、物憂げな顔のビル・マーレイを、所在なげにぽつんと立たせてみてください。どうでしょうか、たちまち“シティ”な感じにならないでしょうか。どんな場所でも彼が佇んでいればそこは“シティ”となるのです。ところでゴーストバスターズの新作にはビル・マーレイ出てないの?