カルチャー
今回のマーロウは騎士道精神を体現していると思う。
『探偵マーロウ』公開記念。リーアム・ニーソンにインタビュー。
2023年6月15日
フィリップ・マーロウ。それはハードボイルド小説家のレジェンド、レイモンド・チャンドラーが生み出した私立探偵の名前。これまでも幾度となく映画化されてきた”マーロウもの”に、新たな息吹を吹き込んだのが『探偵マーロウ』だ。舞台は1930年代のLA。謎めいた美女から失踪した愛人の探索を依頼されたマーロウが、ハリウッドに巣食う闇に巻き込まれていく。今作でマーロウを演じたのは、これが出演100作目だというリーアム・ニーソン。この伝説的なキャラクターにいかにして向き合ったのか。リーアムに話を聞いた。
ーー今回、リーアムさんはフィリップ・マーロウという伝説的な探偵を演じられました。これまでにも、ハンフリー・ボガード、ロバート・ミッチャム、エリオット・グールドなどが演じ、それぞれ強烈なインパクトを残してきたキャラクターですが、ご自身としてはどのようにアプローチしていったのでしょうか。
基本的に、マーロウの世界に身を浸すというアプローチでしたね。私は読書家ではあるんですが、これまでチャンドラーの小説を読んだことがなかったんですよ、恥ずかしながら。だから、マーロウを主役にした全作をまず読み込みましたね。
その上で、子供の頃に観ていたボガード版の映画(『三つ数えろ』)や、アルトマンが監督した『ロング・グッドバイ』を観直したり、ミッチャムが演じた2作(『さらば愛しき女よ』『大いなる眠り』)を観たりもしました。ただ、それはインスピレーションを得るためというよりは、彼らに敬意を表するためでしたね。彼らのマーロウには無理がないんですよ。同じように私も、無理なく自然体でありながら、どこか生きることに対して疲れたような独特の雰囲気を醸し出すマーロウ像を打ち出せればと思っていました。
また、今回の『探偵マーロウ』が他の映画と比べてユニークなのは、マーロウがアイルランドの兵士として、第一次大戦に従軍していた過去が強調されていることです。ということはもちろん、戦地では凄惨な光景をたくさん目にしたでしょう。だからこそ、彼の中には自分の信じる正義が確かにあって、それでもって世界を正したいという気持ちがあったに違いない。彼が巻き込まれる世界は、白黒がはっきりしない部分も多く、後ろ暗い人物たちがたくさんいます。そういう世界に正義感を持って挑むマーロウは、一方の足を司法に、もう一方の足を黒社会に突っ込んでいるわけで、その辺も興味深いなと思いながら演じました。
そして、撮影当時私は68歳だったんですが、自分はこれまでたくさんの人生経験を蓄えてきたんだから、今の自分はマーロウを演じるに足るんだと信じ、自分の解釈するマーロウにその経験を取り込みたいと思いながら演じていましたね。
ーー今仰られたように、今作のマーロウはアイルランドの兵士として従軍した過去を語ります。それ以外にも、登場人物たちが絶えず紅茶を飲んでいたり、ジェイムズ・ジョイスが引用されたり、アイリッシュ感が強調されていたように思います。その世界観と、リーアムさん自身の俳優としてのイメージが相まって、今作のマーロウはこれまでで最も騎士道精神を体現しているように見えて、とても新鮮でした。
騎士道精神という言葉を出してくれて、すごく嬉しいです。今回のマーロウには間違いなくそういう部分があると思います。白馬の王子様ではないかもしれないけど、錆びついた鎧を纏った円卓の騎士の1人として、正義を求めて冒険の旅を歩んでいくような。もちろん、彼が出会う人たちは後ろ暗い悪党ばかりです。警官ですらも悪かったりする。その意味で、社会のグレーゾーンを彼は歩いているわけだけど、彼の魂の中には正義を求める騎士がいたんじゃないかと思います。
ーー今作にはハードボイルド映画ならではのカッコいいセリフが多数登場します。ご自身として、1番印象に残ってるセリフがあれば、教えてもらっていいですか。
撮影したのは2年前だから……ちょっと待ってくださいね(笑)。あ、マーロウがとある施設に足を踏み入れ、襲撃してきた悪党を倒した後、落ちたハットを拾ってかぶり、退出しようとするときにつぶやく、「私ももう歳だな」ですかね(笑)。これは脚本にはない自分のアドリブだったんですけど、ドアまでの距離が2、3歩あったので、何か言葉で埋めたいなと思って、リハーサルのときに提案したんです。
インフォメーション
探偵マーロウ
アメリカ・ロサンゼルスに事務所を構える探偵フィリップ・マーロウ(リーアム・ニーソン)を訪ねてきたのは、見るからに裕福そうなブロンドの美女クレア(ダイアン・クルーガー)。「突然姿を消したかつての愛人を探してほしい」依頼を引き受けたマーロウだったが、映画業界で働いていたというその男はひき逃げ事故で殺されていた…!? 捜査を進めるにつれ謎が深まる“ハリウッドの闇”――探偵マーロウが辿り着く真実や如何に。6月16日より公開。
プロフィール
リーアム・ニーソン
1952年6月7日生まれ。北アイルランド出身。『シンドラーのリスト』(93)でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされる。代表作に『スター・ウォーズ エピソード|ファントム・メナス』(99)、大ヒットシリーズ『96時間』(08、12、14)。他の出演作は『ギャング・オブ・ニューヨーク』(02)、『ラブ・アクチュアリー』(03)、『バットマン ビギンズ』(05)など。これまで出演した作品の世界興行収入の累計は70億ドルを超える。2人の息子の父親で、ユニセフ親善大使も務めている。本作『探偵マーロウ』は彼にとって映画出演100本目であると同時に『ブラックライト』(22)、『MEMORY メモリー』(22)に続く2023年本邦公開主演作3本目でもある。
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