カルチャー

【#4】Feedback Playing/都市と共鳴する映画 

執筆: 稲垣晴夏

2023年2月27日

text: Haruka Inagaki(kenchikueigakan2023)
edit: Yukako Kazuno

2023年2月末開催の映画祭「建築映画館2023」では建築にまつわる19作品の映画が上映された。都市や建築という切り口でプログラムを作る過程では、さまざまな映画を新たに知ることができ、日本であまり紹介される機会がなかった作品にも出会えて嬉しかった。今回上映するアメリカ北西部の都市・ポートランドの都市問題をあつかった映画『プロパティ』(1979年)もそのひとつだ。

ポートランドという都市は、ロサンゼルスのような映画の中心地ではないけれど、80年代以降のアメリカ映画でその存在感を増している。ガス・ヴァン・サントやケリー・ライカートの映画で見かける、広くて青い空、いくつかの丘がある平らな土地、郊外に広がる渓谷や急流、マツの原生林などの風景になじみのある人もいるだろう。これらの地形が守られてきたのは、とりわけ1970年代に都市部の広がりの地理限界を定めた“都市成長境界線”によるところが大きい。その反面、拡張できなくなった都市部では、居住者の増加からジェントリフィケーション(貧困層居住区の再開発にともなう土地の高級化)が深刻な問題になっている。今日の日本に住む私たちにとってもまったく他人事ではない問題である。

土地の売却を伝える看板(映画『プロパティ』より)

1970年代当時、ポートランドで演劇の活動をしていたペニー・アレンは、近所の歴史あるアフリカ系アメリカ人居地区に住む人々が再開発のために立ち退きにあうのを目にし、この不条理な出来事に抵抗するために友人達と映画を撮ることにした。彼女と共に製作にクレジットされるのはガス・ヴァン・サント作品や、ラリー・クラーク『KIDS』などの撮影監督として知られるエリック・エドワーズ。二人は地元テレビ局で地域の問題に焦点を当てたドキュメンタリー・シリーズ『Urban Free Delivery』を共同制作しており、本作のアイデアもそこから生まれたものだと言う。

『プロパティ』撮影風景(左からエリック・エドワーズ、ウォルト・カーティス、ナサニエル・ヘインズ、ペニー・アレン)

なぜ「所有(Property)」をテーマにしたのだろう? 現代の都市では区画整備された土地の収用がその変化や発展には欠かせないものになっているが、ときにそれはその場所で暮らす生活者をなおざりにしてしまうことがある。そもそも、いずれの土地も誰かの所有物であるという取り決めとは何なのか、それはその環境に身を置くだけではなかなか見えてこないものだ。

ブレヒトに影響を受けたペニー・アレンは「異化」と呼ばれる手法をこの映画に持ち込み、そのあたりまえに存在する決まりごとと人々との間に分け入っている。映画の中では、現実を新たに経験し直すようにして、実際に起きた近隣住民による土地の買取運動が演じられる。(ちなみにこの撮影の終了後、ペニー・アレンは弁護士を雇って映画の権利を手に入れている。現在も映画は彼女によって所有されており、今回の上映も彼女のおかげで実現できた。)

『プロパティ』撮影風景

ちなみに本作の製作メンバーは全員知り合いづてに集められ、録音技師として呼ばれたのはエリック・エドワーズの高校時代の親友である若き日のガス・ヴァン・サントだった。この撮影現場を通じて、彼の初長編映画「マラノーチェ」(1986年)の原作者(本作主演をつとめたビートニクの作家・詩人ウォルト・カーティス)との出会いがもたらされたことが知られている。そんなことも相まって、本作はアメリカ北西部のインディペンデント映画シーンの草分けともなっている。

『プロパティ』撮影風景

ペニー・アレンはこの映画の監督でありつつ、自分自身を「地域コミュニティのまとめ役」だったと話す。この映画は、70年代にある都市の片隅でささやかに束ねられた人々の活気とともに、私たちにあたらめて都市を見つめ直させてくれる。

プロフィール

建築映画館2023

建築をテーマとした映画祭。2/23〜2/26、アンスティチュ・フランセ東京にて開催。今年度は「構造」「建築と人物」「図面」「アーカイブ」「都市」の5つのテーマで作品を紹介。上映に併せ、映画・建築双方の分野からゲストを招きトークショーも開催。映画館という建築物に集うことで、映画のなかの建築をフレームの外へ拡張させ、実際の都市・建築の議論へフィードバックすることを目指している。

Twitter
https://twitter.com/KenchikuEigakan

Official Website
http://architectureincinema.com/