POPEYE本誌にて特集された、牧野さんが僕の住む函館を訪れた軌跡。
酒場と銭湯がテーマの特集であるがゆえに本誌には描かれなかった我々の取り組みがある。
僕らは取材の合間を縫って、公民館で絵とピアノのセッションをした。
そこには海が見える音楽室がある。
古いグランドピアノがあり、一人練習にもよく使っている。
僕はここで、牧野さんも縁があるミロコマチコや原田郁子さんが訪れてくれた時もセッションをしたりしていた。函館における僕の秘密基地だ。
我々はいよいよ酒場部活動だけではなく芸術活動として、牛窓で二人のコラボレーションのオファーを受けたのだ。
それに向けて、牧野さんの提案で前々から絵と音楽の往復書簡を始めていた。
牧野さんが原画を描いて何枚か送ってくださり、それを譜面に見立て、僕がテープに音楽を録音して返送するというアナログな往復書簡。
せっかく会ったのだから、一度生でやってみようということになり、我々の初セッションが行われた。取材とは関係ないが、POPEYE編集部の榎本くんや、ライターさん、カメラマンさんたちも見届けてくれた。

牧野さんは即興で絵を描いてはピアノの譜面台に置き、僕もそれを見てピアノを即興演奏する。
その音を聴きながらまた牧野さんは絵を描く。
何枚も、何曲も。
終わらない循環セッションは日が暮れるまで続き、最後は牧野さんもピアノに参加して連弾した。
弦をひっかき、鍵盤を拳で押し込んだ。
酒場ではおおいに語り合う我々も、その時間は一言も喋らなかった。
海の波音までが聴こえてくるような静寂にも包まれて。
旅が終わり、牧野さんからメールが届いた。
「今回始まったはるか君との旅を、これから生涯続けられたら僕はどんなに幸せだろうと思っています。」
僕らの旅は、またこれから始まるのだ。
セッションが終われば銭湯につかり、酒場へと肩を組んで繰り出していくのである。
