トリップ
【#3】旅に病んで夢は枯野をかけ廻る①
2022年8月26日
text: Takashi Miyata
edit: Ryoma Uchida
8月19日は俳句の日。今回のテーマは俳句、ではなく若いうちに旅に出ましょう、というお話。タイトルはシティボーイなら全員知っている、俳人松尾芭蕉の最後の句。
「辞世の句」として紹介されることもあるけど、わざわざ「病中吟」と書いたことからも、今は病で伏しているけど、治ったら旅に出るもんね、という心境だったのだろう。残念ながらこの句を詠んだ数日後に芭蕉さんはこの世を去ってしまった。また旅に出ること叶わず。
千葉県の船橋に住んでいたばあちゃんが大好きだった。NYに住む息子(私にとっては伯父)に会いに行ったり、レイバンのサングラスかけてオーストラリアのエアーズロックに行ったり、満州に住んでいたことも、海外の話をよくしてくれた。
ばあちゃんの口癖は「あんたが大学に入ったら、ばあちゃんの荷物持ちで一緒に海外行くんだよ」だった。男は荷物を持て、レディには常に紳士であれ。なんだか男のあるべき姿をいろいろ教わったが、私が高校2年の春に他界してしまった。芭蕉さんもばあちゃんも旅に行きたいと思っていたけど行けなくなった。
旅は行ける時に行かないと行けなくなってしまう。
それから2年後の1998年1月末、私は人生初の海外旅行に出た。場所はインド。大学1年の冬休みだった。二日酔いの朝、ベットで横たわりながら、ふと2年前にばあちゃんの家から持って帰ってきた『地球の歩き方 インド』版をパラパラと読み始めたら止まらなくなった。気がついたらデリーの旅人の入口メインバザールにいた。
インドはでたらめだった、なにもかもが。高校までの教育と常識が一切通用しない世界だった。たった数円が欲しいために2キロついてくる幼子、停留所で徐行しかしないバスに突いていた杖の持ち手を引っかけて飛び乗る腰の折れた老婆。列車内で自分の座席に座ろうとしたら堂々と違う人が座っている。軽く精神が崩壊してもおかしくない環境で数十日過ごし、日本に再びたどり着いた時は、「ああ、日本で生まれてよかった、明日から真面目に、本当に、本当に真面目に生きよう、こんなに恵まれた環境にいるのだから」と強く強く思った。
知らない世界に興味が湧いた。ほかにはどんな国や文化があるんだろう。以来、旅にのめり込み、2020年11月のハワイ渡航まで毎年どこか異国の地を訪れ、気が付けば71ヵ国、渡航回数は100回を超えていた。私は幸いなことに19歳から42歳までの23年間、旅に行き続けることができた、コロナ禍になるまでは……。

続く。
プロフィール
宮田崇(旅行ガイドブック『地球の歩き方』編集長)
地球の歩き方とは、1979年に発刊した老舗の海外旅行ガイドブックで観光地の見どころやグルメだけでなく、歴史や文化、食、マナーや言葉まで、そのエリアをきちんと知るための情報が網羅されている。語学が苦手な日本人でも、この1冊で日本の空港から旅立たせ、再び無事日本の空港へ帰すことを信念に作られているので、旅人に寄り添った作りになっていることも特長のひとつ。
スマホ時代の現在、旅人に必要な情報まで最短でたどり着かせる『検索結果の集合体』と言われることがある。
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