TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
LIFESTYLE

【#4】やってみる、やってみる、やってみる

2022.05.31(Tue)

「こんな本を作りたい」クライアントの要望に応える時、頭の中で考えて起こりうることを想定しても実際にやってみないとどんなことになるか分からない、ということは多々あります。「試しにやってみる」ということは篠原紙工の中でも大事にしていることの一つで、やってみた結果、思わぬところから制作のヒントが得られることもあります。思えば製本に関わること以外にもルールや常識はひとまず横に置き、「とりあえずやってみようか」というマインドで動いた結果の賜物は社内でもチラホラ。

私が篠原紙工に入社したての頃、あるデザイン会社さんが自分たちでお昼ご飯を作っているのを見て心動かされたことがあります。そういうことをしている会社の話は聞いたことあるけれど、実際にやっている人たちと出会ったのは初めてで、生活を創造的にするってこういうことだな、という印象を受けたのを覚えています。篠原紙工はキッチンも完備してないし無理だな…と私が呟くと、そのデザイン会社の方が「炊飯器でご飯だけでも炊いてみたら? あったかくて、炊きたてで良い香りのご飯があるだけでも、きっと違うよ。」と一言。とりあえず真似してみようかな、くらいの気持ちで、自宅から小さな炊飯器を持ってきて、希望者だけでスタート。突然会社で米を炊く行為に厳しい意見もありましたが、そこを切り抜けなんとか継続。そして、かれこれ8年。篠原紙工のお昼はすっかり大所帯になって「同じ釜の飯を食う」というのはこういうことか、と言わんばかり、お昼の時間に仕事の話で盛り上がったり、笑い声も聞こえてなかなか良い感じです。側から眺めて、あの時やってみてよかったな~なんて密かに喜びを感じております。

話は戻って、本について。ある時、金属感のある本を作る、ということをテーマに制作スタッフが試しにシルバーの箔押しを本の背表紙に施していた時のこと。何度やってもうまくいかず、箔がまだらな状態で、美しいとは言えない感じでほぼ諦めたのですが、あるスタッフがこの状態もこれはこれで悪くないと思い、念のため社内の本棚に保管していました。すると、ある時、その箔の不均一さが写真集のテーマを表現するのに適しているということで、その仕様が採用される、ということがありました。

本文の表と裏に厚紙を貼る装丁「ドイツ装」。

こんな風に、製本のことだけでなく働き方や生活の中でルールを変えてみた、やってみたけど続かなかったり、上手くいったり、大小含めていろんなことを試行錯誤してきましたが、ちょっとした些細なことでも物事はどう展開するかわからないなということを実感します。

私から見たら、良くも悪くも軽さとゆるさのある篠原紙工はあまり失敗を失敗と捉えないという雰囲気が全体にあるように見えるのですが、個人的にその社風から学ぶことは割と多く、自分のストイックな性分が実はいろんなことを邪魔していたという気づきや、一見マイナスと思いきや時を得てプラスなことに変換される出来事を観察すると、即座に失敗というジャッジをしなくてもいいのだな、と思います。それこそ、失敗の定義は人それぞれ。ポジティブに偏りすぎず、ネガティブにも陥りすぎない、起こった出来事をニュートラルに捉えながら、常に何か小さな希望や未来に繋がる光を見出せるような思考方法を味方につけ、自分を含めて会社という組織も成長させたいものです。

写真集『Night Order』(著: 小田駿一) 
photo(book): Masaki Ogawa

プロフィール

田渕智子(篠原紙工)

たぶち・ともこ|個性豊かな本を作る製本会社、篠原紙工の社員。大学卒業後スコットランドでの海外生活を送り2014年に帰国。同年、印刷製本のイベントにて友人との偶然の再会をきっかけに篠原紙工に入社。社内の違和感に蓋をせず明らかにしてゆこうとする姿勢で会社や社員と向き合い、現在の篠原紙工に至るまでの在り方を育む。日々の業務はお茶出しと植物の水やり。篠原紙工HPでは日々を文章にする「綴る」を担当。ライフワークとして毎年スコットランドに足を運ぶ。

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