ライフスタイル

【#3】人と人、物と人、コミュニケーションと向き合う

2022年5月24日

1冊の本ができるまでには多くの方々が携わり、制作で次の工程に渡す際に相手の状況を想像する、細かな注意点を付け足すなど、伝え方に注意しないと思わぬところでミスの落とし穴にハマってしまいます。
「コミュニケーションは大事」よく聞く言葉ですが、話す、伝える、聞く、など、事柄の意思疎通だけを意味するものではない、ということは8年間同じ会社に勤め続けて心底実感しております。今でも何が一番良いコミュニケーションなのか、分からない、というのが正直なところ。

雑誌『Subsequence』volume01
雑誌『Subsequence』volume01
2019 アート・クラフト・カルチャーの世界を日英のバイリンガルで紹介。

そして、社内でのコミュニケーションは終わりなき課題。コミュニケーションとは、対人間で心と心を通わすことだと思うのですが、メンバー同士で飲みに行く回数が多いから心が通じ合えている、という事でもないですし、「通じ合っている」と感じるのは個人によって様々。その上、会社に対しての想い入れも人それぞれだから、それによって関係性の深さも変わってくると思います。ある程度の「人それぞれ」を尊重しつつも、篠原紙工としては各メンバーと心でつながって仕事をする関係性を理想としています。感謝や喜びを伝えるのはもちろんだけど、些細な壁や違和感に気づいて、話し合いを重ねることによって初めて心でつながる信頼関係やチームができるものだと…今の時点では思っています。お互いに向き合う勇気を持たなければならないけれど、人間が集まった以上、そこから逃げてしまっては会社の精神的成長は始まらないな、というのが私の実体験です。

ミシン綴じ
手触りが心地良い紙を使用。一冊ずつ手でミシン綴じ。製本は篠原紙工。

そして、気づいたことは、人は余裕がないと自分と向き合う気持ちになかなかなれない。だから会社はなるべく外部的ストレスを無くして環境を整えることも大切だし、些細なことは許して自由を与える方が人間は結果、自主性みたいなものが多少は芽生えるのだと感じています。でも、そういう外部的環境が整った後に残るのは自分。結局のところ、コミュニケーションでまず大事な一歩とは他人とではなく、「自分」なのではないだろうか?「自分はどうしたいのか」「今の自分のご機嫌はいかが?」という問いはいつも私の周りをウロウロしています。

雑誌『Subsequence』volume01
同じ内容でも、言語が違うと伝わり方も微妙に違うように感じます。

話は飛びますが、共通言語が英語の友人と話している時のこと。自分の伝えたい想いや考えが3割くらいしか話せた気持ちになれず、非常に悔しい思いをしながら相手の反応をみると、思いのほか私の言いたいことを理解してくれている時があります。親しい間だから起こる事かもしれないけれど、人は言語だけでコミュニケーションをしているのではないのだな、と思うのです。表情や目つき、仕草や態度など、からだ全体で表現している。広く考えると動物はもちろん、植物や身の回りにある物も、時折その存在そのものが何かを伝えようと、発している気もする…。それを察しようとすることも一つのコミュニケーションと言いましょうか。人間であるならば言葉も大事、でもそれ以上の何かもきっとあるはず。私たちはとても不確実で曖昧、不思議な世界に生きているのだな…と思うのです。

雑誌『Subsequence』volume01
ぜひ手に取って頂きたいおすすめの一冊です。
photo: Masaki Ogawa

プロフィール

田渕智子(篠原紙工)

たぶち・ともこ|個性豊かな本を作る製本会社、篠原紙工の社員。大学卒業後スコットランドでの海外生活を送り2014年に帰国。同年、印刷製本のイベントにて友人との偶然の再会をきっかけに篠原紙工に入社。社内の違和感に蓋をせず明らかにしてゆこうとする姿勢で会社や社員と向き合い、現在の篠原紙工に至るまでの在り方を育む。日々の業務はお茶出しと植物の水やり。篠原紙工HPでは日々を文章にする「綴る」を担当。ライフワークとして毎年スコットランドに足を運ぶ。

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