ライフスタイル

森に浮かぶベランダから浅間山を眺める、愛犬と過ごすマイペースな新生活。【前編】

ヤマスソクラシウラヤマシ Vol.1 /船山改

photo: Koh Akazawa
lettering: Daijiro Ohara
text: Fuya Uto

2025年2月7日

山で暮らしてみたい。朝はむせるくらい思いっきり綺麗な空気を吸いたいし、焚き火を眺める夜を過ごしてみたい。でも、カフェでお茶するのも、古着屋やインテリアショップで買い物するのも同じくらい好きだから、街でも遊びたい。というわけで、そんな都市と自然の両方をバランスよく楽しむ暮らしを“ヤマスソクラシ”と定義して、全国津々浦々のお家を訪ねてみた。モダンな感覚を持ちながら、街へのアクセスが比較的よい場所で自然とともに暮らす、そんな人々。自分なりの工夫で住まいをつくることは、誰にでもできる人生最大の表現。そんな暮らしに憧れる。

 コナラ林の斜面に突き出すようにニョキっと建つ平家。山風が身体中を包み込むほど開放感のあるベランダの向こうでは、標高2500mを超える浅間山が悠々と聳えている。辺りには街路灯ひとつない。こんなところに住まいが……? と、東京で生活する自分にとっては思わず目を疑うほどの超グッドロケーション! にもかかわらず佐久ICもすぐそばで、最寄りの佐久平駅は新幹線も通ってアクセスもいいし、電波もビンビン。まさに“穴場”で昨年11月から愛犬ロビンと一緒に暮らすのは船山改さん。〈Burton〉や〈Hereness〉をはじめ、数々の国内外のブランドへ図案を提供する新進気鋭のデザイナーだ。

壁に掛かる絵をはじめ、ダイニングには主に自身のアート作品が並べられている。手前の雲柄のグラフィックがプリントされたスノーボードはカリフォルニア発の〈Signal Snowboards〉とのコラボレーションアイテム。

ロビンが座っているテーブルと椅子は軽井沢にある〈三井木工〉と共作している商品のプロトタイプ。部材同士を固定するための伝統的な建築道具「くさび」を天板と足に用いたユニークな設計だ。釘を1本も使わない仕様だから取り外しもスムーズで、今年2025年から〈クサビ〉というブランド名で販売を予定している。

昨年から福島県の職人と一緒に試作している桐のカトラリーセット。「殺菌作用と保温効果があるから珈琲豆もばっちり」。

鹿の角をハンドルに、真鍮の丸棒で接合されている〈山賊プロダクト〉のククサ (北欧発祥の木製マグカップ)は毎日の相棒。

「1日の始まりは、ベランダで朝日を浴びながら、山々と御代田の町なみを眺めて飲む珈琲から」

 そう聞くと、順風満帆な“山裾暮らし”の先輩のようだけど、かつては地元を飛び出し、東京で暮らしていた時期もあった。転機が訪れたのは文化学園大学を卒業した後のこと。

「そのまま東京を拠点に25歳までフリーのパタンナーとして過ごしたのですが、車の騒音や電飾の光など大量の情報が無意識に入ってくる環境に心のバランスを崩してしまいました。回復するために地元の軽井沢に帰ったはいいものの、2年間はまともに仕事ができなかったですね。都会はやる気さえあればどこまでも成長できる最高の環境だと思いますけど、僕にとっては、より自分という存在を敏感に感じられる、マイペースな生活が合っていると身体を通してわかりました」

 その経験は山で暮らすきっかけになったと同時に、ものづくりにも大きな影響を与えた。和をテーマにした文様を描き始めたのもその頃からーー