カルチャー

9月はこんな本を読もうかな。

近づきつつある読書の秋に読みたい7冊。

2021年9月1日

text: Keisuke Kagiwada

『推敲』
トーマス・ベルンハルト (著) 飯島雄太郎 (訳)

破天荒かつ厭世的な世界観で文学史にその名を轟かすオーストリア人作家トーマス・ベルンハルト。その中期の長編であるこちらは、自殺した友人の遺稿を整理すべく、動物剥製師の家の屋根裏部屋にこもった主人公を、ベルンハルト節炸裂で描く。いやー、素晴らしい。¥3,960/河出書房新社

『ファスター ──1930年代のモータースポーツカルチャー』
ニール・バスコム(著) 吉野弘人(訳)

1930年代のモータースポーツ界の内幕に肉薄するノンフィクション。随所に散りばめられたレースシーン描写が圧巻なのはもちろん、ヨーロッパが大戦へと突き進んでいく様子が自動車産業の視点から描かれるのも興味深い。映画『フォードvsフェラーリ』好きは必読。¥2,640/パンローリング株式会社

『文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室』
アーシュラ・K・ル=グウィン(著) 大久保ゆう(訳)

『ゲド戦記』などで知られるアーシュラ・K・ル=グウィンが、小説執筆の技巧をカジュアルに解説した一冊。〈実例〉〈解説〉に加え、〈練習問題〉までついた、優れた教科書になっている。そしてなにしろ彼女のウィットに富んだ人柄がとてもよく伝わってくるのがよき。学生時代にこんな先生がいたらなぁ。¥2,200/フィルムアート社

『サワー・ハート』
ジェニー・ザン(著) 小澤身和子(訳)

上海生まれニューヨーク育ちの俊英によるシティ感覚の短編小説集。描かれるのは上海からニューヨークへ移住した極貧一家で育つ少女のコミカルな日常だけれど、それを通して、移民をめぐるさまざまな苦境も浮き彫りにされる。色んな意味で今こそ読みたい。¥3,245/河出書房新社

『ミュージック・ゴーズ・オン~最新音楽生活考』
柴崎 祐二 (著) 栗原論 (写真)

時代の最先端をゆくミュージシャンたちに、「どんな音楽を聴いてきたのか?」を問うインタビュー集。ceroの髙城晶平さん、ミツメのnakayaanさん、VIDEOTAPEMUSICさん、D.A.N.の櫻木大悟さんなどなど、本誌ともゆかりの深い人たちがたくさん登場するぞ! ¥1,980/ミュージック・マガジン

『死、欲望、人形 評伝ハンス・ベルメール』
ピーター・ウェブ、ロバート・ショート(著) 相馬俊樹(訳)

『攻殻機動隊2 イノセンス』などにも登場する、怪しい色香を放つ球体関節人形。そのオリジネーターと言ってもいいのが、ハンス・ベルメールだ。本書は父親やナチスなどの権威への反発から人形制作を開始したベルメールの本格評伝。あの人形にそんなサイドストーリーがあったとは! と驚くこと必至。¥4,950/国書刊行会

『アニエス・ヴァルダ 愛と記憶のシネアスト (ドキュメンタリー叢書)』
金子遊他(編)

『5時から7時までのクレオ』や『幸福』など数々の名作を作り、2019年に90歳で没した映画作家のアニエス・ヴァルダ。こちらは彼女の全貌に迫った論集だ。娘へのインタビューや、夫であり映画監督でもあったジャック・ドゥミ(『シェルブールの雨傘』の人ね)との関係などについても知れて、勉強になる。¥2,200/neoneo編集室