カルチャー

【#3】ビッグバンドとファッション

2022年4月25日

text: Mitsuyoshi Azuma
edit: Yukako Kazuno

前回書いた様に、会社勤めをしていた頃はスーツの呪縛から逃れることばかり考えていたが、バンド活動の方ではかなり前から、スーツ着用も考えざるを得ない様な状況にあった。というのも、私のSwinging Boppersというバンドでやっている「ジャンプ」というジャンルではビッグ・バンドの形式が取られることも多く、そこで着られていた服も圧倒的にバンドお揃いの制服というかスーツなのだ。

結成間もない頃には、各自スーツらしきものを着てくる様に、という指令を出していたのだが、個人持ちのスーツを寄せ集めても楽団には見えず、同級生の披露宴後の二次会にしか見えない。本物はどう見えるか、という一例として1943年に制作された”Stormy Weather”という映画の中の最後の一曲を見て頂こう。

「凄い踊りだっ!」
でっすよねー!というのもあるが、何とも格好良い衣装である。ちなみにこれは元々白黒の映像をカラーにしたもので、技術の進歩は兵器ではなくこういうことに使われてほしい。で、80年代後半にやはりこれを目指そう、と決心したのだが、ここでコストの問題にぶち当たった。楽団員は全部で12名、一人一万円でも12万円、こんな費用をかけたら当時の活動では、ライヴ4回分以上がノーギャラになってしまいバンド労組がストを起こしかねない。そこで色々と安い服屋を探した結果、巣鴨のとげぬき地蔵商店街に極安洋品店がある、と聞いて視察に行ったところ、何とジャケット一着980円、というのを発見し即購入してきた。賢い経営判断だな、と自我自賛しつつ当時制作していた88年発売の二枚目のアルバムのジャケットもこの服を着て撮影した。

二枚目のアルバム "Hepcats Jump Again"
二枚目のアルバム “Hepcats Jump Again”

ところがその後、次第に楽団員達から不満が噴出してきた。
「洗濯したら子供服サイズに縮んだ」
「楽器ケースから出すとシワだらけだった」
「何で私服より格好悪いものを着るのか」
そんなこんなで、次第に着て来なくなる人間が増えて、結果、今日に至るまでライヴ時の正式ドレスコードは「白シャツ蝶ネクタイ」のみとなった。フロントの私だけはスーツだが、これも古めのスーツ屋さんで型落ちの2サイズぐらい上のものを1万円とかで買って丈だけ切ってもらうと先ほどの映画の様なスーツに見えないことも無いのである。お試しあれ。

プロフィール

吾妻光良

あづま・みつよし | 1956年2月29日、新宿生まれ。60年代中頃から70年代中頃のロック / ブルースブームの波に飲み込まれギター演奏にも没入し、大学を卒業したらミュージシャンになる、という野望を抱えて5年生になるまで大学に通ってみたが、いまひとつ開花せず断念。サラリーマン生活に突入するが、42年を経て退職の時を迎え、 遅咲きのプロ入りを果たす。吾妻光良 & The Swingin’ Boppers、吾妻光良トリオ+1などで活動中。座右の銘は「善人に悪い人無し」。

Official Website
https://s-boppers.com/