カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.4
紹介書籍 『牛乳配達DIARY』
2022年4月15日
text: Densuke Onodera
edit: Yu Kokubu
2021年3月 Web初出
人間らしさのまなざしで反抗
パンクの曲名や歌詞の中によく出てくるdehumanizationという単語。直訳すると「非人間化」という堅苦しい感じなのだけど、人を人として扱わない姿勢、人間性を否定する態度、人間らしさを奪う社会システム、そんなイメージで私は捉えている。
人間同士が殺し合う戦争、あらゆる暴力行為や差別的言動は非人間化の分かりやすい例だけど、非人間化の事例は私たちの日常の中にも潜んでいる。
例えば、膨大な量の仕事を短時間でこなさなければならない時、私たちは効率を最優先に「機械的」に仕事をせざるを得ない。それが絶対的に悪い訳ではないんだけど、優しさや誠実さの優先度を下げて効率的に仕事をこなしている時って、どこか人間の心を亡くしてる。それが一定のレベルを越えてしまったり、罵倒されて人格を否定された時、その非人間化を前に私たち人間の心は崩壊する。生産性や利益が優先される資本主義って、非人間化の状況を容易に生み出す社会システムだと思う。
自分の人間性を否定されて生きていると、人は他者の人間性を否定することで自分の人間性を肯定しようとする。それによって生まれるのは差別や暴力で、非人間化の負のループは拡大していく。
パンクスはこの「非人間化」に抗ってきた。
多くのパンクバンドが非人間化に対してNOと叫んできたけど、その根底にある基本スタンスは徹底的に「人間らしくいること」だ。それは欠点も含めて自分が自分のままで生きようとする態度であったり、人を属性や印象だけで判断しない他者へのまなざしだ。
社会に自分を変えられずに自分のまま生きること。人間性のまなざしを捨てずに他者と生きること。そんなパンク的な姿勢が『牛乳配達DIARY』には詰まっている。
本書はハードコアパンクバンドでも活動している著者のINAが牛乳配達員として働いていた頃の出来事をマンガにした作品だ。
配達先の客には「おたく商売むいてないと思うよ」と言われ、会社には「ノルマが達成できないとアルバイトに降格」と脅される。苦手な営業で成績は振るわず、ミスをしては落ち込む日々。それでも著者が頑なに手放さなかったのは他者に人間性を見いだす優しいまなざしだ。
それは配達先の優しいおばあさんや無邪気な子どもたちに対してだけではなく、クレームを言ってきた年配の男性や、仕事中にパチンコをしてしまうどうしようもない同僚に対しても向けられる。ノルマを課してくる嫌な上司にすら、なんだか人間味を感じてしまう。それは非人間化の対極にある、著者の優しいまなざしのたまものだ。
効率的な配達と新規契約のノルマを課せられた牛乳配達員の姿は、資本主義社会における労働者や会社員の典型的な姿だ。そんな環境の中でもダメな自分のまま日々を生き、他者への人間的なまなざしを保ち続ける著者の姿に私は励まされたし、「人間らしくいること」で非人間化に抗うパンク的な姿勢を垣間見た。
「俺は一体なにをしてるんだろう」(P.190)
著者が飛び込み営業の仕事中に、ふと感じた虚無感。その感情をごまかさずにちゃんと感じとれる人間の心を、私も失いたくないなと思った。
紹介書籍
牛乳配達DIARY
著:INA
出版社:リイド社
発行年月:2020年4月
プロフィール
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