ライフスタイル
【#3】NEW YORK ART BOOK FAIR
執筆: 桂井智彦(Manila Books & Gift )
2022年2月24日
photo & text: Tomohiko Katsurai
edit: Yukako kazuno
ニューヨークで有名なイベントと言えば「NEW YORK ART BOOK FAIR」がある(以後NYABF)。Zine好き、アートブック好きには、夢のようなイベントだ。世界中から、出版社やアーティストが集まり、ありとあらゆる本が売買されている。ここでしか出会えないであろう著名人にも会える素晴らしいイベントである。
KAWSは、世界的アーティストと言うこともあり、さすがにセキュリティーにガードされていた。UNIQLOとのコラボレーションで、世界中で買い占めや混乱が起こった事が記憶に新しい。そのKAWSに、店主はフラッシュで写真を撮ってしまったのだ。フラッシュに気付いたセキュリティー達がざわついている。当のKAWSが苦笑いをしながら店主を見ている。どうやらセーフだったらしい。うん、たぶん彼はいい人だ。うん。きっとそうだ。
話は変わるが、出版社や他のアーティストの交流が多岐に渡る、写真家のAri Marcopoulosは、初対面の何処の馬の骨だか分からないような店主に対してもフレンドリーで、彼の独自の世界観からなる写真に対する想い、日本での思い出などを親切に話してくれた。かけがえのない時間だった。この出会いも冒頭のイベントがあったからこその事である。
オークランドとロサンゼルスに拠点を持つTiny Splendor PressのMax氏との出会いも幸運だった。彼は、リソグラフ(デジタル孔版印刷)とリトグラフ(石版画)のプロフェッショナルだ。リソグラフの説明になるが、シルクスクリーンの手法を使った印刷機である。印刷単価の安さとリソグラフにしか出せない味わい深さがアーティストに好まれ、多くの作品が制作されている。Tiny Splendor Pressもリソグラフの素晴らしいZineを多く出版している。彼が持つリソグラフの技術力は、間違い無く世界でもトップクラスだ。機会があれば、手にしてほしい一冊である。日本が大好きなMaxだ、名古屋でもリソグラフのワークショップをやりたいらしい。再会が待ち遠しい。
そんなMaxが「Yoshi!」と誰かを呼んだ。
現れたのは、写真家のヨシ・ユバイ氏であった。彼はサンフランシスコのV.Valeが編集する、ビート・カルチャー直系の歴史ある学術誌で、日本人としては唯一、V.Vale氏に師事した経験のある人物だ。NYABFに来るかもしれないという事は、人づてに聞いていた気がして、慌ててiPhoneを取り出し、友人からのメールを確認する。やはりそうだ。ユバイ氏と確認できたので、恐る恐る声をかける。彼は、快く迎え入れてくれた。その後は彼に会場を丁寧に案内してもらった。その後、彼は伝説的なPUNKバンドであるCRASSのGee Vaucherと親しげに話しだした。元来、PUNK ROCKが好きな店主にとって、まさに夢物語の出来事であった。写真についても色々な話を惜しげなく話してくれる。彼の撮るストリートフォトの奥深さとストレートさはYubai氏の人柄そのものだと思っている。こちらも手にしてほしい一冊である。
こうして彼等と有難いことに今でも交流が続いており、当店の様な小さな店舗でも、彼らのZineを取り扱う事ができている。中には取り扱いに年単位の時間がかかったアーティストもいたが、やはり、ありがたい出会いの場所なのである。
この原稿を書いている2022年2月時点で、新型コロナの伝染は収まる気配はない。全てがバーチャルでのやりとりとなってしまっている。NYABFも、現在はバーチャルによる開催だ。本音を言えば、一日でも早くあの夢のような空気感を味わいたいものである。
最後に
NYABFには色々な人が来客されている。
ひと目でそれとわかる業界人からアートブック市場を支えるファン達だ。当然、お洒落で尖った連中ばかりだと店主は思っていた。実際にそういった人達も多い。しかし現実は、例えるならば近所の老夫婦みたいな方達も確実にいるのである。老若男女、気負いの無い人達である。想像だがアートブックを含む様々なカルチャーを生活の一部に取り入れ純粋に楽しんでいる。店主はそんな人達が大好きだ。
このあたりに日本のART BOOK FAIRとの違いを感じている。出版物でアートを表現したり体験する事が文化として根付いているのである。風土の違いがあるのは重々承知しているが、こういう文化が日本にもあってほしいと思うのは店主だけであろうか? そう自分に問いかけながら、その一助となるべく毎日店を開けているのである。
プロフィール
桂井智彦(Manila Books & Gift )
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