TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
FASHION

【#4】浜辺はミラクルワールド!

2021.10.29(Fri)

  ビーチコーミングで歩く浜辺、ふだん私たちが生活している場所とは全く違うミラクルワールドです。そこは海の生き物と、陸の生き物との生死を隔てる境界線です。中にはふだんは海中で生活していますが、産卵の時だけ砂浜を利用するしたたかなウミガメもいます。そんなミラクルワールドは、特別な海岸でもなく身近な浜辺で、そんなに遠出をしなくても出会えるものです。

 人の生活には欠かせない塩。愛知県の浜辺では1500年ほど前から、海水を煮詰めて塩が作られてきました。その時に使われたのが、小さなお椀の底に長めの突起がついた製塩土器でした。できあがった塩は土器に入れたまま流通しましたが、長めの突起は邪魔になるため折って捨てられました。製塩は海岸に近い場所で行われますので、大量に捨てられた製塩土器の突起は、今でも知多半島の浜辺の広範囲で見かけます。こうした土器や陶磁器は重いので水に浮くことはありませんが、海が荒れた時に海底から揺り上がり、海中を移動して砂浜に打ち上げられます。津波石と言われる巨大な岩が運ばれてくることや、ふだんは砂浜なのに嵐の後では礫の浜になっているのも同じ仕組みですね。

 製塩土器、江戸時代の陶磁器、そして現代のプラスチック製品が、時空を超えて同居する浜辺はまさにミラクルワールドです。博物館ならガラスケースの向こうに並んで鑑賞するだけのモノが、手に取ることができる浜辺で、陶磁器の破片に夢中になる人がいます。そんな友人は、自戒も込めてハンドルネームを「陶片狂」とされていました。


愛知県の海岸で見つけた陶片、1000年ほどの時空を超えた陶片が一緒にある

 私たちが町で生活をしていて、生き物の死体と出会う機会は、夏の公園に落ちていたセミや昆虫、そして稀に見かけるロードキルで轢かれた小動物くらいですね。けれども浜辺には生き物の死体がイッパイ!白骨ゴロゴロの浜辺もあって、まさにミラクルワールドなのです。そんな白骨の転がる浜辺を見ても、ほとんどの人は驚きません。中には「わ~キレイな貝殻!」と言って喜んで、気に入ったモノをポケットに入れる人もいます。ヒトなど脊椎動物は体の中に骨をもつ内骨格です。貝やカニなどの無脊椎動物には貝殻や、カニの甲羅のような外骨格の生き物です。ですから貝殻は貝の残した骨なんですね。ヒトの骨はリン酸カルシウムで出来ていますが、貝殻は炭酸カルシウムで、かなり丈夫です。色も様々で模様も美しいものがあり、貝のコレクションを楽しむビーチコーマーは多いですね。


割れたり、摩耗しても独特の存在感がある貝殻

 もちろんミラクルワールドは貝殻だけではありません。私が2021年の1月から9月末までの間で浜辺で出会った動物の死体はかなりの数になります。ウミガメ3(一部の骨なら10個以上)、イルカ類2、ハシボソミズナギドリなどの海鳥50以上、魚類は数えてないのですが500は軽く超しているでしょう・・・とこんな数にのぼります。そうした死体をコレクションすることはありませんが、珍しいものは関係機関に連絡をして、収蔵標本になるお手伝いをしています。

 ミラクルワールドの浜辺では、人の手から離れたモノ、自然界のモノなど様々なモノと出会うことができます。私の師匠・石井忠先生は、浜辺のことを「渚の百貨店」と呼ばれていました。長く浜辺を歩かれていた石井先生は、早くから海ごみの増加にも心を痛め、人と動植物が共存する生態系に狂いを生じた時には、人の存在をも覆すほどの事になると、警鐘を鳴らされていました。


海が荒れた後に渥美半島の田原市に漂着した大量の海ごみ

福井県美浜町に漂着した大量のプラごみ

 最近話題になっているマイクロプラスチックとは、5㎜以下になったプラスチック片のことです。こうした細かなプラスチック片は、海に浮かんでいたプラスチック製品が波の力や、紫外線によって破壊され、細かくなったものです。浜辺で砂浜を観察すれば、大小のマイクロプラスチック片が見つかります。それを洗って写真のようなPET容器に入れて、しばらく放置してください。およそ一月ほどで開封すれば嫌なプラスチック臭が鼻をつくはずです。この臭いを嗅げば、プラスチックが生物の体に良いものではないことが体感できます。

マイクロプラスチックを含むプラスチック片

渥美半島の豊橋の海岸清掃を行うサーファーたち

 興味深いモノに溢れたミラクルワールドはまた、私たちが作り出したプラスチック系の海ごみがあふれた「自然界の赤信号」が目立つ場所でもあるのです。ビーチコーミングをせずとも、浜辺に親しむことで、多くの人が「赤信号」に気付くことを願ってやみません。

プロフィール

Shige Beachcomber

シゲ ・ビーチコーマー。幼少時より海や自然と親しみ、拾い物に目ざめる。1990年より福井県恐竜発掘調査に参加、その後富山県でも恐竜発掘調査に参加、現在に至る。学生時代にAmos Woodさんの著したBeachcombing for Japanese Glass Floats を知り、アメリカ人が日本の浮き玉に興味を持っているのを見て驚く。初代漂着物学会会長である故・石井忠先生の著作を通して、漂着物に関心が湧き、その後、石井先生を師匠と仰ぎ、日本海側と太平洋側でビーチコーミングを続けながら、布教活動も行っている。漂着物学会員、福井県海浜自然センタービーチコーミング講座講師。

WEBサイト
https://beachcomberjp.jimdo.com/

Instagram
https://www.instagram.com/shigebeachcomber/?hl=ja
SHARE: