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【#2】山の化石探しから、海の拾いモノへ

執筆: Shige Beachcomber

2021年10月15日

text & photo: Shige Beachcomber
edit: Yukako Kazuno

 子どもの時から拾いものが好きだった私・・・小学生のころは化石少年でした。小学校1年生の担任T先生はデスモスチルスという海獣の化石が見つかった町に住んでみえました。「裏山から化石が出るぞ!掘りたいやつはいるか?」に即、反応したのは言うまでもありません。こうして小学生のうちは化石や石を集め、下を向いて歩いていました。その後、野鳥観察に夢中になり、空を仰ぐことも覚えましたが、羽を拾ったりと下を向くのは得意で、猫背気味なのは、それが原因かもしれません。

 昭和から平成に移るころ、北陸地方で恐竜の化石が見つかり初めました。私が子供のころは、まだ日本からは恐竜化石が見つかっておらず、遠くアメリカやカナダ、それにモンゴルあたりまで行かないと出会えないと思っていたので、そんなニュースは私をワクワクさせました。

 1990年4月、福井県立博物館で開催されていた「特別展・恐竜時代-日本と中国-」を、恐竜好きな友人らと見に行き、展示されていた福井や石川で発見された恐竜の歯や足跡化石に驚きました。その帰り道、せっかく福井まで来たのだから化石産地でも見て行こうと、大野市の化石産地まであしを伸ばしました。崖の下まで進み、あたりに転がる岩を見渡していた時のことです。何と先ほど博物館で見てきた足跡化石に似たものが見つかったのです。「まさか?」とは思いましたが、博物館に連絡し、調べてもらったところ福井県で最初の恐竜足跡化石となったのです。

1990年、福井で最初に公表された恐竜の足跡化石

 足跡化石の発見が契機となり、真夏の発掘現場、博物館内での調査研究のお手伝いで、頻繁に福井に通うようになりました。ちょうどその頃、石井先生の「漂着物事典」との出会いもあって、冬の福井の浜辺を歩いてみることにしました。そこで出会えたのは、アオイガイというタコの一種が作り出す貝殻でした。アオイガイの雌は産んだ卵を守るゆりかごとして、石灰質の非常に薄い貝殻を作ります。この殻はアンモナイトと同じ頭足類のもので、殻の縦横比が、1:1.618の黄金比に近い非常に美しいものです。そして移動の少ない底生の貝と違い、海中を泳ぐ蛸が身に着ける貝殻なので軽くなければなりません。そのために殻を薄くするだけではなく、トタン板と同じ波状の凹凸構造を持つことで強度を確保しているスグレモノなのです。このアオイガイの美しい造形は私を魅了しました。

打ち上げられたアオイガイ

 またアオイガイは南方系のタコですが、卵を育てながら海流に乗って拡散して行きます。南方の海や黄海あたりで発生したアオイガイは黒潮や対馬暖流に乗って日本海に入ってきますが、海水温の低下により弱ってしまいます。こうした個体は北西の季節風が作り出す波の影響で岸辺近くまで流され、冬の北陸の浜辺に打ち上げられるのです。近年、海水温の上昇などにより、アオイガイの拡散する北限は上り、北海道でも日本海側で観察されるようになってきました。また青森と北海道との間にある津軽海峡を抜けて太平洋側に出て、その後に親潮の影響で南下し関東で見つかることもあります。このアオイガイ、全く漂着が見つからない年もあれば、ちょっと歩いただけで数十個が見つかる大量漂着もあります。近年では2015年の12月から2016年の1月にかけ、石川県と福井県で少なくとも1500個ほどが漂着しています。

アオイガイの内部に残された卵

 さて、Amos Woodさんの本で知ったガラスの浮き玉探し、愛知県では頓挫していたのですが、福井の浜歩きでは、あっけなく見つけることができました。最初に見つけたのは福井の三里浜砂丘でした。北西の季節風にさらされながら砂浜の汀線に沿って歩いていたときのことです。先の方に何やら透明な丸いモノが!ガラス瓶かな?と、大して期待もせずに近寄れば、何とエボシガイの付着した本物のガラスの浮き玉❕❕夢が叶い雄叫びが出てしまいました。

三里浜砂丘に打ち上げられたガラスの浮き玉

 そして、そのさらにその日は西にある鷹巣海水浴場まで歩けば5個追加で、合計6個ものガラスの浮き玉を手に入れることができました。あれほど探しても見つからなかったガラスの浮き玉が、2時間ほどのビーチコーミングで6個、そして美しいアオイガイも打ち上がる福井の浜辺。冬の福井でのビーチコーミングに魅了されたのは言うまでもありません。

2時間ほどのビーチコーミングで見つけたガラスの浮き玉

 三里浜砂丘は九頭竜川の西に広がる12㎞ほどの砂丘でしたが、港や工業団地などの建設により狭められてしまいました。それでも4㎞ほど続く砂浜は今でも魅力に富んでいます。これから季節風も吹き始め、漂着物が増えてくる時期です。アオイガイ、ガラスの浮き玉、それに今問題となっている海ごみも打ち上がります。お近くにお住まいなら、ぜひ天気の良い日に歩いてみてはいかがでしょうか?今この浜は、福井市自然史博物館のビーチコーミングの会場にもなっています。

プロフィール

Shige Beachcomber

シゲ ・ビーチコーマー。幼少時より海や自然と親しみ、拾い物に目ざめる。1990年より福井県恐竜発掘調査に参加、その後富山県でも恐竜発掘調査に参加、現在に至る。学生時代にAmos Woodさんの著したBeachcombing for Japanese Glass Floats を知り、アメリカ人が日本の浮き玉に興味を持っているのを見て驚く。初代漂着物学会会長である故・石井忠先生の著作を通して、漂着物に関心が湧き、その後、石井先生を師匠と仰ぎ、日本海側と太平洋側でビーチコーミングを続けながら、布教活動も行っている。漂着物学会員、福井県海浜自然センタービーチコーミング講座講師。

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