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恋のはじまり、3か月の記録。
2021年8月6日
illustration: Shigokun
text: Ryota Mukai
僕はポパイのライター、ムカイリョウタ。今、恋人がいる。 きっかけは、忘れもしない2019年12月31日。僕はフラれた。紅白歌合戦で流れるラブソングを聴いて泣いた。それくらいショックだった。だが、転機は案外すぐにやってきたのだ。ちなみに、これはほぼ実話である。
DAY1 「遅れてるね」と言われて始めたマッチングアプリ。
年が明けて、1月2日。公開されたばかりの映画『パラサイト 半地下の家族』を大学時代の先輩と観て、飲みに行った。「半地下っていうのは、経済的な格差を表しているんだよね」と映画の考察を始める先輩をよそに、僕は聞いてほしくて仕方なかったあの話題を切り出した。
「実は僕、大晦日にフラれたんですよ」「えー! タイムリーだね。でも告白できてよかったじゃん」「もうどうしようかなって。出会いないじゃないですか」「マッチングアプリはやらないの?」「やらないですよ〜。そこまでじゃないっていうか」「そうなんだ。ムカイくんて、遅れてるね」
「遅れてるね」!? 聞けば、先輩もやっているというし、「恋人ができたらいいけれど、友達もできて面白い」というので俄然気になる。失恋のショックを埋めてくれるのは、恋しかない。まずは始めてみようと、先輩も使ってるペアーズに登録することにした。
DAY2 そもそもプロフィールづくりがおもしろいじゃないか。
そうと決まれば、早速ダウンロード。ニックネームや生年月日をトントンと入力したら1分ほどですぐにスタートできる。だが、気になる人を探す前に、まずはプロフィールを充実させなければならない。当たり前だが、男性(26歳)というだけでは誰も信頼してくれない。簡単なところだと、職種、年収、結婚願望、一人暮らしか実家暮らしか、といった項目を選択していく。ちなみに僕は書店員でもあるので、仕事は「接客業」にした。「ポパイのライター」と書いて、名前負けするのもしんどいし……。喫煙者だから「タバコ」の選択肢があるのは、後々のためにもいいことだと思った。「初回デート費用」は割り勘か、どちらが多く払うか、というなかなか現実的な設問も。
難しかったのは写真選び。女性のプロフィールも参考にして、顔や服装がわかるような写真を選んだ。たくさん見られるほうが信頼されるかなと思って、最初から5枚くらい載せてみた。自己紹介文も書いて気になる人を探し始めると、早速知り合いを発見。僕は本当に遅れていたようだ。
DAY4 恋人探し、の前に好きな”コミュニティ”をディグる。
いろんな人のプロフィールを見ていると、「コミュニティ」なるものに参加していると気がついた。本、音楽、映画、ファッションから、仕事やライフスタイルに至るまで、ジャンルは様々で、各ジャンルにコミュニティがある。例えば「映画」ジャンルのなかには、「クリストファー・ノーラン」「バーフバリ 王の凱旋」「A24」をはじめ無数のコミュニティが。タップすれば、それに参加している人がわかるし、自分が好きなものに参加すればそこで人に見つけてもらえる可能性もある。
参加したコミュニティは自分のプロフィールに表示されるから、参加するほど趣味嗜好がより可視化されるというわけだ。これが自分のアバターを作っている感覚があってかなり面白い。ちなみに「ポパイ」コミュニティもあって、僕ももちろん参加していた。
DAY5 「いいね!」は押すも待つもドキドキだ。
ついに準備は整った! あとは気になる人にアプローチするだけ。つまり、「いいね!」を押すのだ。共通のコミュニティがたくさんあれば趣味が合いそうだと判断したり、「喫煙者はNG」と書いてあれば手を引いたり。といっても使い始めは、あまりの人の多さにたじろぐことも。そんなときには、ペアーズが提示してくれるお互いの相性を示すパーセンテージが参考になる。
ひとつ教えておきたいことがある。ログイン時間のチェックだ。プロフィールにグリーンの丸が付いていたら「オンライン中」、オレンジなら「24時間以内にログイン」、グレーは「24時間以上ログインなし」といった具合にわかるようになっている。グレーはお休み中の可能性が高いから、「いいね!」押し損のリスクも大きい。逆にグリーンやオレンジなら、こちらと同じく、最近ペアーズを楽しんでいる証し。恋はタイミングが大事、というけれど、それはペアーズでも変わらないのだ。
もちろん、「いいね!」してもらえることもある。僕の場合は1日に1回あるかないかくらいだったから、毎晩帰りの電車でドキドキしながらそーっとペアーズを起動していた。「いいね!」に一喜一憂するのも、案外楽しいものだ。 あとは、相手のリアクション待ち。「いいね!」が返ってくればメッセージができるようになる。晴れて初メッセージを迎えるわけだが、大きな問題があった。僕はメッセージのやりとりが苦手だ。そこで考えたのが定番の質問たち。相手が映画好きなら、直近で観た作品とよく行く映画館、本好きなら、今読んでいる本と通っている書店を聞く、と決めていた。これなら、好きなことの話もできて、それなりに相手のこともわかる。
その上、もうひとつルールを決めていた。それはやりとりを始めて3日ほどたったら、食事に誘うこと。断られたら……と思うと緊張もするけれど、3日と決めておけばなんのその。単純なことが背中を押してくれるものだ。
DAY14 アプリを飛び出し、はじめまして。
そしてついに食事の日。プロフィール写真を見ているとはいえ、初対面の相手をきちんと認識できるか自信がない。というわけで、待ち合わせのときは電話をしながらがオススメ。万が一の人違いを防げるし、緊張感もそれなりに解けた状態で話ができる。会って話すことといえば、鉄板はペアーズのこと。「どのくらい使ってるんですか?」「何人会ったんですか?」といった話題は、利用者同士でしか共有しえない魔法のトークで、毎度のように盛り上がった。それに、仕事の話も欠かせない。書店とポパイ編集部しか知らない僕からしたら、CMプロデューサーや会社の経理、美術館の学芸員が日々こなしていることは、「こんな仕事があったのか!」の連続だった。
では、実際にどんな人に会ったのか? 初めて会ったのは10歳年上のAさん。翻訳家でエッセイストの岸本佐知子さんの本が好きで、当時Netflixで配信開始されたばかりの映画『マリッジ・ストーリー』の話で盛り上がった。会ったのは彼女がよく行くという高円寺で、その日だけで馴染みの立ち飲み屋に3軒も連れていってもらった。今でも行っているほどのいいお店を教えてもらえるなんて最高だ。
会ってみると、実はかなり身近! という人も。知り合いの後輩のBさんだったり、僕が働く書店にも来たことがあるCさんだったり。どちらも話しているうちにそうだとわかって、一気に打ち解けた。地方の美術館に勤める学芸員のDさんは、距離の問題で会うことはないと思っていたけれど、ヌーベルバーグからグロテスクな邦画(なんと『悪趣味邦画劇場』を枕元に置いて寝ていた!)まで観ている、超映画好きだとプロフィールからわかったので、即「いいね!」。電話だけだったけれど、とても楽しかった。
DAY90 そして、恋は続く。
そして今付き合っているのが最初にデートをしたAさん。コミュニティを見る限り本や映画の趣味が合いそうなのに、写真では僕と違うまるっきりモードな服装が逆に気になった。恋人になってからは友達ぐるみで飲みに行ったりして徐々に関係性が広がっている。今の楽しい生活を、紅白を観ながら泣いていた自分に見せてあげたい。きっかけを作ってくれた先輩に感謝を伝えたら、彼にも恋人ができていた。
思えば、3か月間にわたるペアーズライフは毎日賑やかだった。「いいね!」は総計100回以上押しているし、そのうち50人ほどとメッセージをして、実際に10人くらいと会った。ほとんど週に1度のペースで初対面の人に会っていたわけだ。まさにジェットコースターのような日々。でも、ひとつ言えるのはめちゃくちゃ楽しかったということ。それ以来、出会いがないと嘆いている後輩や友人がいたら「とりあえず始めたらいい」と言うようにしている。
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