TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
LIFESTYLE

【#2】ガラガラヘビを見た。

2021.07.16(Fri)

小学6年生のとき、家の庭でガラガラヘビを見た。

なんかこのへんでガラガラ、ガラガラ聞こえるなーと思い、 生い茂った雑草の中を覗いたら、 そのまんまテレビで見たことがあったガラガラヘビがいた。

体長50センチくらいの細身ボディで、 こちらを威嚇するわけでもなく、 ドリルのような形をした尾っぽをただ振るわせてガラガラいっている。

小学生だし、小学生の中でも頭の悪かった私は、ガラガラヘビが日本に生息していない生物であることなど知る由もなく、

ただ「初めて見たなー、ガラガラヘビ」と思った。

ずっとその姿を眺めていたかったが、 その日は塾があり、塾に行くために家から庭に出てきたところだったので数十秒ほどでその場を離れ、塾に向かった。

とにかく勉強が苦手だった私は、塾の授業もチンプンカンプンでずっとノートに「プロレス・夢の対決」のマッチメイクを書いていた。

塾の先生は岡山大学の学生で、岡山大学が優秀な学校なのかどうかも知らなかったが、塾の先生をしているくらいなのできっと賢いんだろうなとは思っていた。

けれど同じ大人でも、猪木や藤波のほうが断然かっこいいなという目で見ていた。

授業(マッチメイク会議)が終わり、帰り支度をしていると、ほかの子たちが先生を囲んで楽しげに会話をしていた。 猪木や藤波という存在を知らないから、相手が大人ってだけで楽しいんだろうなと思った。

すると先生が「井上くんは最近何かおもしろいことあった?」と話しかけてきたので、とっさに「あっ、今日、家の庭でガラガラヘビを見ました」と答えたら、「ガラガラヘビは日本にいないよ」と言うではないか。

心の中で「そうなのか!」と思いつつ「でも見ました。尻尾でガラガラいってて......」と返したら、そこで先生はこう言い放ったのだった。

「ガラガラヘビは日本にいないし、井上くんが好きなプロレスは八百長だよ」

一瞬、「えっ、なんで今プロレス?」とあっけにとられたが、 「キミは嘘つきで、キミの好きなものも嘘っぱち」と言いたいんだなということがすぐにわかっ たので、私は顔が真っ赤っかになり、その場に立ち尽くしてしまった。

 ひそかに心を寄せていた、学校でも同じクラスのあのコが、先生の隣で私の真っ赤になった顔を見て笑っていた。

もう何が何だかわからなかった。

帰宅して、ガラガラヘビがいた場所を見た。 ガラガラヘビはもういなかった。

寝る前に布団の中でめちゃくちゃ考えた。

プロレスが八百長だなんて、あの先生はやっぱり頭が悪いのだろうかとか、 絶対に岡山大学よりも新日本とか全日本のほうがすごいだろうとか。

ならば。

私は大人になったら大学などには行かず、 新日本か全日本に入ってやるのだ。

そしてこの手でプロレスこそが最強の格闘技であることを証明し、 アイツ(塾の先生)を見返してやるのだ。

おまえ(塾の先生)はテレビの前で

スターとなった私の姿を指をくわえて見ていればいい。

そう強く心に誓ったが、そこから特に身体を鍛える方向に向かうわけでもなく、

結局ここまでずーっと、新日本とか全日本を見ているだけの大人をやっている。

プロフィール

井上崇宏

1972年生まれ。『KAMINOGE』の編集長。同雑誌の編集を行う編集プロダクション「THE PEHLWANS」の代表も務める。instagramはこちらから!
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