カルチャー

森の足元に広がる小宇宙、秋のキノコ狩りを終えて。

POPEYE EDUCATION CLUB Vol.1 report

photo: Masaru Tatsuki
text: Fuya Uto

2025年10月25日

 POPEYE Webがこれまでウェブサイトで展開してきた記事を授業形式でお届けする、出入り自由な教室「エデュケーション・クラブ」。その道の達人を講師に据え、日々を楽しく生きる術を、みんなで学ぶ活動です。普段私たちが体感する取材現場の熱を、よりダイレクトに伝えるために、2025年8月に開講しました。初回は岩手県八幡平市の森をフィールドに「キノコ狩り」を実施。秋うらら、今月の10月4日のことです。

受講した方には特製のワッペンをプレゼント! 今後も授業内容によってデザインを変えて、配布予定です。
Design by Roger McDonald (Fenberger House

 まずは参加いただいた27名の皆さん、本当にありがとうございました! 楽しかった思い出とともに、このレポート記事を復習の機会として、また来れなかった方はどういう感じだったのか感じてもらえたら嬉しいです。

 おさらいすると、講師の菅原徹さんに案内いただいた「八幡平」はさまざまなキノコが自生する地。理由の一つは、キノコの成育に欠かせないアカマツや白樺やブナなど樹木の種類が豊富だから。当日はそんなスポットで野生のキノコを採って、自分の個体を図鑑を参照しながら品評して見識を深め、実際にキノコ料理を食べてみるという流れ。

 また、今回はアメリカ・ミシガン州発のアウトドアブランド〈メレル〉に参加者全員の足元をサポートいただき、足取りはより軽やかに。駐車場で各々履き替えたら、歩いて山へ向かう――

「モアブ スピード 2 ミッド ゴアテックス®」という、ハイキングシューズとトレイルランニングシューズ両者の良さをミックスした一足。つまり、タフな造りでありながらクイックに動きやすい万能モデルだ。参加者に聞いてみると、「はじめて履いたにもかかわらず、慣れ親しんだ靴のように安心感があった」「想像以上に軽くて驚いた」「ソールが柔らかくて歩きやすかった」などアチコチから賛美の声が。ミッドソールかつ素材もゴアテックスだから、雨の日も万全。

一限目:キノコ狩り

「今、皆さんが歩いているような風通しが良くて開けたところにキノコは生えています。砂利の隙間から顔を出していることもあったりするので、よく足元を観察して進みましょう!」と、先生である菅原徹さんの言葉をきっかけに授業が始まった。辺りは高原台地のなだらかな傾斜が続く遊歩道。それぞれの高揚した表情からは「採るぞ」という曇りなき意気込みが伝わってくる。

 一限目の授業は至ってシンプル、菅原さんの解説を聞きながら、約90分間とにかく採るのみ。ただし、もぐ前に「写真で撮る」ことが大事なポイントだ。キノコを見つけるとすかさず採りたくなるけれど、一旦落ち着いて。色や形はもちろん、どんなところに生えているのか。どういう形状の葉っぱや表皮の樹種が近くにあるのか、はたまた落ち葉に埋もれていたり枯死した倒木や切り株に生えているのか。単体で出ているのか、群生しているのかなど、とにかく「状況を観察すること」。面倒だと思うなかれ、これが後に品評するときの重要な判断材料になるのである。

触ることすら許されない猛毒のカエンタケのみ気をつけて、各々自由にキノコハンティング。採れたら、腰かごに入れていく。今回のポイントだと立木の表面に生えている可能性は低いので、じっくり足元を見る。普段の生活とは徐々に変わった視点になっていく。

白い煙が出ているのが見える? これはホコリタケという腐葉土に発生する一種の胞子。傘の部分を指でぱふっと摘むと、老菌がホコリのように噴射することが名の由来。内部が真っ白な幼菌であれば食べられるが、成熟して茶色く変化したものはNG。誰か見つけるたびにワイワイ遊んでいた。

気になったキノコは随時先生を捕まえて質問を。採った後に専門知識を教えてもらうと、頭にすんなり入ってくる。

 程なくして運よく筆者も、切り株の周りに何かの群生を発見! 菅原さんに聞いてみると、ナラタケのよう。頭ではわかっているけれど、目の前にあるのは正真正銘の野生の食べもの。実際に自分の目と勘を頼りに見つける喜びは何にも代え難い。豊かな森に感謝するとともに、これからの人生キノコ狩りに熱中していくことを確信する。 

発見した環境が「切り株の周り」であるように、ナラタケは樹木の種類に限らず、さまざまな植物から栄養を吸収して繁殖する木材腐朽菌。その姿形は複雑で多様、日本国内で約10種類にわかれる。出汁が抜群に美味いため、みそ汁や芋煮など汁物に使うのがオススメ。

二限目:品評会&試食

 まず、それぞれ採ったキノコを卓上の白紙に並べる。デカいやつを紙いっぱいに並べる方もいれば、鮮やかな色をしていたり、キュートなフォルムのちびっ子たちを余白多めに陳列する方も。性格が滲むようで面白い。その表情も、もしや自分が大発見をしているのかもしれない……とソワソワしていたり、反対に隣の仲間がカゴから大物を取り出す様子を見て羨んでいたり十人十色。ただ、それらの正体は誰もわからないので、菅原さんが机をぐるっと周回して個別に教える流れに。「食べれるけど、あの……美味しくはないです」「おお、シャカシメジを採れたのはラッキーですね!」「これはよくある毒キノコ(笑)」などと、傘の裏まで細かくチェックする一挙一動を固唾を飲んで見守る様は、さながらなんでも鑑定団のよう。

 同時にお腹も満たす。シェフの平塚章延さんが用意してくれたのは、ポルチーニを乾燥したものと冷凍したもの2種類の出汁をはじめ、⾹茸とすだちのおこわ、ポルチーニといわいどりのチマキ、短角牛とキノコの芋煮。ハツタケ、ナラタケ、オニイグチモドキなど6種類以上の新鮮なキノコが味わえるメニューだ。ここでも、やはりただ口にするのではなく、先生方は生えているときの写真と見比べながら食べ進めるように促す。視覚と味覚の両方で捉えることで、解像度はより高まる。その食感、その芳醇な風味は実にバラエティに富む。もちろん調理方法もさまざまだけど、いずれにせよ野生のキノコが身近な彼らにとっては、火入れすると一層美味しくなるとのこと(例えばお洒落なワインバーでつまみとして出てくるマッシュルームの刺身はあまりしないらしい)。

 判定ポイントは7〜9点。傘の表裏の形状、色、ヌメリ、裂いたときの匂い、⽣えている場所などから総合的に判別する。図鑑によって⾒解が異なることもあるため、一冊に頼らず、最低3冊は用意して⾒⽐べるのがいい。それも撮影者によって色味がまばらな写真タイプではなく、必要な特徴が必ず描かれているイラストのものがオススメだ。

 いざ品評してみると、そっくりなものもあるから、正直ビギナーは図鑑があっても苦労する印象。ぶっちゃけ食べられないものも多かった(体感として美味しいキノコをゲットできたのは参加者それぞれ1〜3つだろう)。しかし、それもそのはず、日本には約5000種類あると言われ、可食は約100種類しかないのだ。スーパーに並ぶキノコはほんの一部でしかない、奥深しキノコワールド。見ただけでパッと名称を答える菅原さんの卓越した“目利き”に改めて驚く。

 参加者同士も「このツリガネタケは着火剤として使えるみたいですよ」と教えあっていたり、談笑していたり。住む場所、職業、年齢、性別はさまざまな27名だけど、「野生のキノコについて学びたい」という共通の好奇心があれば、途端にクラスメイトのように連帯感を持つことを実感する。

完売御礼。皆さん、どうもありがとうございました!

 あまりに楽しかったので、定例で毎年行えるように計画中です。チチタケ、シャカシメジ、ホコリタケ、アミタケ、ヤマドリタケモドキetc……一歩野に入ると、見たこともないデリシャスかつファンタスティックな出合いが待っています。ぜひ、また秋にお会いしましょう!

教えてくれた人

森の足元に広がる小宇宙、秋のキノコ狩りを終えて。

菅原徹

すがわら・とおる|1987年、岩手県生まれ。〈7UPキノコ〉主宰。18歳のころにはじめて祖父と山へ入って以降、キノコと山菜を生活の一部とする日々を送る。「盛岡つどいの森」や県内各地の緑化センターなどで、キノコの見分け方指導や展示など幅広く活動中。岩手菌類研究同好会所属。スタッフとして働く『the campus』ではキノコ&山菜ハントツアーも開催している。

Instagram
https://www.instagram.com/tttsugawara/


森の足元に広がる小宇宙、秋のキノコ狩りを終えて。

平塚章延

ひらつか・あきのぶ|1979年、宮城県生まれ。高校卒業後、アジアや南米など世界中を約8年間放浪する。実家が広島風お好み焼き店を営んでいたこともあり自然と料理の道へ。現在は『the campus』のシェフとして地元の食材と向き合う日々を送る。菅原さんとキノコ狩りユニット〈山幸ブラザーズ〉としても活動中。来年に仙台市で「薪焼き」を軸にしたレストランをオープン予定。

Support

森の足元に広がる小宇宙、秋のキノコ狩りを終えて。

くらしごとユニオン

岩手県北上市を拠点とする〈祭り法人 射的〉が母体のコミュニティサービス。地方を拠点に創造的に暮らす方や、これから営もうとする方々へ向けた商品化&事業化支援を主に行う。「地域に暮らす人・企業などとの協働により、地方ならではの地域課題をおもしろく解決し、地域に新しい価値を創造していきます」。Podcast「くらしごとRADIO」も配信中。

Official Website
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Podcast
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MERRELL(メレル)

1981年創業のアメリカ発のアウトドアシューズブランド。同年に手掛けた最初のハイキングシューズが『バックパッカーマガジン』で“北米で最も機能的で快適な靴”と謳われて以来、世界中のアウトドアマンの足元を支えてきた。ヴィブラム社とアウトソールやベアフットシューズを共同開発するなど、妥協なき姿勢で靴作りを続ける。

Official Website
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