TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】教員にはならなかったけれど

執筆:上垣皓太朗(フジテレビアナウンサー)

2025年9月22日

フジテレビアナウンサーになって、1年半が過ぎた。

大学で国語と地理歴史の教員免許を取得したものの、教職には就かなかった私は、ペーパードライバーよろしく、ペーパーティーチャーのひとり。

とはいえ、教職課程のころの気持ちを忘れてはいけないと、ときどき思う。

まずは、地形図が好きな私から、みなさんに質問。

「次の地図(茨城県下妻市の一部)を見て、印象に残る地形は何ですか?」

「地理院地図」より

いかがだろうか。

もちろん地図は自由に読んでいただければ幸いである。

しかし、私が同じ質問に答えるなら、「カーブを描くようにひと続きになっている部分」と答えるにちがいない。

「地理院地図」をもとに作成
赤線はおおよその目安を示したもの

こうして赤色で加筆するとわかりやすいだろうか。

ひらがなの「つ」のような模様が大地に刻まれている。

これは旧河道(きゅうかどう)といい、昔の川の流れた跡。地図の左側に流れている大きな川が現在の鬼怒川だが、鬼怒川はかつて、「つ」の部分を蛇行していたのだ。

旧河道は、洪水のときに川のカーブの一部が切り離されたり、治水工事で川の流路を変えたりして生まれる。道路の舗装や宅地開発でわかりにくくなっていることもあるが、この地域の場合はとてもわかりやすい。

一般に、旧河道はかつて川が流れていただけあって、周囲より低くて水が集まりやすい。また、堤防と旧河道が接しているところでは、堤防が切れるリスクも高まることがある。

地図は、こうした大地に残った痕跡を教えてくれるのである。

さて、ここからが地理教員候補生としての腕の見せどころ。教職学生が集まれば、この地図を使って授業をつくれないか、地理の時間に防災教育ができるんじゃないかと、みんなで知恵の出し合いが始まる。

加筆前のなんのヒントもない地図で、3か所ぐらいに印をつけよう。「洪水が起きたら、どこが一番浸水しやすいと思う?」と3択で生徒に尋ねたらどうだろう?

きっと生徒は、現在の川から近ければ近いほど浸水しやすくて、遠ければ遠いほど浸水しにくい、と考えるんじゃないか。

そして、「実はそんなに単純な話でもないよ」と言って、旧河道の説明をしたら、興味をもってくれるかもしれない。

・・・学生どうしでそんなことを、わいわいと話し合うことになる。

「教員はクリエイティブな仕事だから、互いのアイデアに感化されながらいい授業をつくってほしい」教職課程では、そう言われてきた。

教員にはならなかったけれど、アナウンサーもクリエイティブな仕事である。中継ひとつ、VTRひとつに、無数のアイデアを持ち寄って議論する。それは、教職課程の「話し合い」の熱気に通じる。

防災報道にも従事することがある。旧河道しかり、地域の特徴に注目すると、伝え方のヒントが見えてくるときがある。

災害が起きてからの報道だけでは十分ではない。むしろ発災前、日々の啓発こそが重要なのだと、アナウンス部の防災班に所属するアナウンサー同士でよく話している。そういう意味では、広い意味での「防災教育」の視点には、参考にできることがあるのだと思う。

いま、フジテレビの公式WEBニュースサイト「めざましmedia」で、自然災害の伝承碑を訪ね、災害の歴史を学ぶ連載「上垣アナの災害遺構探訪記」を続けている。自分が学び続けていないと、お伝えすることはできないと痛感している。

銀座駅前にある関東大震災の伝承碑 (めざましmediaで連載中「上垣アナの災害遺構探訪記」より)

カスリーン台風の遺構を訪ねた栃木県渡良瀬川の夕景にて (めざましmediaで連載中「上垣アナの災害遺構探訪記」より)

プロフィール

上垣皓太朗

うえがき・こうたろう|フジテレビアナウンサー。2001年兵庫県出身。2024年にフジテレビに入社し、現在は「めざましテレビ」「めざましどようび」「かまいまち」などを担当するほか、競馬などの実況でも活躍。趣味は銭湯での長風呂、AMラジオ視聴。特技は地形図を見ながら街を歩くこと。

Official Website
https://www.fujitv.co.jp/ana/profile/k-uegaki.html