ファッション

特集「マイスタンダードの見つけ方。」

NO.942

マイスタンダードの見つけ方。

2025年9月8日

 一口にスタンダードと言っても、一筋縄ではないかない。定番、ベーシック、シンプルで手頃、一生もの、名品、クラシック……、同じようで微妙に異なる意味合いの言葉が、頭の中を行ったり来たり。年齢や環境はもちろん、その時々の気分によって変わったりもする。それなのに、どうして僕らはスタンダードを欲してしまうのだろう。何年も着続け、自分のカタチになった服は愛おしく、手放すなんてできない。なんなら同じものを買い足して、将来のためにストックしておきたくもなる。そんな運命の服や靴や小物と出合うため! というのは少し大袈裟だけど、ベースが定まれば、もっと伸び伸びとファッションの冒険ができるし、今の自分に似合う服が、自然と見えてきたりするものだ。さあ、一緒にマイスタンダードを探しに出かけよう。

欲しいのはOUR STANDARDではなく、MY STANDARD!

スタンダードは「いつの時代も、変わらず愛せるもの」 。

 巻頭企画では、多面的なスタンダードの中から“Authentic Items”をキーワードに展開。ファッションの高揚感は「今欲しい!」を入手した瞬間にあるけれど、多分に時流的な要素を含むものはワードローブの中心に位置付けにくい。やはり、スタイルのベースを構成するのは、気兼ねなく付き合えるベーシックなアイテムだろう。例えば〈グローバーオール〉のダッフルコートや〈ギャップのチノパン〉、〈バブアー〉のワックスジャケットなど、時代を超えて“オーセンティック”とされる服は、多少のあしらいが変わることもあるが、デザインは普遍的であり、長く愛用してボロボロになったら買い足せるという安心感をもたらしてくれる。総じてモノの値段が高くなる中で、文字どおり“リーズナブル=合理的”だともいえる。ただし、無難な着こなしに終始していては気分も上がらない。サイズ感やスタイリングで今の気分を表現してこそ、オーセンティックなアイテムはより本領を発揮するだろう。

〈グローバーオール〉の
ダッフルコートは、世代を超えて
“若さ”の象徴であり続ける。

〈フレッドペリー〉のポロシャツの
胸の月桂樹には、
英国のカルチャーが宿る。

手頃で風合いのよい
〈ギャップ〉のチノパンは、
何本あったっていい。

上質なブロードの
〈インディビジュアライズドシャツ〉
のJFKカラーシャツをさらりと。

フリースの金字塔にして
進化し続ける〈パタゴニア〉の
「クラシック・レトロX」。

スタンダードは「個人的な偏愛が投影されたもの」。

 キーワードは“My Personal Favorites”。 スタンダードの機微は、細部に宿る。個人的な偏愛やセンスが落とし込まれたスタンダードは唯一無二で、どこまでも奥深い。ファッションが個性の表出手段なら、スタンダードは通り一辺倒ではつまらないはずだ。なぜ、そこにハマったのか。その理由を知ることは、僕らがマイスタンダードを探す際の、大きなヒントにもなるだろう。『POPEYE』が信頼を寄せる9人に、スタイルに欠かせない定番を聞いてみた。

アメリカンスポーツカルチャーの象徴であるベースボールウェアと、トラッドで品のあるラグランコート。どちらのスタンダーも魅力的だ。

〈Riprap〉デザイナーの西野裕人さんのスタンダードはシャンブレーシャツ。経年変化するほど自身の中で“加点”されていくそう。

スタンダードは「10年先を見据えて選ぶもの」。

 キーワードは“Standard of the Next Decade”。昨年も一昨年も着た服は自分の定番として、もちろん愛おしい。でも、おしるこは別腹じゃないけど、今季の新作を見るたびに心が騒ぎ出し、「ワードローブの余白」を無理やり作り出してしまうのは止めようがない。ただ、衝動買いは刹那すぎやしないか。シティボーイの嗜みとして、一生とは言わないが、10年(くらい)先を見据えながら、長く付き合えるものを選びたい。多少値が張るものも、きっと元は取れる。今回は編集スタッフによる、連日連夜の「これが欲しい!」「いや、あれ!」という侃侃諤諤の議論を経て厳選した46+αのアイテムを紹介する。ネクスト・マイスタンダード探しの道標として、有意義なショッピングのお供に!

普段着になるまで体に馴染ませたい〈エヴァン キノリ〉のカシミヤリネンジャケットとパンツ。

内側にラップトップポケット、外側のメッシュポケットにあれこれ放り込める。セットアップにもよく似合う〈マースティック〉のナップサック。

ほのかな光沢とドレープを宿した、シルク混の生地の〈オーラリー〉のダブルカフシャツ。

〈サンリミット〉のバルマカンコートは、横から見たときのシルエットがとにかく格好いい。

スタンダードは「エッセンシャルワードローブを構成するもの」。

 48年間のキャリアの中で、数えきれないほどのブランドや洋服に触れ、古今東西のファッションに精通した栗野宏文さん。アウター、ジャケット、シャツ、ボトムス、シューズ……、幅広いワードローブの中から「トランク3つ分ほどの、本当に必要なものだけを教えてください」と、無茶振りともいえるお願いをしてみた。そこは、栗野さん! 迷いなく選ばれたアイテムはシンプルもあれば、一癖ありも。クラシックなブランドもあれば、知る人ぞ知るブランドもラインナップ。そのすべてが栗野さんのものになっているから、とにかく魅力的。栗野さんのエッセンシャルワードローブから、スタンダードの“本質”が見えてくる。

スタジオに持ってきてもらった“エッセンシャルワードローブ”と栗野さん。ここから個別に、細かくアイテムの説明やスタイリングの技について話してくれた。

栗野さんのエッセンシャルなボトムスは5本、シューズは4足。数ではなく、手持ちのアイテムをいかに組み合わせるか。コーディネートの妙の体得こそ、マイスタンダードへの近道だ。

いつ行ってもスタンダードと出合える! 厳選8ショップを徹底ガイド。

 定番品を買い足したり、また新しいベーシックと邂逅させてくれる店、つまり“マイ・スタンダード・ショップ”があるといい。品揃えはもちろんだけど、深い視点からスタンダードを教えてくれる店主やスタッフがいることも大切だ。『プロップストア』『スライダーストア』『ジャラーナ』『ジ アパートメント』『ヤヨイ』……、『ポパイ』ではお馴染みだけど、やっぱり頼りになる。今回の取材でもいくら使ったことか! でも、1か月後にはまた行きたくなるんだ。

8月半ば時点で、『プロップスストア』で欲しいと思ったスタンダードな品々。これでもかなり絞ったのだ。

『スライダーストア』と『ジャラーナ』では、とにかく試着をしまくり。同じジャケットやパンツでも、サイズ変えるとニューな感じが高まる。

アメリカ東海岸の“今”をピシッと示してくれる『ジ アパートメント』のオーナーの大橋歩さんに、ショップの定番品でスタイリングしてもらった。

トム・ブラウンとアニエス・トゥルブレの揺るぎなきスタンダード観。

「生き方自体がユニフォームのようなものです」ときっぱり言い切るトム・ブラウンさん。「私は、スタンダードになりたくない。自由なの」と語る〈アニエスべー〉デザイナーのアニエス・トゥルブレさん。「あなたにとってスタンダートは?」という問いを投げかけ、その答えとして紡がれた言葉は、ファッションの枠にとどまらず、僕らが人生のスタンダードを考える際の大いなる示唆に富んでいた。

アニエスさんとトム・ブラウンさんの見開きはどこか神々しい(?)。スタンダードから連想する5つの言葉、そしてインタビューは、マイスタンダードを構築する際の指針になるはず。

インフォメーション

特集「マイスタンダードの見つけ方。」

POPEYE 2025年10月号「WEAR YOUR OWN STYLE -マイスタンダードの見つけ方-」

秋冬のファッション特集。久しぶりに真正面から“スタンダード”と向き合いました。まさに定番的に語られる“名品”や“一生もの”の話のみではなく、もっと流動的で、躍動感のある、“今”のスタンダードにもフォーカスしています。上記した企画以外にも〈TUBE〉デザイナー・斉藤久夫さんや〈MOUNTAIN RESEARCH〉デザイナー・小林節正さんなど、6名のセンパイに聞いた「一生手放せないもの」企画も。日常的に愛用するものに加え、あまり着用しないのに何故か手放せないものも教えてもらいました。その“ココロ”から、スタンダードの深淵(の一端)が感じられるはず。センパイといえば、『POPEYE』の黎明期にエディターとして参加し、現在も第一線で活躍するスタイリストの山本康一郎さんに「スタンダード問答」を依頼。師が弟子の悩みに答える禅宗の修行法「禅問答」にならい、若手ライターが大センパイに終えを説いてもらった4日間の記録も。そして、シンプルに見えて緻密なつくりを誇る「ジャパンメイドという定番」を紐解く企画もぜひ。スタンダードの先に、自分に似合う服と出合える一冊です。