ライフスタイル
性欲も加齢も生きてる証しー大久保佳代子
42歳〜54歳―― “カヨコの12年”が詰まったエッセイ集『パジャマあるよと言われても』
2025年8月11日
photo: Naoto Date, Kanta Torihata(book)
styling: Nanako Noda
hair & make: Terue Haruyama
text: POPEYE
まったくもう、赤裸々すぎますよ、大久保さん! 『POPEYE』の2013年6月号で連載が始まり、その後、『Tarzan』へと執筆の場を移す。毎月毎月、軽妙な文体で、濃厚なエピソードを綴り続けること12年以上。現在も絶賛連載中ではありますが、干支でいうところの一回りした記念に、『パジャマあるよと言われても』のタイトルで書籍化されました。「ガテン系男子にカヨコを差し入れ」なんていけない妄想から、「老後を見据えてVIO脱毛」というアラフィフの現実まで、縦横無尽な“カヨコワールド”は年齢や性別を超えて共感と笑いを呼び込むこと間違いなし。
『POPEYE』6月号( ISSUE 938)の「今月の、気になる顔。」で掲載された大久保佳代子さんのインタビュー記事から、連載開始時の秘話や原稿執筆への思いなど、本書の発売に至る背景に触れてみよう。
くだらないなでも、性格悪いなでもいい。
とにかく、読んだ人には笑ってほしい。
「当時、私は42歳。エロキャラ全開でテレビにバリバリ出ていた頃でしたが、我ながら、こんなひどいシモネタをしれっと書いていたものだなと。今よりコンプライアンスが緩かったとはいえ、『ポパイ』というオシャレ雑誌によく載せてくれたなと思いますよ」
多感なシティボーイに大人の女性の蠱惑的な刺激を! そんな思いもありつつ、何より大久保佳代子さんの知的なエロスに惹かれて連載を打診したのが、2013年の春。同年6月号から「秘め事めくり」のタイトルでスタート。筆者は連載の担当で、1回目の原稿から艶麗な言葉の巧みなコラージュに感嘆した。今読み返しても「クリームソーダのチェリーは、一番に食すタイプ」「トランプのジョーカーかと思うくらいの尖った革靴」などのパンチラインは色褪せない。毎月、大久保さんの原稿を一日千秋の思いで待ち、読後は手練れの噺家の一席を拝聴したときのような佳代子節に浸ったものだ。
「良き秘め事がきれいにめくれた月と、多少強引にめくった月、こうやって並べてみるといろいろですね。ただ、せっかく読んでもらうのだから、ヨコシマな妄想や意地悪な部分も含めて、嘘偽りなく自分を曝け出すことで、おっ! と思ってもらったり、クスッと笑ってほしい気持ちはありました」
’18年5月からは『ターザン』へと籍を移し、「淑女の好物」と名を変えてコラムを継続。この度、42歳から54歳の“佳代子の12年”の赤裸々な記録がまとめられ、5月22日に『パジャマあるよと言われても』として上梓されることとなった。「ブラ外しのゴッドハンド。ヤリチン仙人に会った」「草食系男子のエリンギが……おかえりなさい、私の性欲!」「与論島のモリンガであそこが元気にモリンガ!」などなど、時系列に各号のタイトルがずらり並んだ目次を見るだけで、エリンギならぬ期待感が聳り立つ。そしてあらためて思う、あの頃の大久保さんはアクセルとブレーキを巧みに操りながら、エロスというサイドカーにシティボーイを乗せて颯爽と走っていたのだなと。
「『ポパイ』では恋愛やエロがメインで、やたらとニッカボッカをはいた作業員の話があったり。40代前半はわかりやすくムキムキなメンズが好きで、男性ホルモン賛美だったかも。『ターザン』の読者は健康意識が高くて鍛えている人のイメージがあったので、大胸筋がどうこうはわからないけど、筋肉名を入れたほうがいいのかなとか考えました。でも、その気遣いも最初だけ。そういえば、『ポパイ』と同じ感じで書いてくださいと言われたよなって(笑)」
以下は『パジャマあるよと言われても』から抜粋したエッセイのひとつ。
草食系男子のエリンギが……おかえりなさい、私の性欲!
溜まっているのかもしれない。ここ最近の私、溜まっているのかもしれない。正直、2014年は、持ち前の「ちょっとだけ人より異常に強い性欲」が減退し、サミット(スーパー)でご立派なエリンギを見てもなんとも感じず、そのままバターで炒めて食べてしまうというお粗末ぶり。ところが、2015年を迎えるや否やメキメキと元来の性欲が戻ってきたような実感が。先日、とあるショートドラマの撮影が。1日で撮り切ってしまうという詰め詰めのスケジュール。予算のせいなのかカメラマンさんは1人だけ。1人でせっせとカメラ位置を変えレンズを変え箱馬に乗り、誰よりもハードに黙々と動く動く。その働きっぷりに感心しつつも、徐々に彼を見る私の目がじっとりねちっこくなってきて。「この人、どういうキスをするんだろう?」ってな感じで。ビジュアルはカメラマンさんには珍しく、草食系メガネ男子。ゴリマッチョ好きな私としては、アウトオブ眼中。なのに、セッティングしている姿を眺めつつ、「この人、エッチなDVDをどんな顔で観るのかな?」と想像したりして。おもくそ痴女目線。やっぱりギャップって大事。ゴリマッチョがゴリゴリなエッチをしても当たり前だけど、草食男子がゴリゴリだったら、そりゃもう女はターザン並みに叫んでしまう。
レンズを覗いているため、私から見えるのは片目と口元。たまに口元がゆるむと嬉しい。あの口からS的に「裸でそこにある箱馬で踏み台昇降30回しろよ」「やだよ、なんでよ?」「いいからやれよ。俺、それ撮ってやるから」って言われたらどうしよう。
でもってその時、すでに彼のエリンギは……。あー! 中学生並みにカムバックしてきている私の性欲。おかえりなさい。
テンションはブレなくても、年を重ね、コロナで世間が右往左往するなか、取り巻く環境は変化し、テーマも自然と遷移していく。
「エロ満開の時期があって、愛犬のパコ美ちゃんを飼い始めたらその話が増え出して、コロナで生活が変わったらまた別のトーンが入ってきて。急に恋愛の話が少なくなりましたね。年齢とともに、ちゃんと性欲が落ちてきて、腰痛など体の不調のほうが気掛かりに。書籍の後半の原稿を読むと、私、体がボロボロですもんね(笑)。でも、テーマ的には『ターザン』には合ってるのかなって。最近では親の介護にも言及したり。この先、ド・シモネタを書くことはあまりないかもしれないですね」
“たぎり、もだえる佳代子”にお目にかかる機会が減るのは残念だが、通奏低音は変わらず。一貫して“今の佳代子”と向き合い、常におかしみを見いだす。その機微は文章から確実に伝わるし、シティボーイ&ガールたちも大いに感じるものがあると断言したい。
「一生懸命向き合っていますよ。その上で、自分の心情や起こったことを俯瞰しながら、それを面白がりながら書いています。その時間は楽しい。深刻なことがあっても他人事じゃないけど、ちょっと引いた目線を持てる。今回は特にいいんじゃない! って文章が書けたときは、それはもう爽快です。あと、佳代子は締め切りをめちゃくちゃ守るって評判ですよ(笑)」
そうして紡がれた12年分の原稿は、「私の盛り土も崩壊寸前」などのセンテンスの選択、起承転からのオチへの流れもお見事。冒頭で“佳代子節”と書いたが、“佳代子リズム&グルーヴ”が正しいかもしれない。とにかく心地よく揺さぶられる文章なのだ。
「700字や800字のなかで、一つ面白いエピソードがあって、そこにちょっと自分の考え方も入るのが理想。何より、読みやすさは意識していますね。1日置いてから音読して引っ掛かりがないかを徹底的に検証したり。少し格好つけましたけど、実はけっこうやっています。言葉を入れ替えるだけで大きく印象が変わることもある。目で文字を追ったときに、ひらがなが続くより、ここに漢字が入ったほうがスムーズだなと調整したりも。別の表現を探すために、類語を検索することも多い。ただ、こねくり回し過ぎないようには注意しています。伝えたいことを見失うのは本末転倒なので」
軽妙洒脱でリーダブル、読み手をエンターテインする原稿は、綿密な推敲を経て届けられる。
「この間、おじさんの足元に黒い塊があって、近づいたら甲羅干し中の亀で。これを『カツラが落ちてるんじゃないか』を入り口にして『ターザン』の連載を書き切りました。おじさんの頭がクールビズだったので、カツラと思わないこともないかなと。多少無理矢理でも、くだらないなと言ってもらえたらOK。なんなら、性格悪いなでも、おばさんだなでもいい。とにかく、笑ってもらいたいですね」
インフォメーション

パジャマあるよと言われても
『POPEYE』と『Tarzan』で12年続いた大久保佳代子さんのエッセイによる連載が書籍化!
現実と妄想のハザマで右往左往。
42歳〜54歳――
“カヨコの12年”が詰まったエッセイ集!
Official Website
https://magazineworld.jp/books/paper/3326/
Amazonはこちら
『パジャマあるよと言われても』
プロフィール
大久保佳代子
おおくぼ・かよこ|タレント。1971年、愛知県生まれ。『ノンストップ!』(フジテレビ系)、『ゴゴスマ』(TBS系)、『上田と女が吠える夜』(日本テレビ系)、『あさこ・佳代子の大人なラジオ女子会』(NHKラジオ第1)など多数のレギュラー番組を持つ。『ターザン』で「淑女の好物」も絶賛連載中。
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