TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#1】オフィスの出入り口について。
執筆:Atelier HOKO
2025年4月12日
何年も前、オフィスをより広くするために、自宅のアパートのほとんどの壁を取り払った。オフィスと住居部分との区切りは、頑丈な壁と一般的なドアではなくなった。代わりに、両側から収納できる実用的な仕切りとして、一般的なモジュール式の棚を使っている。
在宅勤務をしているから、オープンプランな間取りの方がフレキシブルに生活空間を再配置できる。だから、その時のライフスタイルによって、時には寝室とオフィスとリビングを入れ替えたりする。
子ども2人が生まれてから、玄関からできるだけ遠いアパートの奥の方を寝室にして、中央部分をオフィスとして設けた(当時、隣人のドアの開け閉めが少しうるさかったため)。もともとは2部屋の寝室だったが、今では快適なオフィスとして(約21㎡)、2人で使っている。
オフィスに入るには、モジュール式の棚を組んだ結果できた寸法の戸口を通らなければならない。もしかしたら「戸口」と呼ぶより「開口部」の方がふさわしいかも。現状を見て、住宅部分とオフィス部分をスムーズにつなぐ、なかなか賢い解決策だと言えるかもしれないけれど、実際は私たちにとってもまったくの想定外のことだった。棚を組み立てている中で、体と棚との大きさのせめぎあいがあり、そこから棚に開口部を設けられるのではと感じた。言ってしまえば、私たちの代わりに棚が“戸口”の位置と大きさを決めたのだ。「設計」されたものではないから、慣れているサイズ感よりも少し小さい。体が、この開口部を通ることに慣れて、共に暮らすことを受け入れなければいけない。
“戸口”は、高さ173cm、幅80cm。
アルヴィンはこの”戸口”よりちょうど1cm背が高いから、少し頭を下げ忘れると、上部の棚に頭をぶつけてしまうことがある。クララはこの”戸口”よりちょうど10cm背が低いから、何の問題もなく通り抜けられる。幅80cmは、ぎりぎりちょうどよい(シンガポールの一般的な戸口は幅90cm、高さ210cm)。時間が経つにつれて、このスケール感が良いのではと考えるようになった。入るときに少しだけ頭を下げることはそこまで厄介ではないし、むしろ暖簾をくぐるときと同じような身振りに思える。
“戸口”を通るたびに、体はゆっくりと少しずつ縮こまる動きに慣れていく。ドア枠にぶつかる心配をせずに、走り抜けたり、飛び越えたりできるほど大きなドアを簡単に設計・施工できてしまう現代に生きているほとんどの人々には、なかなか馴染みのない動作。もしかしたら、小さな入口のおかげで、入ろうとしている空間をより意識するかもしれない。トンネルを出入りするように、先の空間が少しより大きく、広く感じられる。
体を縮こませるこの原始的な動作には、ある空間から別の空間へ移動する際に、何らかの役割を持つ気がする。動物が小さな巣穴や巣から出入りする様子を彷彿とさせる。彼らの開口部は、ちょうど体がぎりぎり通るくらいの大きさであることがほとんどで、よくよく考えてみると、どんな動物も体をまったく縮めることなく自分の巣に堂々と何の躊躇もなく入っていく姿は思い浮かばない。想像してみるだけでも、なんだか奇妙な光景だ…。
プロフィール
Atelier HOKO
あとりえ・ほこ|アルヴィン・ホーとクララ・コウによる、シンガポールのインディペンデントリサーチプラクティス。彼らが発行する雑誌「Science of the Secondary (取るに足らない科学)」には、毎号日常生活の中にある、あまり気に留められないモノ・コトが毎号ひとつ取り上げられ、様々な視点から探求したことがまとめられている。
Official Website
https://atelierhoko.com/
Instagram
https://www.instagram.com/atelierhoko/
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