TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】レコ屋営業日誌

執筆:加藤寛之(レコード店『Donato』店主)

2025年3月27日

飲食店は2日で家賃分稼げればやっていけるとよく聞くが、レコード屋はどうなんだろう。
3月の1日での最高売上は約150,000円で、最低売上は2,200円だった。

最高売上に関しては家賃を少し超えるくらいの金額。飲食店の法則に当てはめればやっていけるのかもしれないけど、ジャズ喫茶時代に比べて日毎の売り上げがあまりにも不安定すぎる。それが楽しい部分でもあるけれど。
最高売上を叩き出した日は3/4(火)、その日の売り上げの8割ほどはオランダから来たディーラーによるものだった。枚数にすると25〜30枚ほど買って行った。

ディーラーとは概ね日本に買付に来ている人のことを指すけれど、その人に関しては買うものに自分が個人的に欲しいレコードも混じってると言ってきた。もしかしたら気を使ってくれてるのかもしれない。
でも、個人的にはディーラー的な人が来てバーっとレコード買って行っても、感謝の気持ちしかない。中にはディーラー的な人を嫌だと思う人もいるだろうけど、今のところまったくそう思わない。レコードは回りものだし、いつか自分も海外に買付しに行くかもしれないし、国によってウォントの強いレコードも少しずつ違うと思うのでそこは持ちつ持たれつなのだろう。
何より、ディーラーが何を欲しがったり、どういうものを高いと思うのか、または安いと思うのかを聞くのがとても楽しい。

オランダのディーラーはモダンジャズの名作や隠れた秀作のUS盤を中心に買って行った。海外から来たジャズを買う人はSpiritual JazzやAvant~Freeなやつ、もしくは日本人のジャズを欲しがる印象だったので、珍しいなと思った。高くつけすぎたかもな〜と思ったレコードも「Good Price!」と言って結構買ってくれたので嬉しかった。ただ円が弱いだけかもしれないけど。
彼も僕もホクホクした顔で最後は握手して別れた。また近いうちに来るよと言っていたけど、年に2回くらい来てくれれば嬉しい。

彼が店を出たのは16時過ぎ。早仕舞いしたくなる気持ちをグッと抑えて終業時間の19時まで待った。

19時になると同時に窓の下のキッチン南海の列をのぞいて、目視で五人以下だったのでダッシュで並びに行った。最近は昼も夜もすごく並んでいるので五人以下だったら並んでないも同然なのだ。レジから抜いた1,000円をポッケに突っ込んでチキンカツ・生姜焼きにキャベツを追加して食べる。こんな美味しくて豪勢な食事が900円だなんて。いまだに毎回感動する。その日に売れたレコードに書いたコメントを可能な限り思い出しながら、キャベツにゴマドレッシングかけたり、チキンカツの片方には醤油とレモン汁かけてみたり、ボーっとゴールデンタイムのバラエティを見たりする時間が結構気に入っている。

プロフィール

加藤寛之

かとう・ひろゆき|1994年、神奈川県生まれ。2021年11月に御茶ノ水でジャズ喫茶『ドナート』をオープン。2024年11月には、洋食店『キッチン南海 神保町店』が入るビルの2階へ移転し、レコード店として営業を始める。好きなレーベルはデンマークの「STEEPLE CHASE」。

Instagram
https://www.instagram.com/donato_records/