TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】「El Cap Meadow」という特別な場所

執筆:渋谷ゆり

2025年3月26日

 Camp4のほかにクライマーが集まる場所がヨセミテバレーにはいくつかある。ヨセミテロッジのカフェテリアは昔から有名だけれど、もうひとつがEl Cap Meadowだ。有名なエルキャピタンの前に広がるメドウは、いろいろな角度からその姿を眺めることができるので、クライマーだけでなくヨセミテを訪れる人が必ず立ち寄るビューポイントでもある。観光客は広大な壁面に点在するクライマーの姿を探し、クライマーはルートのチェックや友人の姿を確認するためにやってくる。

 秋には「ElCap Reports」と名付けてビックウォールでのクライマーの姿を20年以上記録しているフォトグラファー、トム・エバンスが、巨大な望遠レンズをつけて撮影しているのを目にするだろう(彼のwebサイトはこちら)。彼の周りには常に最新の情報を求めてクライマーが次から次へと現れる。数年前に引退を発表したものの、去年もメドウに戻ってきて撮影をしている姿があった。

 ボランティアのクライマー・スチュアートも、壁面にいるクライマーの姿が見られるように大きなテレスコープを置いている。クライミングに興味を持つ観光客の質問に答えたり、クライマーに最新の情報を提供するプログラムを行なっていて、観光客とクライマーの架け橋として重要な役割を果たしている。

 そして夕方になると、クライミングを終えたクライマーがじわじわと、どこからともなく集まってくる。持ってきたビールをみんなで共有しながら、クライミングや日々の話をつまみに話が盛り上がる。同窓会のような日もあれば、ビックウォールから戻ってきたばかりの友人の成果を祝う日もある。そして時には、仲間から離れて一人の時間を静かに満喫することのできる場所でもある。

 ヨセミテで多くの時間を過ごすクライマーにとって、El Cap Meadowはエル・キャピタンを眺めるビューポイントというだけでなく、新しいクライミングの計画を立てたり、出会いや別れ、仲間との多くの思い出が詰まった、ヨセミテ・バレーのなかでも特別な場所であるような気がする。

プロフィール

渋谷ゆり

しぶや・ゆり|写真家。ニューヨークのスケーターからヨセミテのクライマーなどのコミュニティを写真で撮り続ける。4月12日から『The North Face Standard Kyoto』で個展を開催予定。

Official Website
https://www.yurishibuya.com/

Instagram
https://www.instagram.com/kimurikimur/

ポートレート集『Ten Years After』、『For A Moment』はこちらから↓
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