TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】ヨセミテ国立公園のクライマーコーヒー

執筆:渋谷ゆり

2025年3月19日

 数あるアメリカの国立公園のなかでも、ヨセミテ国立公園はローカルのコミュニティーがしっかりしている。特にクライマーのコミュニティーは世代を超えた繋がりがある。

 世界中からクライマーが集まってくる秋のクラミングシーズンは、春や夏の観光客で賑わうヨセミテとは少し違う雰囲気になり、個人的に一番好きな季節でもある。有名なエルキャピタンの前にはクライマーの車がずらりと並び、何年か前に新しいキャンプサイトとシャワーが追加されて大きくなったCamp4も、半分以上がクライマーでいっぱいになる。

 いつから始まったのかは覚えていないけれど、秋のクライミングシーズン限定で、“クライマーコーヒー”が行われるようになった。毎週日曜日の朝になると有名なコロンビアボルダーの前で、クライミングレンジャーによってコーヒーが無料で振舞われ、それぞれが持参したコーヒーカップにセルフサービスで注いでいく。

 ただそれだけの話なのだけど、それが意外と意味のある時間でもある。毎週どのクライミングルートがどんな状態だったとか、アクシデントやクライミングに関する情報を互いに共有しながら、新しいクライミングパートナーを見つけたり、しばらく会っていなかった友人に再会したりと思いがけない出会いもある楽しい時間だ。サーチ&レスキューやレンジャーからの最新情報は、そこにいないと知ることのできない、言い方を変えるとヨセミテにいるから役に立つ情報が多い。特にルールもなく、誰でも参加できるクライマーコーヒーは、Camp4にあるメッセージボードと同じ様に完全にDIYで、オールドスクールなコミュニケーションかもしれないけれど、情報交換の手段としてありがたい存在だ。

 そしてそこは間違いなくヨセミテローカルが集まってくる時間でもある。ソーシャルメディアに依存しないローカルにとって、クライマーコーヒーがいい意味で情報源になっているのかもしれない。

プロフィール

渋谷ゆり

しぶや・ゆり|写真家。ニューヨークのスケーターからヨセミテのクライマーなどのコミュニティを写真で撮り続ける。4月12日から『The North Face Standard Kyoto』で個展を開催予定。

Official Website
https://www.yurishibuya.com/

Instagram
https://www.instagram.com/kimurikimur/

ポートレート集『Ten Years After』、『For A Moment』はこちらから↓
https://documentmarker.stores.jp/?category_id=66800b57a1a486353554585e