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〈OLD JOE〉がソール・スタインバーグとコラボレーションするんだって。
OLD JOE × SAUL STEINBERG
2025年3月7日
text: Keisuke Kagiwada
古き良き時代のカルチャーを、現代的な解釈を加えてデザインに落とし込み、次世代へ受け継ぐ。そんな理念を掲げる〈OLD JOE〉が、ミッドセンチュリー期のアメリカを代表するイラストレーター、ソール・スタインバーグとコラボレーションコレクションを3月下旬に発表する。 しかも、ビジネスライクなコラボレーションとは異なり、ソール・スタインバーグ財団との2023年からの交渉により実現したというから、これは快挙だ。
オリジナルパターンのワンナップカラーシャツ。長く伸びたトップループ、バックヨークレス、 ラウンドした襟先など、1940〜50sのシャツに見られる上品なディテールが魅力。
OPEN COLLAR SHIRTS (Saul Steinberg) ¥40,000 (OLD JOE FLAGSHIP STORE ☎︎03・5738・7292)
オリジナルで編み立てたリブが特徴的で、古き良き佇まいを感じるクラシカルなロングスリーブTシャツ。CREW-NECK TEE long sleeve (Saul Steinberg) ¥15,000(OLD JOE FLAGSHIP STORE ☎︎03・5738・7292)
スタインバーグといったら、1941年に初めて掲載されて以来、60年近くにわたって千点以上に及ぶイラストやコラムを寄せた『ニューヨーカー』誌の仕事でよく知られる。とりわけ有名なのが、1976年3月29日発売号の表紙を飾った、「View of the World from 9th Avenue(九番街からの世界の眺め)」だ。ニューヨーク市民がいかに自己中心的かを風刺した作品だが、彼がシンプルな描線によって表現する人間社会には、そんな具合にしばしばウィットに富んだ知的な皮肉が潜む。もしかするとその反骨精神は、彼の出自によるものかもしれない。
1914年、ルーマニアのユダヤ人一家のもとに生まれたスタインバーグは、ブカレスト大学で建築を学ぶことを望んだものの、根強いユダヤ人差別の弊害でその道を閉ざされてしまう。そこでミラノ大学の建築学部に進学し、同時期にはイタリアのユーモア新聞『Bertoldo』に漫画を寄稿し始めて人気を博すが、差し迫るのは戦争の足音。ファシスト政権による弾圧が強まり、これを逃れべく命からがら手に入れたビザで亡命したのが、アメリカだった。
このような経験が、スタインバーグの表現に反骨精神を宿したのだろう。1940年代、彼は意図的に読みにくいカリグラフィで、偽の書類(卒業証書、パスポート、免許証……)を作成するシリーズに着手するが、そこにはビザ取得をめぐって彼を苦しめただろう役所という権威を嘲笑う姿勢が読み取れる。
そんなスタインバーグは、日本人にも強い影響を与えている。
例えば、和田誠さんは高校生の頃、画集「All in Line」を友達に借りて、全ページを模写したという。その後、多摩美術大学へと進学した和田さんは、興和新薬の蛙のカットコンクールに応募して一等賞に輝くのだが、その蛙にはどことなくスタインバーグの影響が伺える。
同じ興和新薬のコンクールにはもう1人、のちの和田さんとともに、戦後日本におけるグラフィックデザインを牽引する人物も応募していた。横尾忠則さんだ(結果は佳作だった模様)。横尾さんは1967年に初めてニューヨークを訪れた際、自身が手掛けたグラフィックのポスターがすべてMOMAに売れた記念に、現代美術の版画を買おうと決意するが、目をつけたアンディ・ウォーホルの「マリリン・モンロー」はいかんせん高く、代わりにスタインバーグの画集を買ったそう。それを眺め「スタインバーグはイラストレーターのピカソだ思った」という横尾さんは、さらに「僕の中で肉体化している」とも語る。そういえば、田名網敬一さんもスタインバーグへの愛着を語っていたことがあった。もしスタインバーグがいなければ、日本のグラフィックデザインの歩みも今とはまるで違うものになっていたかもしれない。
横尾さんのように、スタインバーグを評価する上で、ピカソを引き合いに出す人は意外と多い。シティボーイの大先輩こと植草甚一さんも、その1人。いわく、「漫画家として名前を売る方法は、一目で彼がかいたのだと直感させるスタイルを工夫し、それにしがみつきながら、おなじスタイルを発展させていくのが一番いいし、常識となってきた。だがスタインバーグは、このルールを無視し、ピカソとおなじ道を歩いてきたのだった」。
実際、スタインバーグは常に進化していた。
『ニューヨーカー』のために描いたイラストだって時代ごとに変貌しているし、描く対象も人間や都市だけじゃなく、文字を使ったものや、キュビズムっぽい抽象的のものまで多岐にわたる。それ以外にも、カリグラフィをやったりコラージュをやったり、ときには紙袋で謎のマスクを作ったり、あるいはイームズ夫妻と椅子を作ったり、多種多様な手法に挑んでいる。であるがゆえに、スタインバーグは漫画家と呼ばれることを拒んだというが、その生き様に感じられるのもまた、ひとつのスタイルに安住して権威になることを拒絶する反骨精神だ。
フライフロント、ヒドゥンボタンカラー、中縫い仕立てのポケット、規則正しく並んだAMFステッチなど、クラシカルなどドレスシャツのユニークなディテールが詰め込まれた比翼仕立てのボタンダウンカラーシャツ。HIDDEN BUTTON COLLAR SHIRTS (Saul Steinberg)¥47,000(OLD JOE FLAGSHIP STORE ☎︎03・5738・7292)
流行り廃りに流されることなく、普遍的な価値を追求する〈OLD JOE〉は、そんなスタインバーグの反骨精神に深く共鳴し、次世代へと受け継ぐべきレガシーを見出したんじゃないだろうか。僕らはそのコラボレーションアイテムを身につけることで、スタインバーグ自身の生き様をも纏うことになるのだ。
© 2023 The Saul Steinberg Foundation/ ARS, New York / JASPAR, Japan E4753
※3月下旬発売予定
インフォメーション
OLD JOE FLAGSHIP STORE
☎︎03・5738・7292
Official Website
https://oldjoestore.jp/
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