TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】ありがとう、さようなら

執筆:三浦透子

2024年10月30日

私たちが働く世界の代表的な挨拶に
「おはようございます」と「お疲れ様でした」
と言うのがあります。

それが朝でなくとも、真っ暗な夜であったとしても、会った最初は「おはようございます」。最後に「お疲れ様でした」。
「お疲れ様でした」は、語尾を「です」に変えることも出来て便利です。もう既に「おはようございます」は言い終わったけど、なんとなくもう一度挨拶をしておきたい人にも、また、直接的に関わりはないがすれ違う時に目があっちゃった、なんて時にも使えます。相手がお疲れになるような仕事をしたかどうかを確認する必要はありません。

「おはようございます」には「おはようございます」と答えれば良いし、
「お疲れ様です」「お疲れ様でした」にも同じように返せば良い。

そこそこ英語の勉強はしてきたけれど、
「ハウアーユー?(How are you?) 」 の答え方は未だにわからない。
聞かれる度に、馬鹿正直にその日の自分の状態を観察してしまう。
I’m…fineではないかな? so-soよりは元気かもしれないぞ、goodぐらいかな。
OKとgoodだとどっちが今のわたしにピッタリかしら?などと考えている間に、挨拶の時間は終わっていて、もう既に次の話題が始まっている。
そう、挨拶なのだから。挨拶をしたい気持ちがあると言うことが伝われば良い。
挨拶が大事だ大事だと言われるだけあって、
皆が困らないようにシステムが構築されているのは凄いことだと思う。

私は劇団などに所属していない野良の子役でしたので、いわゆる業界マナーなどを教わる機会がありませんでした。
だから最初はわからなかった。
あの頃はどうやって挨拶をしていたのだろう。思い出せない。
でも、すごくよく覚えていることがあります。
どうやってだか身につけた「おはようございます」と「お疲れ様でした」を使う私に、仕事をしていて私の現場の付き添いには滅多に来ない母親がある時言いました。

「こんにちは」と「さようなら」でいいだろ、と。

ハッとしました。
確かに!と思ってしまった。
子供なのだから、お疲れ様なんて大人の言葉を使わなくていいとか、そういう母なりの思いがあったのだと思いますが、私はただただ純粋に、確かに不思議な日本語を使い慣れてきた自分が、急に恥ずかしくなった。

今はもう大人ですから、この仕組みにも慣れましたし、もっといろんな業界用語だって知っています。
それに、やっぱり「こんにちは」と「さようなら」はおかしい。
郷に入れば郷に従えです。

言葉は面白い。
How are you?は、直訳すればあなたのどんな状態ですか? 
だけれど、その通りの意味に捉えすぎるから答えに窮するのかもしれない。
言葉そのものの意味だけじゃなく、時間や空間、相手の状態によくよく意識を向ければ、自然と必要な言葉は見つかるはず。

おはやくなくとも、
お疲れでなくとも、
その時の自分の心が一番伝えられる言葉なら全力で使えばいいじゃないかと思う。
言葉の本質は意を伝えること。

相手に心を向けて元気よく
ありがとう、さようなら!

プロフィール

三浦透子

みうら・とうこ|俳優、歌手。1996年、北海道生まれ。2002年、「なっちゃん」のCMでデビュー。第94回アカデミー賞の国際長編映画賞に輝いた『ドライブ・マイ・カー』では、三浦個人としても第45回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ数々の賞を獲得するなど、国内外で注目を集める。近年の主な出演作に、主演映画『そばかす』、ドラマ『エルピス‐希望、あるいは災い‐』をはじめ、数々の作品に出演。歌手としても活躍しており、11月29日(金)には自身初となるワンマンライブ「三浦透子 at Billboard Live TOKYO 2024」が開催予定。