TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】熊1/2

執筆:渡部萌

2024年10月13日

材料を集めないことには、作品が作れないから、早る気持ちで山道を進む。

4年前の秋のこと、私は山形の山の中の砂利道を運転していた。
車で20分ほど登ると湖があり、その脇へ入ると少し開けて、林の横にヘリコプターの着陸場所(確か自衛隊?の訓練用)がある。

以前、茅葺職人について来た場所だ。

群生しているススキの束を大鎌で刈り取る作業を手伝った。
その辺りにアケビの蔓が生えているのを覚えていたので、今度は一人で来た。
かごの材料採集のために、山形に3週間滞在する、その初日。

「たくさん蔓を採らないと仕事にならない……」と、私は焦っていた。

久しぶりにたどり着いた、山の上、誰もいない山に一人でいるのは妙な感じがする。
自分と紐づいているものが無さすぎて、自分を確認できない感じ。
乗ってきた車の中にある私物すらなんだか嘘っぽい。

準備もそこそこに蔓採集をはじめる。
すぐにアケビの蔓が豊富に生えていることが分かり、安堵する。
木々の下を這っている蔓を手繰り寄せて、根元から鎌で刈る。
片手で持ちきれなくなったら丸めて、大きな木の根元に寄せておく。
奥へ平地が続いていて、アケビの蔓を手繰り寄せるごとに、またその先に蔓が延びる。

しばらくするとヘリコプターの騒音が近づいてきて、どうやら着陸訓練が始まった。

薮ごしに屈んだ体勢で作業している私は、向こうから熊だと間違えられて撃たれたりしないだろうかと不安になって、避けるようにさらに奥へ進んだ。

そのあたりから、なんか糞があるなあと思っていた。

プロフィール

渡部萌

わたなべ・もえ|1996年、東京都生まれ。植物素材を採集して、かごを制作している。年に数回の展示会を中心に作品を販売。次の展示会は2025年の夏ごろに愛知県の『MATOYA』にて開催予定。

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