TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】アメリカ人好みの果物とは

執筆:アンダーソン夏代

2024年9月28日

 色鮮やかだけれど、とてもあっさり。それがアメリカのいちごを食べた時の私の感想です。単品で食べるのはもちろんのこと、甘さが邪魔をしないので、カットしてサラダにトッピングし、バルサミコ酢やワインビネガーベースのドレッシングをかけて食べることもあります。お値段が安いと扱いも雑なようで、いちごを購入する時には上だけではなくパックの下からも覗き込み、いちごが潰れていないか傷んでいないかを確認する必要があります。意外なことに糖度が高すぎるとはねられるので、それなら高糖度のいちごをブランド化して出せばいいのにと思うのですが、それはニューヨークなどごく一部の地域でしか出荷しておらず、まだ一般的ではありません。

 アメリカで主流の黄桃は、白桃に比べると果肉が硬めなためかカバーは全くせず、そのまま山積みにされていることがあるので、その光景を初めて見た時は悲鳴をあげそうになりました。ちなみにアメリカの桃は毛羽立ちが少ないので、生食する場合はよく水洗いしたあと、カットして皮ごと食べることが多いです。

 雑な扱いなのはメロンも同様です。夕張メロンのルーツである赤肉種マスクメロンのCantaloupe(カンタロープ、キャンタロープ)は、日本の高級メロンに比べるととても安価で甘さも控え目です。日本でメロンを食べた時は、舌や喉がイガイガするといったアレルギー症状が出ましたが、アメリカのメロンではそのような症状は何故か私は全く出ないので、糖度だけでなく、含まれるヒスタミン量が違うのかもしれません。

 りんごは通年手に入ります。糖度が一番高くアメリカでも人気のFuji(フジ)、生食と加工のどちらにも向いているGala(ガラ)、紅玉並に酸味が強い青リンゴのGranny Smith(グラニー・スミス)などなど甘味と食感で好みが細かく別れ、袋売りのものには5段階程度で甘さの指数と歯応えのレベルが表示されています。

 昨年、ずっと欲しかった糖度計をやっと手に入れたので、嬉しくて本来の目的のジャム用だけでなく、ついでにと果物の糖度を色々と確認しているのですが、確かに日本の果物より全体的に糖度が低めの傾向で、例えばアメリカ産いちごの出荷基準は7度以上で、平均が8.9度です(日本産は9〜11度)。国が違うと、こんなにも好みが違うのだなあと、とても興味深く感じました。

 ですが、例外もいくつかあります。最初に気が付いたのは、アメリカ北西部ワシントン州名産のRainier Cherry(レーニア・チェリー)です。これは、正月のおせち料理に入るさくらんぼに似せた練り切り和菓子のような艶やかなグラデーションの色味が特徴で、日本ではアメリカンチェリーの名前で売られているBing Cherry(ビン・チェリー)よりもさらに甘く、平均糖度が20度あります。

 メロンでは、カンタロープと見分けがつかない赤肉種のSugar Kiss(シュガーキス)。これは平均糖度が13度あり、果肉も柔らかめです(前述のカンタロープは平均値が10度)。

 孫悟空が食べて天界の神仙に怒られたといわれる蟠桃(ばんとう)。これは、土星を意味するサターンピーチやドーナツピーチなどの名前で売っています。平均糖度は15度近くあり、甘さだけなら日本の白桃に引けを取りません。

 Tear Drop(涙のしずく)やMoon Drop(月のしずく)などの商品名で売っている、カプセル状の形をした皮ごと食べられる細長いブドウは糖度が22度以上あり、これだけでデザートを食べたような満足感が得られます。

 これら例外品の共通点は、ほかのものに比べると市場に出回る時期が短く、値段が少し高めなことです。糖度が高い=高級品なのかもしれません。もちろん日本の高級果物の値段には全く及びませんが、それでもたまにこれらを購入する時は、贅沢をしているなあと毎回ドキドキします。

 さらに近頃は、秋になるとApple Pair(アップル・ペア)の名前で梨が出回るようになり、和梨好きの私は大喜びです。洋梨の形と味に慣れ親しんでいるアメリカの方には、りんごのような形の梨にまだ馴染みがないためか、認知度を高めるために安売りされていることが多いので、アジア系食料品店より安く買えることさえあります。アメリカでも売れてほしい気持ちと、人気が出て値段が上がらないで欲しい気持ちを抱えながら、秋口になると再会を喜びながら購入しています。

 日本の果物は糖度が高く繊細な味わいで、値段も相まって加工するのがもったいなく、そのまま食べたいものが多めです。反対に、アメリカの果物はあっさり素朴な味わいでかつお手頃価格なので、アップルパイやピーチプリザーブ(果肉の形を残したジャムのことをプリザーブと呼びます)など、大量に果物が必要な時でも、セールを狙えばかなり気軽に使えます。どうもアメリカの果物は日本のものより甘みを求められておらず、それよりも酸味とのバランスが大事な気がします。 例外を除けばどれも比較的手頃な値段で購入できるので、加工用と生食用を選び分けつつアメリカの果物生活を楽しむ日々です。

プロフィール

アンダーソン夏代

あんだーそん・なつよ|アメリカ南部料理研究家。1974年、福岡県福岡市生まれ。フロリダ州ジャクソンビル在住。ノースキャロライナ州出身の夫との結婚を機にアメリカ南部料理に興味を持ち、研究を始める。
著書に『アメリカ南部の家庭料理』『アメリカン・アペタイザー』(ともにアノニマ・スタジオ/ グルマン世界料理本大賞準グランプリ)、『アメリカ南部の野菜料理』(誠文堂新光社/グルマン世界料理本大賞グランプリ/Gourmand BEST OF THE BEST 25)がある。
『台所のメアリー・ポピンズ』(アノニマ・スタジオ)では、レシピ訳を担当。
新刊は初のエッセイ『アメリカ南部の台所から』(アノニマ・スタジオ)。