TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】鹿島槍ヶ岳縦走

執筆:片岡メリヤス

2024年9月26日

 9月の初めに北アルプスの「五竜岳〜鹿島槍ヶ岳〜爺ヶ岳」へ登山に行った。五竜岳から鹿島槍ヶ岳と言えば、難所のG4、G5、八峰キレットが待ち受けている(Gとはドイツ語で岩尾根を意味するグラートの略で0〜5まである)。ヘルメット推奨の岩場鎖場ハシゴがある上級者コース。白馬の不帰キレットに行ったことがあるから、ある程度経験値はあるものの久々の本格的な急峻な岩稜帯。怖さのレベルがどんなもんかと思いながらも、慎重に進めば大丈夫と自分に言い聞かせる。焦らないことが大切。

 2泊3日のテント泊登山。それは生きるために必要なものを全て背負って移動するということ。私は12kg、Tは14kg、食料は徐々に減っていくけれど重さと共に山を越えて行く。この重さは小屋泊に比べるとかなりのダメージになるけれど、自然の中に身を置くという点では素晴らしい経験を与えてくれる。歳をとって無理だと思うまでは続けたい。

 さあ、重さと共に岩稜帯に挑む。2日目は行動時間が長いから暗いうちに出発。五竜岳までヘッドライトを付けてのナイトハイク。五竜岳までは人が多かったけれど、八峰キレット方面へ入って行くと少なくなる。ザレ場・岩場・鎖場ハシゴをいくつか越えて、集中している間にG4は気付かず通過、G5は通過した後に表記を見つけた。

 怖いだろうと覚悟していたが想像を超えず、意外にもなんなく通過してしまった。どれだけ意気込んでいたのか……、怖がっていたのか……という感じ。八峰キレットも同じで肩透かし感。覚悟して、ビビって、慎重になるとこんなにも良い効果があるのか。知らない場所は怖いに決まってる。行ってみてようやく知ることができる。天候に恵まれて好条件で通過できたのが大きかったと思う。雨だったら岩が滑るし、風は恐怖を煽るし、強風だと身体を持っていかれてバランスを崩すから、晴天で無風だったのは本当に良かった。

 1番嫌だな〜と思ったのは、キレット小屋手前のザレザレの下り。岩場や鎖場より私はザレた下りの方がよっぽど怖い。足元が不安定でバランスを崩しやすいから。

 今回私たちは「五竜岳〜鹿島槍ヶ岳〜爺ヶ岳」のコースで行ったけれど、逆ルートから登る人の方が多いらしい。確かにコースタイムを見ると、爺ヶ岳から行く方が時間が短い。それは下り基調だからだ。

 でも、私たちが五竜岳から登ったのは理由がある。第一に私は下りが苦手。しかも登り基調のコースの方がタイム通りに行けるし足を壊すリスクも少ない。序盤の元気なうちにG4とG5を通過した方が楽だという考えもあった。この判断が素晴らしかった。最後まで足が意志を持って歩けたし、心も折れなかった。逆ルートで行ってたらこんなに順調に歩けなかったかもしれない。

 自分の特性を知る事の大切さ、それに合わせたコースを選ぶこと。山は、身体面も精神面も自分のことをたくさん教えてくれる。

プロフィール

片岡メリヤス

2011年から作家活動を開始。飾るだけではなく遊べて愛のあるぬいぐるみを制作する。また自ら脚本出演も行うオリジナルの人形劇を各地で上演しているほか、漫画、ドローイング、木工、粘土など様々な作品を手掛ける。近年は異ジャンルのアーティストとのコラボレーションや広告への作品提供など幅広く活動中。

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