TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】異国で独自進化?する日本料理

執筆:アンダーソン夏代

2024年9月21日

 近年、日本のラーメン屋、うどん屋、定食屋チェーンなどが海外進出し、寿司以外の日本料理も海外の方に知られるようになりました。アメリカの大都市では、目が飛び出そうな値段はしますが、日本で食べるのと遜色ない本格的な日本料理を出す店や、品揃えの良い日系スーパーには日本でも馴染みのある店のフードコートもあるので、その近辺にお住まいの方にはとてもありがたい存在だろうと思います。

  一方、アメリカの田舎には自称日本料理店はたくさんあれど、そもそも日本人経営の店そのものが非常に少なく、店員に一人も日本人がいないことはざらにあります。さらにそういった店では、日本では見かけない不思議な料理が出てきます。

 まず、吸い物や味噌汁には、れんげが付いてきます。添えられているのではなく、お椀の中に最初から突っ込んであります。すまし汁の場合、具材は薄切りのマッシュルーム率高めです。

 映画『ブレードランナー』の世界観を彷彿とさせる、店内にネオンサインがある日本料理店を訪れ大好物の揚げ出し豆腐を頼んだら、厚揚げ風の豆腐に赤味噌ベースの甘味噌を添えたものが出てきたことがあります。先日食べたものは一口大に揚げた豆腐に、天つゆが添えてありました。まあ、これはこれで食べやすかったです。

 照り焼き味は定番人気で、照り焼きチキン、照り焼きビーフ、照り焼きサーモン、照焼きシュリンプ、照り焼き豆腐、照り焼きベジタブルなど、それは照り焼きと呼んでいいのか?という感じですが、味の想像がつきやすいのでこのように分けられています。照り焼きは日本語の借用語でそのままTERIYAKIと呼びます。

 アメリカのTERIYAKIは、ワシントン州のシアトルスタイルやハワイ州のハワイアンスタイル(ともに、鶏モモ肉を使った漬け焼きの照焼きチキン)などを除き、玉ねぎ、ズッキーニ、マッシュルームと一緒に炒めた甘辛野菜炒めで、炒飯か焼きそば風の中国の麺料理、Chow Mein(チャオ・メイン、炒麺)、そしてすまし汁のセットがスタンダードです。焼きそばを単品で頼むと、炒めた蕎麦がでてくることもあります。

 上述と同じ具を鉄板で調理したものはHIBACHI(ヒバチ)と呼ばれ、鉄板焼きレストランへ行くと、テーブルの中央に巨大な鉄板が設置してあるグループ席へ案内されます。注文後、かっぱ橋道具街の入り口にある巨大なコックさんと同じ姿の料理人が、材料を乗せたカートと共に登場。調理器具をクルクルと回しながら華麗なパフォーマンス付きでメインの具と野菜を炒めてくれます。ここでお好み焼きを焼いて欲しいなあと思っていますが、まだお好み焼きは一般的ではありません。寿司&中華料理の食べ放題店へ行くとHIBACHIコーナーがあり、客は好きな具材とソースを選んでその場で調理人に炒めてもらいます。見る度に、日本で一時期流行った日本風モンゴリアンバーベキューにそっくりだなあと思っています。
この(↓)写真の料理は、持ち帰り用で作ってもらったHIBACHI シュリンプ&ビーフで(下のごはんは炒飯)、これが甘辛味に変わるとTERIYAKI シュリンプ&ビーフになります。

 セットのサラダには、すりおろしの人参と生姜が入った謎のジャパニーズスタイルドレッシングがデフォルトでかけられています。これは、独自の日本料理を展開してアメリカだけではなく、世界中で大成功を収めた鉄板焼きと寿司の店、BENIHANA(ベニハナ)のサラダドレッシングがルーツといわれています。上述のHIBACHI呼びもこのレストラン発祥説があり、強烈な影響を与えたんだなあと思いつつも、どこかで訂正する機会はなかったのだろうかと突っ込みたくなります。

 カリフォルニアロールを初めとした裏巻き寿司は、アメリカの方が寿司と聞いてイメージするものの大定番です。テンプラクランチと呼ぶ天かす(揚げ玉)と、カリカリに揚げたシャロットを裏巻きの寿司に散らし、上からうなぎのたれをかけたものは食感が楽しい上に美味しく、面白い独自進化です。
裏巻きにマグロ、サーモン、アボカド、茹でエビを乗せたレインボーロールは色鮮やか。全体的に色彩色豊かな方が好まれるのかも知れません。

 スーパーのアメリカ寿司コーナーでパッケージにSpicyと書いてあるものは、わさびではなく、ニンニク入りの唐辛子ソース、シラチャーを使ったものです(わさびは別添え)。白米ではなく玄米を使った裏巻き寿司や、水分少な目の天ぷら用の衣をくぐらせたて油で揚げ、うなぎのたれをかけた天ぷら寿司なんてものもあります。これは日本ののり巻きなどではなく、サーモンとクリームチーズを巻いたフィラデルフィアロールといったアメリカ寿司と相性が良く、子どもや食欲が無限にある食べ盛りの学生にも受ける味なので、日本の廻る寿司屋に是非とも逆輸入してもらいたいです。

 自称日本料理専門店以外にも、タイ料理やアメリカ風中華料理と一緒にアメリカ寿司を出しているレストランもあります。近頃は日本のバブル時代のような真っ青なド派手な寿司屋も増えました。どこも内装はおしゃれでテーブル席だけでなくカウンターがあり、老眼ではメニューが見えない程店内が暗かったりしますが、異国料理をおしゃれに出したいというのが優先順位のようです。

 ですが、別に文句をいいたいわけではありません。日本でも異国料理は日本風にアレンジされているので、それを行っているのと同じです。渡米当初はSUSHIポリスよろしく「何だこれ!」と思っていましたが、今は郷に入っては郷に従えの精神で 「あーなるほど、こういう料理もあるかもね」くらいの穏やかな心持ちです。

 ちなみにこういったアレンジはハワイ料理にも施され、ハワイのローカル料理であるPOKE(ポケ、ポキ)がアメリカ本土にも進出して現在流行っているのですが、生食用のマグロやサーモンに下味は付けておらず、酢飯の上にサブウェイよろしく自分で選んだ具材を乗せてもらい、お好みの味のタレ(ソース)をかけて食べるスタイルで提供されています。

 ハワイの方にはどう受け止められているのかは分かりませんが、個人的にはハワイ生まれアメリカ本土育ちの海鮮丼扱いで気に入っており、日本のフードコートにあっても良さそうなんだけどなあと思っています。

プロフィール

アンダーソン夏代

あんだーそん・なつよ|アメリカ南部料理研究家。1974年、福岡県福岡市生まれ。フロリダ州ジャクソンビル在住。ノースキャロライナ州出身の夫との結婚を機にアメリカ南部料理に興味を持ち、研究を始める。
著書に『アメリカ南部の家庭料理』『アメリカン・アペタイザー』(ともにアノニマ・スタジオ/ グルマン世界料理本大賞準グランプリ)、『アメリカ南部の野菜料理』(誠文堂新光社/グルマン世界料理本大賞グランプリ/Gourmand BEST OF THE BEST 25)がある。
『台所のメアリー・ポピンズ』(アノニマ・スタジオ)では、レシピ訳を担当。
新刊は初のエッセイ『アメリカ南部の台所から』(アノニマ・スタジオ)。

インフォメーション

アンダーソン夏代×三浦哲哉 「自分の台所をいかに作り、いかに愛するか〜アメリカ南部と日本の台所から」 『アメリカ南部の台所から』(アノニマ・スタジオ)刊行記念 『自炊者になるための26週』(朝日出版社)重版記念

アンダーソン夏代さんと三浦哲哉さんのイベントが本屋B&Bにて開催! オンラインでも視聴可能。

日時:2024/09/25(水)19:30~21:30 (19:00オンライン開場)

開催場所:本屋B&B 世田谷区代田2-36-15 BONUS TRACK 2F、オンライン配信

Official Website
https://bookandbeer.com/event/bb240925a/