From Editors
別解だらけのチープシック。
2024年9月8日
みなさん、新紙幣ってもう見ましたか。僕はまだ新しい顔に慣れなくて、千円札と一万円札を間違えてしまいます。まだ財布に一万あるから大丈夫、と思ってたら千円札だった……なんてガッカリすることも。だって、北里柴三郎の方が一万円顔で、渋沢栄一の方が千円顔じゃないですか? 髭のせいでしょうか。北里さんのほうが威厳があるというか、自信に満ちている気がします。渋沢さんは一万円にしては、どこか不安げな面持ちです。この二つを取り違えると、思わぬ出費に後悔しかねません。
千円札と一万円札を取り違えた人にも、取り違えてない人にも、おすすめしたいのが今回の特集です。名著『チープ・シック』。「お金も時間も無駄にせず、おしゃれを楽しもう」と説いた本ですが、その2024年版をポパイなりに作ってみようじゃないか、というのが今回の一冊です。
この4月に新入社員としてポパイに配属された、つまりヒヨッコ編集者であるところの僕は、原著『チープ・シック』を読み込むところからスタートです。追加改訂版『CHEAP CHIC UPDATE』も神保町の小宮山書店で購入。こちらは日本版が未発売なので、英語の誌面から雰囲気をつかむことでOKとします。
これが本当におもしろい本で。片岡義男さんの翻訳も相まって、まったく堅苦しいところはないんですが、なかなか哲学的。じっくり読むほど「チープシックってなんなんだ?」と疑問が湧いてきます。ノームコアやミニマリズムの考え方とも似ているようだけど、そのどれとも違う。もっと創造的で、色彩豊かで、パンクな精神が、この本には通底しているように思えます。
一冊通して共通する思想はありつつも、10人以上のインタビューが収録されているだけあって、そのスタイルはさまざま。ファッションに対する各人の考え方も細部では異なり、チープシックの多様さをあらためて感じます。
どんなものが「チープ(安価)」と言えるのか。何が「シック(おしゃれ)」なのか。自分にとっての「答え」に至るためのヒントが『チープ・シック』には溢れています。そして、今号のポパイもそういう一冊になっていると思います。
最後に余談を。「長く愛用できるものをワードローブに加える」というのが『チープ・シック』で繰り返し説かれる教えなわけですが、この特集を校了して、僕が最初に買った洋服がこちらです。
なんというかこう、前面にアヒルが5羽もいると勢いで購入したと思われるかもしれませんが、僕にとっては本物のチープシックな一着なんですよ。『CHEAP CHIC UPDATE』にはこんな金言が書かれています。“ファッションは「me too(私も)」と言い、スタイルは「only me(私だけ)」と言う”。これはかなり「only me」なジャケットではないでしょうか。あなたのチープシックな一着はなんですか?
(本誌担当編集)米山 然
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