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あらためて遊歩大全 Vol.1/設計図編

出発する前の5つの要点。

2021年6月3日

photo: Hiromichi Uchida(Book)
composition: Kyosuke Nitta
cooperation: Kazuhiko Kai
2014年12月 812号初出

 舞台は1960年代後期のカリフォルニア。ベトナム戦争への厭戦ムードが高まり、反社会運動のボルテージが沸点に達していた1968年に、コリン・フレッチャーが『The Complete Walker』を上梓。

 まったく新しい発想での自然回帰・ウォーキング哲学は余剰エネルギーが溢れていたヒッピーの足をウィルダネス(=大自然)へと向け、全米でベストセラーとなった。その後、著者の想像をはるかに超えた反響を受け、1974年に改訂版として『The New Complete Walker』が登場。

 これが芦沢一洋による熱のこもった言葉で翻訳され、1978年に出版されたのが『遊歩大全』。これが火付け役となり、日本でも空前絶後のバックパッキングブームが巻き起こった。

遊歩大全

 1978年に発行されてから、山を歩いて旅する者たちのバイブルとして根強い人気を誇る『遊歩大全』。シティボーイたるもの、荒野を歩く前に読まないとマズい! とはいっても、復刻した文庫版もやっぱり分厚い。976ページって……。でも、ご安心あれ。POPEYEがこの長旅をギュッとまとめて、目次順に解説します。まずは『Plan 設計図』から。

物の質より、選ぶ目が大切。-

 この本は「私自身の経験から生まれたフルスケールの『家』について、その詳細を話す」としている。つまり、コリンの徹底した主観によるギア紹介である。バックパッキングという行為自体に客観的基準などなく、大切なのは製品の良否よりも、「あなた自身の選択の目」と力説。トライ&エラーから、体で納得してほしい、と。その上で、『ラスト・ホール・アース・カタログ』など役立つ文献を挙げつつ、読むこと自体が目的にならないようにと注意を喚起。

– 装備品を揃える。

 最も大事なのは重量の問題。ルールは、 1.必要だと思ったものは持っていくこと。 2.あらゆる用具の重さをぎりぎりまで削り落とすこと。荷の重さは体重の3分の1までに。値段は無視するのがベスト。迷ったら大自然にいる自分の姿を思い浮かべ、安物買いしたために旅が台無しになり得ることを考える。寝袋のように直接生命にかかわる大事なものは、できるだけよいものを。用具は日数、時期と場所、天候によってトリップごとに決定するが、すべての条件をカバーする完璧なチェックリストを作り、コピーを2部とっておくべき。

– 体を慣らすこと。

 出発の1〜2週間前からバックパックを背負って歩き、気軽に慣らし運転をするといい。適当な丘まで行ってランチをしたり、木陰で仕事をしたり。高所を歩く旅では、トレイルヘッドで2晩、十分に寝てからスタートしないとつらい目にあう。

– 1日にどのくらい歩けるか?

 距離を引き合いに出すのはナンセンス。考えるべきは“時間”。問題は歩くペースだが、機械的に数字を出すだけでは不十分。人間の意志の弱さを加味しなければならない。惰性とか、他人に言えないこととか、いろいろあるのだから。

– 計画を信頼できる人に伝える。

 国立または州立のパークやフォレストに行く際は、現地のレンジャーに旅のスケジュールや歩行のルートを紙に記載して提出する。万が一の事態では生命の危機に立たされることもあるからだ。帰りの日時も伝え、何としてでも守ること。

遊歩大全
1987年には上下2巻が1冊(左)に。その後に絶版となり、入手困難な状態が続いたため“伝説のバイブル”と呼ばれていたが、2012年に山と渓谷社より文庫版(4・厚さ3.5㎝。¥2,200)が登場した。(右)