TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】量子力学の説明に入るまえに。

執筆:野村泰紀

2024年8月14日

 皆さんは量子という言葉を聞いたことがあるでしょうか?「りょうこ」ではありません、「りょうし」です。

 実は、この量子というのは、世界を理解するためのキーワードなのです。具体的には、私たちの住むこの宇宙は、物理学で言うところの量子力学(りょうしりきがく)というルールに基づいて動いています。

 物理学や量子力学などと言うと、何か日常の世界と全く関係のない話のように思われるかもしれませんが、私たちの身の回りにあるほぼすべてのテクノロジー、パソコンや携帯電話、テレビや医療器具なども、この量子力学なしでは作ることができません。

 しかもこの量子力学、私たちの感覚とは相いれない「パラレルワールド」などの存在とも関係しているうえ、「量子コンピューター」や「量子テレポーテーション」などの、世界を変革してしまうかもしれない次世代のテクノロジーの基礎ともなるものなのです。

 なので、シティボーイたる皆さんにおいては、量子力学が何たるかをその概要だけでも知っておくべきだと考え、本コラムの執筆を引き受けた次第です。もちろん、飲み会等で小話として使うことも可能です!(しかしやりすぎるとただのウンチク野郎になってしまうので、それは注意してください)

 しかし第1回目の今回は、量子力学の説明に入るまえに、私自身が何者なのかについて少しご紹介させて頂こうと思います。

 私は、量子力学や相対性理論(聞いたことはあるでしょうか?)、またそれらをもっと推し進めた理論を研究している理論物理学者です。

 個人的には、24年前に日本の大学で博士号を取った後、アメリカに渡り、それ以降現在までそこで暮らしています。今はカリフォルニア大学バークレー校という、カリフォルニア州サンフランシスコの郊外にある大学で、物理学の教授として勤務しています。

 理論物理学者というと、日々どんな暮らしをしているのかあまり想像できないかもしれませんが、基本的には新しい理論的な発見をして、それを論文のかたちで発表することが仕事です。

 そのために、日中は同僚の研究者や学生たちと議論をしたり、いろいろな論文を読んだり、セミナーと呼ばれる新しい研究成果が発表される会に参加したりして、知識を最新のものにアップデートしています。そして、夜は大体それらの結果を確かめたり、まだ調べられていない新しい可能性を探ったりするための、いろいろな計算に取り組むことが多いです。

 もちろん大学の教員でもあるので、それ以外にも講義をしたり、教授会や学内委員会など、大学の運営にかかわる仕事をしたりもします。また、科学研究費を取ってくるための申請書を書いたり、他の研究者からの申請を審査したり、といった仕事もあります。

 アメリカの大学では、一年の年度は秋に始まり、春の終わりころに終了します。ですから、夏の間が大学の雑務に煩わされることなく研究に集中できる期間ということになります。

 私の場合、ここ数年間は、この夏の時間を利用して、日本の理化学研究所という研究機関にお邪魔して、日本の研究者等とも交流しながら研究を推進するということをしています。理化学研究所には様々な分野の研究者が一堂に会しているので、とても刺激的な研究環境を提供してくれています。

 最近、私もYouTubeや、日本のテレビ、ラジオなどで物理学の話をする機会が増えましたが(ご興味ある方はぜひネットで検索してみてください!)、それもこの理化学研究所が夏の日本滞在を手配してくれたことによる結果だと言えます。

 さて、次回からはいよいよ、シティボーイとして知っておくべき量子力学の正体の話に入っていこうと思います。

プロフィール

野村泰紀

のむら・やすのり|物理学者。1974年神奈川県生まれ。理学博士取得後渡米し、現在はカリフォルニア大学バークレー校教授。直近の著書に、YouTubeチャンネル『ReHacQ─リハック─』での配信を元にして書籍化した著書『なぜ重力は存在するのか 世界の「解像度」を上げる物理学超入門』がある。

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https://twitter.com/YasuNomu1