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二十歳のとき、何をしていたか? 特別編/酒井高徳

2024年6月14日

photo: Yoshiki Okamoto
text: Keisuke Kagiwada

プロ初ゴールに始まり、
酸いも甘いも噛み分けた
“初体験尽くし”の二十代。

 現在、ヴィッセル神戸に所属する酒井高徳選手は、激動とも言える二十代を駆け抜けてきた。当時を振り返る言葉の節々から伝わってきたのは、楽天がスポーツ事業の分野で掲げる「スポーツとともに、もっといい未来へ。A BETTER FUTURE TOGETHER」とも通じ合うメッセージだ。

ドイツでの日々に学んだ
主張することの大切さ。

 2011年10月1日、対横浜Fマリノス戦を1-0で迎えた後半14分。アルビレックス新潟の酒井高徳選手がミドルシュートで放ったボールは、GKの手をすり抜けてバーに直撃した後、ゴールライン内に落ちた。これがプロとしての初得点となった酒井選手は、当時二十歳だった。

「若いながらも試合にはよく出させてもらっていたんですよ。だけど、全然活躍できなくて。『チームの力になれてないな』という思いが強い中、自分の存在意義を証明するきっかけになったので、あのゴールはよく覚えています」

 かくして幕を開けたのは、初体験尽くしの二十代だ。このゴールの2ヶ月後、ドイツのプロリーグ、ブンデスリーガのVfBシュトゥットガルトへ移籍が発表されたが、新潟の生え抜きの選手が欧州のクラブに移籍するのはこれが初。やっぱりヨーロッパでプレイすることは幼い頃からの夢だったのだろうか。

「いや、全然(笑)。海外を意識し始めたのは、日本代表に選ばれてからですね。国際試合を重ねるうちに、『海外の選手と試合するのは楽しいな、日本国内でサッカーをしているのとは違うな』って興味がみるみる湧いてきたんです。だから、代理人を通じて移籍の話が来たときは、即答でしたね。その頃、僕はすでに結婚していましたが、妻には『来週くらいからドイツに行く』って感じでした(笑)」

 渡独後の日々を「毎日楽しかった」と振り返る酒井選手。とりわけ欧州流のコミュニケーションは「のちの人生観を豊かにしてくれたと思います」と語る。

「日本は空気を読むことが美徳だったりするじゃないですか。だけど、向こうは良いことも悪いこともはっきり言う。逆に意見できなければ、生きていけません。国籍も年齢も問わず、思ったことは言うし、フラストレーションが溜まったらぶつけるのは当たり前。ただ、すごいなと思うのは、練習なり試合が終わると、何事もなかったかのように接するんですよ。ドイツに行って、そういうすごく人間味のあるコミュニケーションを学べたのは非常に良かったと思います」


AT THE AGE OF 20


©J.LEAGUE/ゲッティイメージズ

本文の冒頭でも語られた、念願の初ゴール後の1枚。「今でもときどき当時の映像を見直すんですが、喜び方がめちゃくちゃダサいんですよね(笑)。点を取った瞬間、監督のもとに走っていって、抱きついているんで。それは若い頃から試合に出し続けてくれて、失敗も受け入れてくれた監督と、一番最初に喜びを分かち合いたかったってことなんでしょうね」と酒井選手。

個人としての夢の終わりとともに
選手人生の第二章が幕を開ける。

 その後、25歳でハンブルガーSVに移籍した酒井選手は、ブンデスリーガ史上初の日本人キャプテンに任命される。しかし、喜ばしい”初”もあれば、悲しい”初”もあるのが人生だ。キャプテンとして迎えた2年目、ハンブルガーSVは史上初の二部リーグ降格となってしまう。

「悲しかったし、できれば起きてほしくなかったと今でも思います。だけど、僕を含むピッチに立っている選手は、最後の試合の笛が鳴るまで全力でやりました。全部出し切ったので、その意味では後悔はないですね。実はそのシーズンで契約は満了で、あとのことは終わってから考える予定だったんですよ。だけど、降格が決まった試合後のインタビューで『どうするんですか?』と聞かれ、言ってしまったんですよね。反射的に『残ります』って。誰にも相談してなかったので、あとですごい怒られましたけど(笑)。偽善でもなんでもなく、やっぱりこのままじゃ終われないって思ったんです」

「ただ」と酒井選手は言葉を継ぐ。「次のシーズンで昇格できなくて、サポーターに戦犯扱いされてしまったんですよ。『お前がいたから昇格できなかったんだ。もう必要ない』って」。

「結果主義のこの世界では、どれだけチームのことを考えて尽くしてきても、意味がないように思えてしまったんですよね。当時はもう30代目前だったし、選手として終盤に差し掛かる中、日本に置いてきた家族のことも考えなきゃいけない。だったら、選手としての価値をしっかり評価してもらえるチームで、モチベーションを持ってプレイする方がいいんじゃないか。そんなことを考えているとき、ヴィッセル神戸から移籍の話が来て、ビジョンを含め自分も力になれるかなと思ったので、日本に帰ることにしたんです」

「世界に勝負を仕掛けることを諦めたとも言えるかもしれません」と酒井選手は言う。しかし、それはネガティブなことではなく、選手人生としての第二章の始まりを意味していた。

「やっぱりヨーロッパのリーグで戦っていると、チャンピオンズリーグに出るとか、5大リーグのトップチームに移籍するってことを、すごく意識するんですよ。だから、純粋に上を目指していたし、しっかり活躍して、結果と名前を残して、世界で自分をアピールしたいって思いが強かった。だけど、日本に帰って以降は、自分の夢を追いかけるのではなく、ヴィッセル神戸として目指している夢に、どれだけ貢献できるかを考えるようになりました」

 結果、移籍した当時は降格争いをしていたヴィッセル神戸を、初のJ1リーグ優勝に導いたのは、2023年シーズンのこと。第二章が始まっても、まだまだ”初体験”は続きそうだ。

「そうですね。去年の優勝は自分自身にとっても初のタイトルでしたから。今後はひとつでも多くのタイトルを増やしたいです」

そんな酒井選手には、ピッチの外でも大事にしていることがあるという。それは楽天がスポーツの分野で掲げるコンセプト、「スポーツとともに、もっといい未来へ。A BETTER FUTURE TOGETHER」とも響き合うものだ。

「こういうインタビューもそうですけど、選手としての自分の意見をちゃんと表明していくのは、すごく大事だなって思います。誰かが声を上げなきゃ始まらないことって世の中いっぱいあると思うので。とはいえ、それには練習が必要だと思うんですよ。さっきも言ったように、日本人はただでさえ空気を読んでしまうのに、今は自分の意見を言いにくい社会にもなってきていますから。僕自身、ドイツに行かなければ、今のようにできていたかわかりません。だから、若い人にはどんどん世界に出て、いろいろなものを吸収し、日本の未来に繋げてもらえたら。自分はサッカー選手としてドイツで学んだことを通して、その素晴らしさを伝えていきたいなと思っています」

 ところで、楽天では、「スポーツとともに、もっといい未来へ。 A BETTER FUTURE TOGETHER」をテーマに、「Green for Future」という活動指針に基づき、持続可能な社会を目指して取り組んでいる。今月からヴィッセル神戸ホームスタジアムのノエビアスタジアムでは酒井選手によるごみ分別啓発動画も放映されており、ヴィッセルファンに向けて環境への配慮を訴えるアクションを楽天とともに行っている。これからもスポーツを楽しめる豊かな環境を持続するため、サッカー選手として注目している取り組みなどはあるのか。最後に聞いてみた。

「難しいですね……(笑)。あ、最近、人工芝の下に雨水を貯めて、その水蒸気で表面の温度を下げる仕組みについて、説明を受けたんですよ。それを導入するだけで、温暖化対策にもなるし、夏場の熱中症対策にもなるそうです。オランダの技術なんですが、一昨年くらいに改装されたレアル(・マドリード)のスタジアムの天然芝の下にも使用されたと聞きました。サッカーを通じても、環境問題に関してできることはあるんだと気付かされたし、素晴らしい取り組みだと思いました」

プロフィール

酒井高徳

さかい・ごうとく|1991年、アメリカ・ニューヨーク州生まれ。10歳でサッカーを始め、三条サッカースポーツ少年団、レザーFSジュニアユースを経て、2006年にJAPANサッカーカレッジ高等部に進学し、開志学園高等学校に籍を置くとともに、アルビレックス新潟ユースに入団。その後、渡独し、ブンデスリーガのVfBシュトゥットガルト、ハンブルガーSVを経て、現在はJリーグのヴィッセル神戸所属。

取材メモ

どんな質問にも、誠実に答えてくれる姿が印象に残った。二十代でやるべきことはすべて経験してきたかに見えるからこそ、「やっておけばよかったこと」を聞いてみると「遊び」と酒井選手。「若い頃からサッカーをやっていたんで、あんまり遊んでいないんですよ(笑)。やっぱり青春時代って一度きりなので、節度を持ちつつ遊び、残りの時間は語学を学んだり、未来の自分への投資に当ててほしいですね」。

イベント情報

Rakuten SUPER MATCH

6月16日(日)に国立競技場にて行われる「ヴィッセル神戸」のホームゲーム「明治安田J1リーグ 第18節 ヴィッセル神戸 対 川崎フロンターレ」を、「Rakuten SUPER MATCH」として楽天グループ株式会社が冠協賛。この試合では、「スポーツとともに、もっといい未来へ。A BETTER FUTURE TOGETHER」をテーマに、「Green for Future」と「Sports for Everyone」の2つの活動指針に基づき、持続可能な社会と、すべての人がスポーツを楽しめる世界の実現に向けたアクティベーションが展開される。

日程:2024年6月16日(日)14:00キックオフ
会場:国立競技場(東京都新宿区霞ヶ丘町 10-1)
対戦カード:明治安田J1リーグ 第18節 ヴィッセル神戸 対 川崎フロンターレ

イベント情報
https://corp.rakuten.co.jp/event/betterfuturetogether/supermatch/

楽天グループ「スポーツとともに、もっといい未来へ。A BETTER FUTURE TOGETHER」について
https://corp.rakuten.co.jp/event/betterfuturetogether/